「禁錮○年が確定」といった、ニュースなどで見聞きする機会が多い「禁錮」という言葉ですが、その意味を正確に理解している人は少ないのではないでしょうか。
本記事では「禁錮」について懲役との違いを中心に、禁錮と懲役の一本化についても解説します。概要だけでも知っておくと、ニュースの理解度が深まるでしょう。
1.「禁錮」とはどんな刑罰?意味と刑期
「禁錮」とはどのような刑罰なのでしょうか。刑罰の内容と、刑を受ける期間について解説します。
1.1. 禁錮とは「労務を課されず刑事施設に収容される刑罰」
禁錮を受けると、刑務所や少年院などの刑事施設に拘束されます。しかし、「懲役」と異なり、刑事施設内での労働(刑務作業)に従事する義務はありません。
そもそも禁錮という言葉には、
「一室に閉じ込めて、外へ出るのを許さないこと。」
引用:goo辞書
という意味があります。
この言葉の意味通り、刑事施設に閉じ込めるのが「禁錮」という刑罰です。縄で縛られるなど完全に拘束されるわけではありませんが、常に監視下におかれ、行動が制限されることになります。
このように動き回る自由を奪う刑罰を「自由刑」と呼び、禁錮も自由刑の一種です。
1.2. 禁錮には有期刑と無期刑がある
禁錮の期間は「有期」と「無期」に大別されます。
有期の場合の期間は、刑法13条において「1月以上20年未満」と規定されており、この範囲内で罪状ごとに「○年以上」や「○年以下」と定められています。
たとえば、自殺関与及び同意殺人では「6月以上7年以下の懲役又は禁錮」と定められているため、禁錮期間が7年を超えることはありません。
いっぽう、無期の場合は終了の期限はありません。「無期禁錮」とあれば、基本的には一生刑務所などに身柄を拘束されることになります。
2. 禁錮を受けた受刑者は何をする?刑事施設での生活
禁錮を受けて刑事施設に収容されると、外出はもちろん、インターネットやテレビを自由に見ることはできません。
雑誌や新聞なども差し入れてもらうか、刑務所内の図書室にあるもののみです。許可された時間以外は、勝手に横になることも運動をすることもできません。
また、起床や就寝、食事、運動などの時間はすべて決められており、そのスケジュールに合わせて生活することになります。自由時間はありますが、読書など、できることは限られています。
そのため「請願作業」といって自ら申し出て労務作業を行うことが許されています。
3. 禁錮を刑事施設以外や自宅で受けることはあるのか?
禁錮は刑事施設で実施されるもの、というイメージがありますが、自宅など刑事施設以外で実施されることはあるのでしょうか。
3.1. 法律上執行を停止することはあるが自宅での禁錮を受けることはない
ニュースなどを見ていると、禁錮を言い渡された人が刑事施設ではなく自宅や病院に収容されることがあります。
一見、自宅などで刑を受けているように思われますが、これは「禁錮の執行を停止されている」状態です。
刑の執行停止は、重い病気や高齢、妊娠中である場合など、収容によって著しい不利益を被る場合に検察官の判断により行われます。
ただし、刑罰が消えたわけではないので、停止する理由がなくなれば速やかに刑事施設に収容されます。
3.2. 東京・池袋乗用車暴走事件ではどうだったのか?
