年齢を重ねると共に物忘れがひどくなる、記憶力が低下するなど、脳の働きが低下する方も多くいます。脳は体の筋肉と同じで使わなければ衰えます。そんな衰えを防止するために有効なのが、脳トレです。
本記事では、まず、脳トレの効果についてお伝えしたうえで、高齢者が楽しみながら簡単にできる脳トレを14種類紹介します。
1. 脳トレは高齢者に対してどのような効果が期待できるのか
脳トレの主な効果は、脳の血流を促し脳の働きをよくすることと、それによって認知症予防が期待できることにあります。
日々の生活に活力を与え、人との交流を楽しめるようになるでしょう。詳しく解説していきます。
1.1. 脳を働かせて認知症を未然に防ぐ
京都大学の研究グループの研究成果によると、脳を働かせると脳の血流量が増え、働きがよくなると期待されています。
人の名前が思い出せない、「あれ」「それ」を多く使う、今まで行っていた料理をするのに時間がかかるなどに心当たりがある人は、脳の働きが低下している可能性があります。
生活のなかで気になる出来事がある場合は、脳トレを行っていくと、認知症を未然に防ぐことを期待できます。
1.2.「笑い」が生まれることでストレスが軽減する
「笑い」は副交感神経を優位にして、ストレスホルモンの分泌を減少させます。そのためストレスを軽減することが期待できます(日本成人病予防協会「笑う~ストレス解消法~」参照)。
人はストレスを受けると交感神経が優位になり、ストレスホルモンであるコルチゾールが分泌されます((小西統合医療内科コラム「ストレスホルモン『コルチゾール』と副腎の関係」参照))。それにより、高血圧症、うつ病、不眠症などの病気が発症する可能性があるのです。
脳トレを行うことで、ときには成功し、ときにはハプニングがあり、自然と「笑い」が生まれることも増えるでしょう。
1.3. コミュニケーションのきっかけになる
家族や複数人のグループで脳トレを行うと、自然と会話が増え、コミュニケーションを取る機会が増えるため、日々の楽しみを増やすきっかけにもなるでしょう。
脳トレをする際に難しい問題やグループで問題を解いていると、隣の人や家族、施設スタッフと意見を出し合い、一緒に解答するようになります。
普段の生活では見られなかった一場面が見られて、そこからさらに会話が生まれるでしょう。
2. 簡単にできる遊びや問題で高齢者の脳トレ11選
ここからは、高齢者が簡単にできる11の脳トレを紹介します。
どれも簡単に始められる内容になっているので、興味を持ったものから始めてみましょう。
2.1. 準備ゼロでも簡単にできる脳トレ4つ
脳トレには多くの種類がありますが、ここでは準備が不要で今すぐに始められる脳トレを紹介します。
①なぞなぞ
「なぞなぞ」を解く場合は、普段とは異なった脳の使い方をします。また、問題が解けたときの達成感が脳によい影響をあたえ、ストレス解消にもつながるでしょう。
なぞなぞのお題の種類は、
- 花のなぞなぞ
- 野菜のなぞなぞ
- 四季のなぞなぞ
など参加者みんなが興味をもっている、あるいはよく知っているお題をおすすめします。
参加者の顔ぶれによってはまったく答えが出ないことも考えられるので、選択肢をいくつか出すなどの答えやすい状況を作ることが大切です。
②後出しじゃんけん
進行役のスタッフや家族が「ジャンケンポン」と声をかけながら手を出したあとに、参加者が少し遅れて「ポン」と言いながら手を出すゲームです。
- 後出しをした人が勝つパターン
- あいこにするパターン
- 負けるパターン
上記いずれかをゲームの最初に決めておきましょう。
進行役の人は参加者のレベルにあわせて、ゆっくり進めたり、少しスピードをあげたり調整してください。
③ユニークしりとり
他の参加者が思いつかないような言葉でしりとりをするゲームです。遊び方は以下の通りです。
- 参加者に紙とペンを渡す
- 進行役の人はお題である言葉を決める。たとえば、最初の言葉を「ねこ」とする場合は、参加者は「ねこ」に続く言葉を記載する
- 全員が書き終えたら各自が発表する
他の参加者が発表した言葉と自分の言葉が同じであれば、0点です。周りが思いつきそうな言葉ではなく、人が思いつきにくい言葉を書き、誰とも同じにならなければ1点とします。それを何度か繰り返し、最後に多くの点数を得た人が勝ちです。
④都道府県当てクイズ
各県の特徴を出し、都道府県を当ててもらうゲームです。
参加者は自分の頭で考えながら答えを出すので、記憶力を使って、より脳を働かせます。
