年金部会では、委員の課題意識として基礎年金の水準低下やその原因の平易な説明などが示されました。基礎年金の水準低下の問題と影響、原因と対策などについて、ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫氏が解説します
現行制度を放置すると低所得会社員ほど大幅な年金カットに (写真はイメージです/PIXTA)

1ー先月までの動き

年金部会は、次期改革に向けて新メンバーでの初会合を開き、部会長等の選出や経済前提に関する専門委員会の設置を了承した後、事務局から年金制度の意義や経緯の説明を受け、各委員が順に年金制度に関する課題意識などを発言した。なお、当初の開催案内で議題として示されていた今後の議論の進め方は、当日の議題から外された*1

 

○社会保障審議会 年金部会

10月25日(第1回) 部会長等の選出、経済前提に関する専門委員会の設置、経緯の確認等

URLhttps://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_221025doc.html (資料)

*1:当初から、議題については変更が生じる場合があることが示されていた。

2-ポイント解説:基礎年金の水準低下の問題・影響・原因・対策・効果

年金部会では、各委員の課題意識として、すべての被用者(雇用者)が基礎年金に加えて厚生年金も受けとれるようにする適用拡大のほか、基礎年金の水準低下や、その原因の分かりやすい説明などが示された。本稿では、基礎年金の水準低下について、問題と影響、原因と対策などを確認する。

 

 

1_問題:基礎年金の水準が厚生年金より大きく低下

現在の公的年金制度は、2004年の改革により、保険料の引上げを2017年に終了し、その代わりに年金財政が健全化するまで給付水準を段階的に引き下げる仕組みになっている*2

 

この仕組みの下、2009年と2014年に続き2019年の将来見通しでも、厚生年金(2階部分)よりも基礎年金(1階部分)で給付の引き下げが長引き、大きく低下する見通しになっている(図表1)

 

【図表1】給付水準の低下見通し (現行制度)

 

*2:この仕組みは、マクロ経済スライドによる給付額調整と呼ばれる。

 

2_影響:低所得会社員ほど水準低下が大幅に

基礎年金は自営業等のOBだけでなく年金受給者全員が受け取るため、基礎年金の水準低下は会社員OBにも影響する。

 

会社員OBが受け取る年金は基礎年金(1階部分)と厚生年金(2階部分)の合計で、厚生年金の額は現役時の平均給与に比例して決まる。このため現役時の給与が低いほど厚生年金が少なくなり、結果として年金全体に占める基礎年金の割合が大きくなる。

 

この仕組みと前述した基礎年金の方が大きく低下する見通しを合わせて考えると、現役時の給与が低い会社員OBでは、割合が大きい基礎年金部分が大幅な水準低下に見舞われるため、年金全体の水準低下が大きくなる。つまり、現役時の給与が低いほど年金全体の水準低下が大きくなるという、逆進的な問題が生じる見通しになっている(図表2)

 

【図表2】給与水準別の給付水準低下 (現行制度)

 

3_原因:基礎年金の水準を国民年金財政で判断

この問題の原因は、年金財政の構造にある。前述したように、給付水準の引下げは年金財政が健全化するまで続く。年金財政の健全化は国民年金財政と厚生年金財政のそれぞれで判断されるが、国民年金財政の支出の大半は基礎年金への拠出であるため、国民年金財政がいつ健全化するかは将来の基礎年金の水準に左右される。このため、全受給者に共通する基礎年金の水準が、国民年金財政の状況だけで判断される構造になっている(図表3)

 

【図表3】給付引下げの停止を判断する仕組み(現行)

 

4_対策:公的年金全体で基礎年金の水準を判断

この問題を根本的に解決するには、給付水準の引下げ停止を、国民年金財政と厚生年金財政のそれぞれで判断する仕組みから、公的年金全体で一括して判断する仕組みへ変更する必要がある。最近話題になっている厚労省が2020年12月に示した試案(調整期間の一致)は、この変更に相当する(図表4)*3

 

*3:厚労省が年金数理部会へ提出した「追加試算」。同資料p.1の注1には「本試算(①、②、③)では、国民年金と厚生年金を合わせて、概ね100年間の収支均衡を図ることができるよう、基礎年金と報酬比例に共通するマクロ経済スライドの調整期間を設定し、~試算。」という記載(下線は筆者が付記)があり、公的年金全体で給付水準の引下げ停止を判断したことがうかがわれる。

 

【図表4】給付水準の低下見通し (現行と政府試算①)

 

5_効果:どんな世帯でも給付水準の低下が平等に

この変更を行えば、基礎年金(1階部分)と厚生年金(2階部分)の低下率が揃うため、給与水準や単身か夫婦かに関係なく年金全体の低下率が同じになり、現行制度が招く逆進的な問題を回避できる(図表5)。一方で、現行制度を続けた場合と比べて高所得層の水準低下は大きくなり、基礎年金給付費の半額をまかなう国庫の負担が増える。このような痛みを避けて逆進的な引下げとなる問題を残すのか、痛みを受け入れて平等な水準低下を実現するのか、今後の議論を注視したい。

 

【図表5】給与水準別の給付水準低下(政府試算①)