東京・池袋で起こった、乗用車の暴走によって11人が死傷した事件では、過失運転致死傷が適用され、禁錮5年の実刑が確定しました。
この事件では被告人が高齢であることから、刑の執行停止が行われる可能性もありました。しかし、執行の停止はなく、被告人は拘置所に収容されています。
高齢を理由とした執行停止は非常に少なく、過去20年で1万6,620人の受刑者のうち、執行停止が認められた例は22人しかいません。
この事件の被告人も、高齢ではあるものの事故当時に自ら車を運転していたことや、裁判にも車椅子で出廷していたことなどから、執行停止は行われませんでした。
なお、刑が確定するまでは、証拠隠滅や逃亡の恐れがあると判断されなければ自宅で判決を待つこともできます。裁判によって刑が確定したのち、検察の指示によって自ら出頭します。
4. 禁錮のほかにもある!「身柄を拘束する」手続き
禁錮以外にも同様に身体の拘束を伴う手続きがあります。しかし、すべてが刑罰に該当するわけではなく、裁判前の一時的な処分や手続きに過ぎないものもあります。
本項では、身体の拘束が行われる「逮捕」「勾留」「拘留」の3つについて、それぞれの意味を解説します。
4.1. 逮捕:捜査対象の人物を短期間拘束する強制「処分」
「逮捕」とは、捜査対象となる人物の身柄を短期間拘束することです。刑罰ではなく、逮捕された時点では前科となることはありません。
逮捕には3つのパターンがあります。
4.1.1. 通常逮捕
事前に逮捕状を取ったうえで行われる逮捕です。通常逮捕では裁判官の発布した逮捕状が必要になります。
4.1.2. 緊急逮捕
重大な罪を犯したことを疑うだけの十分な理由があり、かつ逮捕状を待っていたのでは被疑者を取り逃がしてしまうというときに行われます。
4.1.3. 現行犯逮捕・準現行犯逮捕
実際に犯行が行われている最中、あるいは行われた直後に行われる逮捕です。逮捕状は不要で、警察官でなくても行うことができます。
4.2. 勾留:逮捕の後身柄を拘束する「処分」
被疑者を逮捕したあとに、捜査や取り調べが行われます。その間に行われるおそれのある証拠隠滅や逃亡を防ぐための処分が「勾留」です。
勾留期間は、検察官による起訴の前であれば原則10日です。重大な事案であればさらに10日延長されますが、最長は20日までです。この間に不起訴となれば釈放されます。
これに対し、起訴後の勾留の期間は2ヵ月間で、その後継続する場合は1ヵ月ごとに更新となります。
なお、身体の自由を奪うことは人権侵害につながる危険もあるため、勾留は必ず逮捕のあとに行われなければならないとされています。この原則を「逮捕前置主義(たいほぜんちしゅぎ)」といいます。
4.3. 拘留とは1日以上30日未満の間刑事施設に収容される「刑罰」
「拘留」とは刑事施設に収容されるもので、刑罰です。
拘留期間は1日以上30日未満と決まっており、延長はありません。
「勾留」と読み方が同じ「コウリュウ」で、身体の拘束を伴う点も同じですが、意味や目的はまったく異なります。
勾留は「容疑がある」状態で証拠隠滅などを防ぐために行われます。裁判を経ていないため、罪は確定していません。いっぽう、拘留は刑罰であり、有罪が確定したあとに執行されます。刑罰なので、拘留を受けた場合は前科も付きます。
なお、拘留の期間は30日未満で、30日以上になると「禁錮」となります。
5. 禁錮と懲役|自由刑に当てはまる2つの刑の違い
禁錮と懲役は、いずれも「自由刑」という刑罰に該当し、身体の拘束を伴います。執行される期間も同じですが、以下の2つの違いがあります。
違い1:禁錮にはない「刑務作業」
禁錮では刑務作業は課されませんが、懲役刑では刑務作業が義務です。
刑務作業とは、刑事施設内で行われる労働作業のことです。木工や衣類、靴などの製造作業のほか、清掃や炊事など種類は多岐にわたります。
刑務作業は義務ではありますが、生活指導や職業訓練としての意味が強いものです。
受刑者のなかには経済的事情から犯罪に手を染めた人もいます。そのような人が同じ理由で再犯することがないよう、仕事につながる技術を身につけさせています。
また、勤労により社会のなかでの役割を自覚させるとともに、炊事や清掃などを通して自活する力を養うという目的もあります。
なお、刑務作業に従事した受刑者には作業報奨金が支給されます。この報奨金は原則として出所時に出所後の支度金として渡されますが、収容中でも物品の購入などに使うことができます。
違い2:罪が適用されるケース
罰則が「禁錮又は懲役」と定められている罪は多くありますが、適用される範囲に違いがあります。多くの場合は懲役が適用されます。