問題を出す人は各県の特徴となるヒントを出していき、少ないヒントで当てると高得点となります。
高齢者を楽しませるコツは、できる限り答えを連想できる内容をヒントにすることです。
たとえば北海道の場合には、以下のように出してみるとよいでしょう。
- 日本で一番面積が大きい都道府県
- 周りを太平洋、日本海、オホーツク海に囲まれている
- 雪まつりが行われる
あくまでも上記は一例ですが、参考にしてください。
2.2. プリントを使って行う脳トレ4つ
次にプリントを使って簡単にできる脳トレを紹介します。
インターネット上には計算や漢字、パズルなどの脳トレが数多くあるので、できそうな問題や興味のある問題を見つけてみましょう。
他にも間違い探しなど写真を用意するだけで簡単に開始できるゲームも紹介します。
⑤計算問題
計算問題は、脳トレで多く使われています。生活のなかで計算をする機会が少なくなると、少しずつ能力が低下していきます。
計算問題で脳の働きをよくするには、簡単ですぐに回答できる足し算や引き算を行うほうがよいです。
足し算だけの問題、足し算と引き算の両方が含まれる問題などを、参加者のレベルに合わせて出していきます。早く回答できる人には、問題を解き終わるまでの時間を計測しましょう。前回の自分の結果と比べて早くなっていると、達成感も得られます。
⑥漢字問題
漢字問題では漢字の読み方、書き方を答えるクイズやイラストで表した内容を当てるクイズなど、様々な問題があります。
たとえば、以下のような問題です。
- バラバラにした漢字を組み立てる問題
- 花や魚などの難しい漢字の読み方
- 四字熟語、百人一首、ことわざを利用した問題
あまりに難しい漢字問題は参加者が答えられず、やる気や参加する意欲を無くしてしまうことがあるので、注意が必要です。様子を見ながら参加者のレベルに合わせた難易度の問題を出しましょう。
⑦点つなぎ
1から順番に書かれている数字を、すべて線でつないでいく脳トレです。ペンを持ち手を動かすこと、数字を探すことなど同時にいくつもの動作を行い、脳への刺激が増えるためおすすめの脳トレです。
簡単に達成できた場合は、大きな数から1に向かって線を順番につなぐ方法や、2,4,6と2ずつ増える数字をつなぐ方法など様々なパターンを試しましょう。
数字の個数が多くなると、文字が小さく見づらいため、参加者が見やすい大きさに調整してください。
⑧間違い探し
2つの絵を見比べながら、間違っている場所を探す定番のゲームです。
どのような参加者でも簡単に行えます。
間違っている箇所が多いと難易度があがるため、参加者に合わせた内容にするとよいでしょう。
注意点としてはすべて見つけられる簡単な内容にするか、途中でヒントを出し参加者が答えられるようにするなど、参加者が最終的にすべての間違いを探せる工夫をしていきましょう。それにより参加者は達成感を覚え、楽しく続けられます。
2.3. ホワイトボードを使って行う脳トレ3つ
次はホワイトボードを使った脳トレです。想像力を働かせて、しっかりと考える問題を用意することで脳に刺激を与えましょう。
また以下で紹介するゲームは参加者同士のコミュニケーションが増えることも期待できます。
⑨オノマトペクイズ
ザーザー、ミンミンなど、ものの音や声をまねた言葉を使って行うゲームです。
たとえば、
- 雨が〇〇〇〇と降っている。
- セミが〇〇〇〇と鳴いている。
〇のなかに、何が入るかを考えてもらいます。
おすすめの問題は「風が〇〇〇〇吹いている」というように、「ヒューヒュー」「ビュービュー」「そよそよ」などの多くの回答が当てはまる問題です。参加者が好きに想像できる問題になり、解答しやすくなります。
⑩あるなしクイズ
ホワイトボードに「ある」と「ない」の2つのグループを書きます。「ある」ほうの言葉にはあり、「ない」ほうにはない共通点を探すゲームです。
たとえば、以下の問題です。
- 「ある」グループ:うし、うま、浮き輪、運動会
- 「ない」グループ:とら、羊、入学式
次のようにヒントを出してみると参加者が考えやすくなります。
- 「ある」の文字を平仮名に変えてみましょう。
- 言葉の1文字目に注目してみましょう。
この答えは「ある」グループの1文字目に「う」が付くことです。参加者が答えやすくするために、最初からひらがなで記載するなど、レベルに合わせて工夫しましょう。
⑪ことわざクイズ
