日本人の約4割が加入しているといわれる、がん保険。「掛捨型」は払い損というイメージの強さから、「貯蓄型」のがん保険を選ぶ人もなかにはいます。本記事では、「がんにならなかったら払った掛け金が全額戻ってくる」という一見、魅力的ながん保険に加入した女性の事例をCFPの谷藤淳一氏が解説します。
介護離職の元金融・41歳女性…生活苦で「貯蓄型がん保険」解約も「まさか自分が大腸がん」の悲劇【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

1.月々の負担が高額

まず原則的な話しですが掛捨型と貯蓄型を比較すると、がんになってしまったときの保障の内容が同程度であれば、貯蓄型がん保険のほうが、月々の支払いの負担(保険料)は高額となります。毎月の保険の負担(保険料)が高額になるのは嫌だ、と思う人は多いかと思いますが「貯蓄型ならいいかな……」と感じる方も少なからずいらっしゃいます。まさに佐藤さんもそうでした。

 

ただこれくらいの金額なら払えるという見積もりは、あくまで保険に加入する時点でのもの。長く生きていれば、今回の佐藤さんのように、家計状況が急変することもあり得ます。今回の佐藤さんの事例において、佐藤さんへがん保険を提案した担当者が、そういったところまでイメージできるような注意喚起をしていたとしたら……。違った選択をした可能性もあったかもしれません。そして大腸がんの治療を始めたときには「がん保険に入っておいてよかった」と思えたかもしれません。

 

2.がん治療の実態の変化

佐藤さんが、仮に父親の介護などの経済的な負担が無く、がん保険を長く継続できていた場合においても、貯蓄型がん保険の選択が合理的ではない理由があります。それはがん保険は入ったらおしまいではないということです。佐藤さんの貯蓄型がん保険は、70歳までの30年間、がん保険を継続するということが前提でした。

 

がんはいまだにわからないことも多く、世界中で新しい治療方法や薬の研究が行われている病気です。がん保険加入から長い時間が経過している場合、途中でがん治療のトレンドが変化し、自分が加入しているがん保険では、がんになってしまったときに最新のがん治療に対応できない(お金を受け取れない)可能性があります。がんになって保険会社に請求をしたときに「これしかお金を受け取れないの……?」ということが起こり得ます。

 

日本で初めてがん保険が販売されたのが、昭和49(1974)年ですが、少なくとも当時から現在に関していえば、がん治療の現場では大きな変化が起こっており、おそらく今後もその流れは変わらないでしょう。そのため、がん保険に加入したら、自分のがん保険の内容とその時代のがん治療の実態にズレが無いかどうか、定期的にチェックしていく必要があります。そして、そのズレが大きくなっているようであれば、解約して新しいものに入り直すなど、見直しを考えていくことが非常に重要です。

 

つまりがん保険は、常に解約の可能性があるということです。ですから、がん保険において貯蓄型の保険の選択には、合理性が無いということがいえます。

 

いまみてきた貯蓄型がん保険が解約に至りやすい2つの理由ですが、がんをよく知る保険の担当者であれば、がん保険の相談のなかで必ず伝えるべきものですが、今回の佐藤さんの事例においては、そこが語られたとは考えにくい結果となっています。