5.2.1. 禁錮が適用されるのは比較的レアケース
実際の裁判において禁錮が言い渡されるのは、過失による犯罪が多いといわれています。
過失による犯罪とは「悪意なく」犯してしまった犯罪のことです。たとえば、運転操作を誤って人を死亡させてしまった、ガスコンロの火を消し忘れて火事を起こしてしまった……このような、いわゆる「うっかり」によって引き起こされた事件や事故が該当します。
殺意を持って車で人を轢くことと、運転ミスで人を轢いてしまうことは、「人を死亡させた」という結果が同じであっても、罪の重さはまったく異なります。
過失によって罪を犯してしまった人は、そもそも「更生させる」というステップが不要である場合が多く、懲役ではなく禁錮に留められることがあります。
また、内乱罪や私戦予備罪など、いわゆる政治犯に対しては、禁錮のみが定められています。
これは政治に対して怒りや信念を持つ犯人に、政府が強制的に労働させることは屈辱的なものである。という、いかに犯罪者であろうと、信念に対して屈辱を与えることを避けるために禁錮が設けられたという経緯のためです。
5.2.2. 懲役はかなり広範囲の犯罪に適用される
2020年に裁判で自由刑が確定した人のうち、懲役刑は約94%であったのに対し、禁錮は約6%でした。
懲役もしくは禁錮のどちらが選択されるかは、過失の度合いや罪を犯すに至った経緯などから判断されます。
また以下の犯罪については禁錮がありません。
- 非現住建造物等放火(2年以上の有期懲役、自己所有のものであれば6月以上7年以下の懲役)
- 強制わいせつ(6月以上10年以下の懲役)
- 強制性交等(5年以上の有期懲役)
- 不動産侵奪(10年以下の懲役)
- 強盗(5年以上の有期懲役)
放火や強姦、強盗、殺人といった犯罪は罪が重く、禁錮では不足するという考えにより懲役のみです。
また、関連する罪状において無期懲役が科される場合もあります。たとえば、強制性交等は原則として有期懲役です。しかし、被害者に怪我をさせたり死亡させたりした場合などは、無期懲役になります。
実際の受刑者の割合を見ても、特に刑事裁判においてはほとんどが懲役です。2020年においては、刑事施設に入所した受刑者のうち、禁錮受刑者の割合は0.3%しかありません。
6. 禁錮と懲役|どちらのほうが罪が重く、きついのか?
禁錮と懲役のどちらのほうが、罪が重いのか。また、刑罰を受ける場合に、どちらのほうがよりつらいのかを比較します。
6.1. 法律上の刑の位置づけ:基本的に懲役のほうが重い
法律上は、禁錮より懲役のほうがより重い刑とされています。また、実際に懲役になったケースを見ても、故意や重過失による犯罪が該当しています。
6.1.1. 刑法に定められる刑罰の重さの順番はどうなっている?
刑法には7つの刑罰が規定されており、その重さを順番に並べると以下のようになります。
- 死刑
- 懲役刑
- 禁固(禁錮)刑
- 罰金刑
- 拘留
- 科料
- 没収
懲役は2番目に重い刑で、禁錮が3番目です。なお死刑から科料までは「主刑」という区分で、7番目の没収のみ、単体では適用されない「付加刑」に区分されます。
6.1.2. 実際の事例でもより軽い罪に対して禁錮刑が適用されている
実際の事件や事故を見ると、同じ罪状でもより罪が軽いと判断される場合に禁錮刑が適用されています。
たとえば、車で事故を起こして人を死傷させた場合の罪として、「過失運転致死傷罪」と「危険運転致死傷罪」があります。
「過失運転致死傷罪」は、過失の度合いが軽度な場合に適用されるものです。たとえば、道に飛び出してきた動物を避けようとして咄嗟にハンドル操作を誤り事故を起こしてしまった、などのケースが該当します。
過失運転致死傷罪の刑罰は「7年以下の懲役もしくは禁錮」又は「100万円以下の罰金」とされています。本人の過失が軽ければ、懲役ではなく禁錮や罰金となることがあります。
いっぽう、同じ過失でも「危険な運転を行なっていた」とされるケースでは「危険運転致死傷罪」が適用されます。
飲酒運転による事故をきっかけに制定されたもので、飲酒運転や無免許運転、悪質な煽り運転などが該当します。加害者に人を轢く意思がなかったとしても「事故を引き起こした責任が重い」とされ、怪我と死亡のいずれの場合であっても懲役刑です。
6.1.3. 禁錮と懲役は刑の長さによって法律的重みが逆転することもある
刑罰の軽重については、刑法10条で規定されています。