一部分を空欄にしたことわざを、ホワイトボードに書き、何のことわざかを当ててもらいます。
たとえば、以下のようなものです。
- 〇〇の上にも三年
- 〇〇も木から落ちる
- 〇〇に小判
参加者が知っていそうなことわざにすると、積極的に答えてくれます。
また、先ほどの例では「石の上にも〇〇」「サルも〇から落ちる」と答えてもらう部分を変えると、問題の難易度を変えることができます。
3.体を動かす脳トレ3選|簡単にできる指体操・足体操
手や足を動かす運動をしたときも、脳の血流量は増えるので脳トレになります。ここでは座ってできる簡単な運動を3つ紹介します。運動が苦手な方でもすぐに始められるので、挑戦しましょう。
⑫指先体操|指の曲げ伸ばしをする
指先を動かすだけの簡単な体操です。
指先を動かすことで脳に刺激が加わり、血流量が増えて、脳の活性化が期待されます。
まずは両手の指を曲げ伸ばしをします。
手をパーにして親指から順に曲げていき、グーになったら、今度は小指から伸ばしていきます。
普段、指先を意識して動かすことが少ないので、最初はやや難しいかもしれませんが、少しずつゆっくりと動かすところから始めると、脳の働きをよくする効果が期待できます。無理せずに毎日少しずつ行うのがよいでしょう。
⑬指折り体操|指を折り曲げて数を数える
指折り体操は、「1」から数を数えながら指を曲げていく体操です。
両手をパーに開いたところから始めて、数を数えながら指を曲げていきます。「1」から数えて「5」のときに手がグーになっています。「6」からは小指、「7」は薬指を伸ばしていくと、「10」でパーになっています。
数を数えながら指の曲げ伸ばしをすることは、同時に2つのことをしているので、ただ指の曲げ伸ばしをするより、難しいです。
この動きができない人には、速度を遅くしたり、片手だけでしたりする工夫をしましょう。
⑭足踏み体操|座ったままでできる
足踏み体操は座ったままで行える体操です。椅子に座ってから歩くように腕を振ります。同時に足も動かしていきますが、同じ手と足が動かないようにしましょう。
どうしても同じ手足が動いてしまう場合は、右の手のひらで左足の太ももを叩く、次に左の手のひらで右足の太ももを叩くようにしながら行うと、足踏み体操がしやすくなります。
参加者のなかには、足踏みのリズムに付いていけない人もいるかもしれませんので、速度を遅くしたり、足だけ行ったりとレベルに合わせて無理なく行いましょう。
4. 無料で出来る高齢者向けの脳トレアプリも登場している
スマートフォンやタブレットでも脳トレのアプリがあります。
計算や漢字、パズルゲーム、迷路など多くの種類が揃っており、選ぶ楽しみがあります。無料のアプリも豊富で、自宅や移動中など好きなときにできるのもよい点です。
また、自分が行った記録が残るアプリもあるので、日々の変化も確認でき、少しずつ点数が高くなるにつれて満足感も得られます。
アプリ内では、最初に操作方法を説明してくれるので、初心者でも簡単に始められます。
スマートフォンやタブレットを持っている方は、自分ができそうなアプリを探してみるのもよいでしょう。
5. 高齢者向けの脳トレを行うときに気をつけたいこと
脳トレを行う際に気をつけたいことは以下の3点です。
- さまざまな種類の脳トレをする
- 問題の難易度を調節する
- 参加者全員が楽しめる脳トレにする
5.1.さまざまな種類の脳トレをする
幾つもの脳トレを行い、脳に複数の刺激を与えることで、脳の働きがよくなり認知症予防の効果がより高まります。
5.2.問題の難易度を調節する
難しすぎる問題や簡単すぎる問題は、やる気や参加したい気持ちを無くしてしまいます。脳トレは継続することが大事なので、問題の難易度を調節する工夫が必要です。
5.3.参加者全員が楽しめる脳トレにする
参加人数が多くなると、参加者のできる内容にバラツキが出てくるので、グループ分けや声掛けをする必要があるでしょう。
まとめ
この記事では、高齢者の認知症予防が期待されている脳トレを紹介しました。どれも簡単に楽しくできる遊びや問題、体操、アプリなので明日からすぐに行えます。
一人ひとりのレベルや興味に合わせた内容で、参加者が楽しく継続できる工夫をしていきましょう。脳トレは脳の働きをよくするだけではなく、他者とのコミュニケーションを増やす機会もできます。人と関わり会話が増えることは、日々の楽しみにもなるでしょう。
これから少しずつ脳トレを行い、生活を楽しく豊かなものにしていきましょう。