年金だけでは暮らすことはできず、貯蓄もない……生活が困窮し、老後破綻に陥る高齢者。しかし破産に追い込まれるのは貧困に直面している人だけでなく、一見、生活に余裕のある元・エリートが老後破綻に至るケースも多いといいます。みていきましょう。
知らぬ間に「老後破産予備軍」でした…平均給与月75万円・50代の超エリートでも直面する、驚愕の実態 (※写真はイメージです/PIXTA)

高給取りのサラリーマンが「老後破産」に陥るまで

生活に困窮する、無年金者、低年金者。しかし「支出>収入」となっていれば、誰もが生活に困窮する可能性はあり、十分な年金を受け取っている人でも、老後破産に陥るケースが。その代表格といえるのが、「生活のダウンサイズを進められなかった人たち」。特に年金生活に突入する前の50代、十分な収入を得ていた高給取りの会社員ほど、その傾向は強いといいます。

 

50代の会社員といえば、給与がピークに達するとき。たとえば、大卒、さらには大企業に勤める部長職だとしましょう。平均月収(所定内給与額)は74万4,600円。賞与なども含めた年収は、推定1,238万2,300円となります(平均年齢52.4歳、平均勤続年数25.4年)。これだけの収入があれば、好きなことにお金がつかえ、貯蓄だってできる……と、いかないのが多いのが現実です(厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』より)。

 

50代は子どもの教育もピークに達するとき。住宅ローンを抱えていることも多いでしょう。収入が多い分、支出も多いわけです。さらにこのクラスになると、必要以上に子どもの教育にお金をかける、という傾向もあり、貯蓄がまったく進まないというのがお決まりのパターンでもあります。

 

子どもの教育についてひと段落がつくころには、自身も定年を迎えるタイミング。定年後も嘱託社員などになって、そのまま働き続けるというのが、昨今のスタンダードですが、ここが老後破産回避のための最重要ポイント。定年後、雇用形態が変われば、当然、賃金形態も変わります。それにより、通常、収入は2~3割減となり、定年と同時に役職定年を迎える場合は、さらに減少幅は大きくなります。

 

収入が下がる分、身の丈にあったライフスタイルに変えられたらいいのですが、一度上げた生活水準は下げるのが難しいもの。定年後も生活水準は50代のときのまま、というパターンが実に多いのです。子どもの教育に関する支出が減った分、生活水準を維持することはそれほど難しいことではないことも、生活のダウンサイズが進まない一因です。

 

しかし、現役を引退し、年金生活になるとどうでしょう。収入はさらに半分程度になります。そこで収入にあった生活に転換できればいいのですが、会社員の元超エリートの場合は退職金も多額。大企業であれば定年退職金は平均2,000万円程度ですが、超エリートともなると、さらに多くなります。「これだけ退職金があれば大丈夫だろう」といった慢心が、老後破産を招きます。

 

総務省『家計調査』によると、高齢者夫婦の1ヵ月の収入は23万円程度。それに対して支出は26万円程度で、毎月3万円の赤字になる計算。赤字は貯蓄を取り崩して補填することになります。仮に夫婦で30年生きるとなると、1,080万円以上の貯蓄があれば、平均的な暮らしが続けられる計算になります。

 

一方、50代のころと同じ生活だとすると、どうでしょうか。50代後半の消費支出は33万円程度。平均世帯人数が3人強、教育費が2万円ほどあるので、一概に比べることはできませんが、「月々33万円の生活費」が当たり前のまま年金生活に突入すると、毎月の赤字額は10万円程度。貯蓄は前出の3倍は必要となる計算です(総務省『2021年 家計調査』より)。

 

老後破産に陥らないためにも必須となる、生活のダウンサイズ。高給取りの会社員ほど、その重要性を軽んじてしまう傾向にあり、ダウンサイズのタイミングを逃してしまう傾向にあります。高給取りの感覚にとらわれている50代のエリートこそ、老後破産予備軍と心得て、自身の家計を見つめ直すことがことが必要です。