「無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の2倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする」
引用元:刑法(e-gov)
たとえば「20年の有期懲役」と「無期の禁錮」であれば、刑罰の軽重が逆転し、無期の禁錮のほうが重い刑となります。また、無期でなくても、それぞれの期間を比べて2倍を越える差があれば禁錮のほうが重いとされます。
たとえば、「禁錮9年」と「懲役4年」を比べると、9年は4年の2倍を超える長さなので、禁錮のほうが懲役より重い刑として取り扱われます。
6.2. 禁錮は懲役より軽いとは一概にいえない
先述のとおり、法律上は原則として懲役のほうが重いという扱いです。
しかし、刑期にかかわらず、実際に受刑した場合の心情としては、禁錮のほうが懲役よりも軽いとはいい難いようなのです。
禁錮には刑務作業に従事する義務はありません。働かなくてよい、というのは、一見楽なように聞こえます。しかし、ほんの数分ならともかく、数日や数年の間何もしないというのは、退屈で苦痛になるでしょう。
実際に禁錮の受刑者のほとんどが自ら申し出て労務を行うといわれています。禁錮と懲役の服役中の違いは刑務作業の有無だけですから、労務を行っている禁錮は実質的には懲役と変わりません。
本来やらなくてもよい刑務作業を望んで行う受刑者が多いという点からも、「禁錮のほうが軽い」とは一概にはいえません。
7. 禁錮と懲役|2つの刑には共通点も多くある
これまで禁錮と懲役の違いについて解説してきました。 次は2つの刑罰に共通する点を解説します。
共通点1:禁錮や懲役が科せられる目的
1つ目の共通点は、刑罰の目的です。禁錮にも懲役にも3つの目的があります。
目的1:犯罪者の再犯の可能性を考慮して社会から隔離するため
まずは再犯の防止です。
犯罪者が自由に社会に出ていると、新たな罪を犯す可能性があります。たとえ過失による事故であっても、高齢による運転ミスなどは再び起こり得ます。
犯罪者を刑事施設に拘束して社会から隔離することで、本人がこれ以上罪を重ねることがないようにするとともに、新たな被害を未然に防いでいます。
目的2:社会全般の人々に対して犯罪を抑止するため
次に犯罪抑止の効果を狙ったものです。
刑事施設に収容されれば、当然自由に外出できませんし、自由に遊ぶこともできません。持ち物も制限され、常に監視された状態です。
そのような状態は、普段自由に生活をしている人にとっては避けたいものですから「そうならないように罪を犯さないようにしよう」という抑止力になります。
目的3:犯罪者の心身を矯正するため
最後に、犯罪者の心身矯正という目的です。
刑事施設では時間を厳密に管理され、早朝に起床し、運動や労役で体を動かして3食決まった時間に食事を摂ります。夜は強制的に消灯されますから、夜更かしをすることもできません。
そのような規則正しい生活によって心身のバランスが整うと、考え方がポジティブになり素直に罪に向き合うことができます。
共通点2:刑期の仕組み
懲役と禁錮の刑期はどちらも「有期」と「無期」の2種類があり、上限と下限も同じです。
7.2.1. 無期刑になった場合にどうなるのか
無期になると、基本的には一生刑務所などで暮らすことになります。無期懲役であれば、仮釈放や執行猶予がつかない限り、死ぬまで刑事施設から出ることはできません。
懲役は2番目に重い刑罰で、強盗殺人や強盗強姦殺人、放火など非常に重い罪が対象です。
禁錮でも、無期であれば刑事施設に一生収容されます。しかし、対象となる罪の数が少なく、現在の憲法が発布されて以降で実際に適用されたことはありません。
7.2.2. 有期刑の期間の決まり方
有期刑は、懲役も禁錮も原則として「1月以上20年以下」の範囲で決められます。
「○年以下の懲役又は禁錮」と規定されていれば、それ以上長い刑期にはなりません。
たとえば、窃盗罪であれば「10年以下」と規定されています。殺人などの別の罪を犯していない限り、どんなに高い品物を盗んだとしても「窃盗罪」では10年が最長です。
「○年以上の懲役又は禁錮」と規定されていれば、規定の年数が最短で最長は20年までです。なお、「無期」が選択肢にある場合は、「無期又は〇年以上の…」と表現されます。
たとえば、危険運転致死罪は「1年以上の懲役」と定められています。この場合は最低でも1年、最長で20年の懲役が課されます。
なお、原則は最長20年ですが、死刑又は無期の刑から減刑された場合や、後述する「併合罪加重」が適用された場合は最長30年となります。
7.2.3. 罪が増えると刑が重くなる「併合罪加重」とは?
