「別居」が起きるのは、大きく次の2つの場合があります。ひとつは、「もう耐えがたい」という感情的な別居。もうひとつは計画的な別居。法定離婚事由としての破綻が必ずしも成立していない場合に、裁判に移行することを視野に、別居という補強事実を加えるための行為です。そこでトラブルになりがちなのが「婚姻費用」、そして「子どもの連れ去り」。世田谷用賀法律事務所の代表、弁護士の水谷江利氏が解説します。
離婚の前に夫婦別居…気を付けたい「婚姻費用」と「子どもの連れ去り」【弁護士が解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

見直された婚姻費用、実際の金額はどのぐらいなのか

婚姻費用には、養育費と同様、裁判所の「算定表」があるのは有名かと思います。算定表は、夫婦双方の年収をもとに、適正な費用を求めるためのものです。

 

離婚前の婚姻費用は、離婚後の養育費よりも配偶者分だけ高いことになります。たとえば5歳の子を扶養範囲内の収入の母が育てている場合で、父の年収(給与)が700万円の時、算定表によれば、離婚後の月々の養育費は月々8万円となりますが、離婚前の妻も入れた婚姻費用は月々約11万円となります。

 

婚姻費用や養育費は、別居前、離婚前と同一の生活費を保障できるものではありませんが、低すぎると批判され続けた婚姻費用・養育費算定表は令和元年12月に大幅に見直され、水準が引き上げられました。

 

これにより、たとえば、扶養範囲内の主婦が5歳の子を育てていた場合、夫の年収(給与)が2000万円とすると、婚姻費用月額40万円ほどにもなります。

自ら無断で出て行った配偶者に「婚姻費用を払いたくない」

婚姻費用は、収入の高いほうから低いほうへ、扶養の少ないほうから多いほうへ、いわば月々のキャッシュフローを平準化するものです。

 

離婚後は配偶者の扶養義務は消滅しますので、養育費だけとなります。婚姻費用についても、養育費と同じく、家庭裁判所のいわゆる算定表がありますので、これに従って定めることが多いです。

 

自ら無断で出て行った配偶者に「婚姻費用を払いたくない」という主張がされることがありますが、無断で出て行ったことが「同居義務違反だ」と評価されるような場合でない限り、それだけで婚姻費用減額の理由とはなりにくいようです。

 

一方で、不貞をして家出し、不貞配偶者と同居しているような場合には、有責配偶者なのに自分の分の生活費の請求は権利濫用だとして、婚姻費用の金額は養育費水準に下がるべきとされた裁判例があります(東京家審平成20年7月31日)。