ウッドショック、そしてロシア・ウクライナ戦争に端を発したエネルギー不足。さらに中国の不動産業界の危機により、ある原材料に不足懸念があるといいます。みていきましょう。

世界のセメント生産量が前年比マイナス8%に

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コロナ禍移行、世界的な原材料不足問題が頻発しています。特に話題になったのは、林業の雇い止めや物流網の停止の影響で起こったウッドショックと、ロシアへの経済制裁に端を発するエネルギーインフレです。特に後者は現在も根本解消に至っておらず危機の最中ですが、さらなる原材料危機が訪れようとしています。それが「セメント」です。

 

建設業界、特に商業不動産や集合住宅の建造時に大量消費されるセメントの生産量が、近年急速に減少しています。2022年の上半期、世界のセメント生産量は、前年比マイナス8%に減少し、19億トンになりました。特に世界最大の生産地である中国での生産量の原因が著しく、同期間の減少率は15%を上回っています。WCA(World Cement Association:世界セメント協会)のCEO、イアン・ライリー氏によると、中国の生産量減少幅はこの20年で最大のものとのことで、深刻な供給不足に陥っています。

 

中国のセメントセクターは、2022年下期には生産量が回復する見込みと発表していますが、不安材料はまだまだ多く、鵜呑みにはできない状況です。

最大の生産国であり消費国の中国で、深刻な需要低迷

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セメント生産量が減少したそもそもの原因は、中国不動産業界の不振による需要減です。中国は世界最大のセメントの供給国であると同時に、最大の需要国でもありました。人口の多さと急激な経済発展、投資マネーがもたらした建築ブームにより、大量のセメントが消費されました。過去には中国が3年間に使用するセメント量は、アメリカが101年間で使用した量を超えているという趣旨の推算をした学者もいたほど、凄まじい量のセメントを消費していたのです。

 

しかし、恒大集団のデフォルト危機が記憶に新しいように、中国の不動産ブームは暗礁に乗り上げています。中国の建築着工件数は2022年4月以降、毎月40%以上のペースで減少。さらに、資金繰りの悪化により、着工後に中断しているプロジェクトも多数あります。この影響で、中国国内のセメント需要も急速に低迷しました。

 

さらに、ゼロコロナ政策による各地のロックダウンや、豪雨被害の影響も重なったことでセメント生産量は急速に減少。マーケットリーダーである安徽海螺水泥(アンホイハイロースイニー)、華潤水泥控股(チャイナ・リソーシズ・セメント)の2社の株価も大きく低迷しました。

政府支出により回復を目指すも、先行きは明るくない

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回復に向けた見通しとしては、政府支出による不動産セクターの救済があります。中国当局は8月末に3,000億人民元(440億ドル)規模の景気刺激策を発表しており、内訳は不明ながら不動産セクターの強化にも少なくない金額が投じられると見られています。また、財政部は地方特別債の増発枠3兆6,500億元の起債を6月末までに基本的に完了し、8月末までには投資を実行するよう地方当局に要請しており、こちらの財源の多くも不動産セクターに用いられたとセメント・セクターが発表しています。

 

しかし、これらはあくまで「救済」であり、破綻寸前の不動産業界を軟着陸させる手立てでしかありません。中国不動産のリスクを知った外国人投資家の多くは資金を引き上げるでしょう。また、別の記事でお伝えしたように、中国の人口が2022年内に減少に転じることが分かっています。つまり需要も徐々に減少していく未来が見えているのです。

 

中国のセメント・セクターが、今後も国内需要を中心に考えて生産量を決定するのであれば、世界のセメントの供給量はさほど改善しないかもしれません。そのとき、どのようにして原材料を確保するのか、備えが必要です。

本記事は、富裕層のためのウェブマガジン「賢者の投資術」(Powerd by OPEN HOUSE)にて公開されたコラムを、GGO編集部にて再編集したものです。