併合罪加重とは、刑が確定していない2つ以上の罪がある場合に、量刑を足す(加重する)ことです。有期の懲役又は禁錮が刑として定められている犯罪が対象で、罰金などそのほかの刑は対象にはなりません。
併合罪加重が行われると、対象となる2つ以上の犯罪のうち「最も重い犯罪について定められている最長刑期を1.5倍した期間」が刑期の上限となります。
たとえば、最長の刑期が20年である犯罪と、5年である犯罪で併合罪荷重が行われると、20年×1.5倍の30年の刑期が上限となります。
共通点3:執行猶予制度
ニュースなどで「執行猶予付き有罪判決」という言葉を聞くことがあると思います。この執行猶予制度について解説します。
7.3.1. 執行猶予:刑罰の執行を一定の期間猶予する制度
執行猶予とは「刑罰の執行を一定期間猶予する」という制度です。「一定期間」は1年から5年の間で決められます。
過去10年間では、懲役については約6割、禁錮では約9割に執行猶予がついています。
たとえば「執行猶予5年、禁錮1年」という判決が出た場合、5年間は刑務所に収容されず、通常通りの生活を送ることができます。仕事や学校生活などにも特別な制限がかかることは基本的にはありません。
また、猶予期間中に新たな罪を犯さなければ、禁錮1年の刑罰は免除されます。
執行猶予の目的は、加害者の社会復帰を促すことです。そもそも刑罰は、再犯を防止し犯罪者を更生させるために行われます。過失が軽微な場合や、本人がすでに十分反省している場合にまで刑事施設へ収容すると、収容の意味がないばかりか社会復帰を困難にしかねません。
社会復帰ができないと、さらなる犯罪につながる危険もあります。より円滑な社会復帰のために執行猶予という選択がとられます。
なお、執行猶予がついたとしても有罪は確定しているので、前科はつきます。執行猶予がつかずに刑が執行される場合を「実刑」として区別しますが、実刑であっても執行猶予つきであっても前科となります。
7.3.2. 執行猶予の種類:「全部執行猶予」と「一部執行猶予」
執行猶予には下記の2種類があります。
- 「全部執行猶予」
- 「一部執行猶予」
もともと執行猶予は「全部執行猶予」のみでした。2016年の刑法改正で「一部執行猶予」の制度が新設されたことにより、それまでの執行猶予を「全部執行猶予」として区別することになりました。
全部執行猶予は、名前の通り、課された刑の全部を猶予するものです。たとえば「執行猶予3年、懲役1年」であれば懲役の執行がすべて猶予されるので、判決後も刑務所に入らず生活することができます。
いっぽう、一部執行猶予の場合は、課された刑の一部のみが猶予されます。たとえば「懲役3年、その一部の6ヵ月につき執行猶予1年とする」といった場合は、まず猶予されなかった2年6ヵ月の懲役が執行されるので刑務所に入ります。2年6ヵ月経過後、残りの6ヵ月の懲役が1年間猶予されるため、刑務所をいったん出ることが許されます。
一部執行猶予は、刑事施設に収容されていた人が社会にスムーズに復帰するための、いわばリハビリ期間と捉えることができます。
なお、一部執行猶予が行われる場合、猶予期間は保護観察(保護観察所の監督、指導下におかれること)に付されることがほとんどです。
7.3.3. 執行猶予がつくことがあり得る条件とは
刑法25条において、全部執行猶予がつく条件として以下のように規定されています。
「第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。」
引用元:刑法(e-gov)
初犯、もしくは初犯でなくとも前回から5年以上が経過していれば、全部執行猶予となる可能性があります。
また、25条2項では情状酌量の余地があるかどうかについても触れており、事情によって考慮される場合があります。
一部執行猶予の場合は、上記の条件のうち刑罰が「3年以下の懲役もしくは禁錮」に限定されます。また、全部執行猶予の条件にはない下記の条件が条文に規定されています。
「第二十七条の二
再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」
引用元:刑法(e-gov)
全部執行猶予も一部執行猶予も、条件を満たしているからといって、必ずしも執行猶予がつくとは限りません。
犯罪に至った経緯や本人の生活状況などを裁判官が総合的に考慮して、執行猶予の有無を判断します。
共通点4:仮釈放制度
