(※写真はイメージです/PIXTA)

約3年前まで、日本の富裕層の間で一大ブームとなった節税スキームがありました。米国を中心に海外の中古不動産を購入し、賃料収入を得ながら「減価償却費」を発生させ、所得を圧縮するというものでした。しかし、当局によるストップがかかり、ブームは突然終焉しました。なぜ当局はメスを入れ、富裕層はどこに節税手段を求めていくのでしょうか。東証スタンダード市場に上場する総合金融グループ「Jトラスト株式会社」のグループ企業で不動産事業を展開する「Jグランド株式会社」営業部次長の小林常広氏が、解説します。

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短期減価償却の節税効果は抜群だったが…

海外不動産の主な投資先となったのは、ハワイのオアフ島、ネバダ州ラスベガス、テキサス州、カリフォルニア州など。米国各地で日本の投資家が節税対策に買っていたのは、築22年以上の木造住宅でした。海外の中古不動産への投資が日本の富裕層の人気を集めたのは、減価償却という手法を活用する上で、日本と海外、特に米国との不動産事情の違いが存在したためです。

 

不動産を賃貸で運用する際に、減価償却費を必要経費として算入し、不動産所得が赤字になった場合は、その赤字を給与所得などと損益通算して課税所得を減らすことが可能となります。そこで、高額な中古物件を購入し、家賃収入を上回る減価償却費で赤字を発生させ、日本での課税所得を圧縮し、節税を図る動きが活発化しました。減価償却とは経年で建物の資産価値が目減りした分を、経費として計上できる仕組みで、土地は減価償却の対象とはならず、建物価格の大小で減価償却の額が決まります。

 

海外不動産投資がブームになった背景には、日本と海外の不動産事情の違いがあります。不動産価格は土地部分と建物部分に分けられますが、中古物件の場合、日本ではおおむね4分の3を土地代が占めます。これに対して米国では、建物と土地の価格が逆転し、建物がほぼ4分の3を占めます。日本とは比べ物にならないほど建物の価値が高く、減価償却額が決定的に異なるわけです。

 

日本在住者が米国の不動産を買った場合でも、日本で納める税金には日本の税制が適用されるため、減価償却についても日本国内で不動産投資を行う場合と同じ扱いでした。

 

築22年以上の木造住宅1億円の内訳が土地8000万円、建物2000万円だとすると、この場合は4年間という短期で減価償却できるため、2000万円÷4で減価償却額は年間500万円となります。

 

ところが、米国で同じ1億円の物件を購入するとどうでしょうか。内訳が土地2000万円に対して建物8000万円となり、減価償却額は8000万円÷4、すなわち年間2000万円となります。つまり、物件価格は同等であっても、米国の中古不動産に投資をすることで日本の4倍もの節税効果を享受できたわけです。

 

減価償却で経費を大きくし、給与所得等を損益通算で圧縮し、大きな節税効果をもたらします。この節税手法は、日本の富裕層の圧倒的な支持を得ました。高額な物件を買うほど節税効果が上がるため、外資系などの高額給与所得者など急速に拡大したことから、大手不動産業者がセミナーを開催し、一部金融機関では海外不動産投資向けのローンまで商品化したほどです。

 

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会計検査院が周到に実態調査を進めていた

ところが、予期せぬ逆風が吹くことになります。2019年11月、政府は海外不動産投資を通じた節税をできなくする方針を固め、その翌月に公表された2020年の税制改正大綱では、海外不動産を使った減価償却による節税が封じられることになりました。

 

海外不動産の不動産所得が赤字になった場合、その赤字部分の減価償却費を認めず、損益通算できないことにしたのです。2021年分の確定申告分から海外不動産の損益通算ができなくなったことで、ブームは急速に終息しました。 

 

2012年の税制改正に伴い「国外財産調書制度」が導入され、5000万円以上の国外財産を有する人は税務当局への報告が義務付けられ、税務当局による富裕層の海外保有資産の把握が進んでいたことから、一部では当局による規制の強化を警戒する声も聞かれていました。

 

会計検査院が富裕層の多い東京都麹町税務署管内で調査したところ、海外中古不動産投資で延べ337人が39億8000万円超の赤字を計上していました。また、同署管内を含む延べ2万8000人強の確定申告書を分析したところ、賃料収入を上回る減価償却費を計上し損失を出している例が多いことを把握し、2016年時点で見直しを求める検査報告を出していました。

 

このように、会計検査院が国外の中古建物にかかわる所得税法上の減価償却費を問題視し、当局がほかの納税者との間で公平でない仕組みと判断したことが、富裕層に幅広く利用されてきた節税策が、過去の購入分まで遡及して封じ込められるという極めて厳しい税制改正が行われたと考えられます。

 

海外不動産を使った節税対策が突然利用できなくなったことを受け、海外不動産に代わる投資対象として国内の中古不動産に対する注目度が高まっています。海外不動産は減価償却の効果が高かったことは事実ですが、実質利回りの低さや空室リスク、管理手数料の高さなどがデメリットとされてきました。

 

そこで、価格に占める建物の比率が高く減価償却によって一定の節税効果が見込める中古物件で、同時に賃貸物件として高い賃料、高い入居率が見込める物件、すなわち節税効果のみならずインカムゲインゲインにおいても魅力的な物件が重要な選択肢となってくると考えられます。

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