4つ目の共通点は、仮釈放制度があることです。
7.4.1. 仮釈放とは刑期満了を待たずに釈放されること
仮釈放とは、刑事施設に収容されている人が行政官庁に許可をもらって、刑期が終了する前に釈放される(刑事施設の外で生活できる)制度です。
刑期が終わって出所する「釈放」に対して、刑期終了前にいったん出所を許されるので「仮釈放」と呼ばれます。
禁錮、懲役のいずれも対象となります。また、刑期が無期であっても仮釈放を受けられる可能性があります。
7.4.2. 仮釈放を受けるには複数の条件を満たす必要がある
仮釈放を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 有期刑では刑期の3分の1、無期刑では10年が経過していること
- 受刑態度が良好であること
- しっかりと反省していること
- 再犯のおそれがないこと
- 本人が仮釈放を希望していること
刑期の経過期間はすぐに判断できますが、受刑態度など明確な判断基準のない条件もあります。
また、本人の生活態度や反省の態度だけでなく、社会感情として一時的とはいえ出所することを受け入れてもらえるかも基準となります。
「(仮釈放許可の基準)
法第三十九条第一項に規定する仮釈放を許す処分は、懲役又は禁錮の刑の執行のため刑事施設又は少年院に収容されている者について、悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りでない。」
引用元:犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則 第二十八条(e-gov)
たとえば、残虐な殺人事件や性犯罪など、釈放によって地域住民の不安が大きい場合や、事件に対する怒りが大きい場合は、いくら本人が反省していても仮釈放は認められません。
7.4.3. 実際に仮釈放を受ける受刑者の割合は60%ほど
仮釈放を受ける受刑者の率は、おおむね60%弱で推移しています。2018年は58.5%でした。
男女別では、男性57%、女性が72%と女性のほうが仮釈放を受ける率が高くなっています。
なお、仮釈放を申請した受刑者のうち、95%以上が仮釈放を認められています。
8. 2025年から禁錮と懲役刑が一本化!「拘禁刑」施行予定
2022年6月、禁錮と懲役を一本化した「拘禁刑」を創設する改正刑法が可決されました。改正刑法は2025年から施行される予定です。
8.1. 拘禁刑への一本化の経緯
そもそも禁錮は、政治犯に労役を科すことが適当ではないという判断から設けられたものです。
しかし、現在においては、ほとんどが過失による犯罪に適用されており「懲役よりも軽い罪に対する罰」として適用されている感が否めません。
実際に適用された例を見ても、99.9%が失火や過失傷害罪などの過失犯で占められています。
また、禁錮の受刑者においてもほとんどが請願作業を行っており、実質的に懲役刑と変わらない状態です。
これらの経緯から、禁錮と懲役を一本化するという改正案に至っています。
8.2. 拘禁刑への一本化で期待されること
改正刑法では禁錮と懲役が一本化されるだけではなく、より個々人の社会復帰に役立つ指導が行われるように規定が変わります。
すなわち、これまで懲役では刑務作業が義務でしたが、改正刑法では義務ではなくなり下記のように規定されました。
「改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができるものとする」
引用:法務省
たとえば、専門職などすでに十分なスキルを身につけている人に労務作業を課しても、職業訓練としての意味はほとんどないでしょう。
また、若年者や、事情があって十分な教育を受けていない受刑者では、作業を覚えるよりも基礎学力の充実が必要となります。
ほかにもコミュニケーションなど対人スキルや、精神面でのケアなど、個人に応じた指導を行うことで、受刑者の早期社会復帰、また再犯を防止することにもつながることが期待されます。
8.3. 拘禁刑の施行で変わることは多い
拘禁刑の創設により、以下のような変化があります。
8.3.1. 刑務作業以外に柔軟な処遇、指導が可能になる
改正刑法では、刑務作業以外の処遇や指導を行うことが盛り込まれています。これにより個人の特性や必要性に応じた指導を、現場判断で行うことができるようになります。
8.3.2. 犯罪の罰則規定が変わる
刑法だけでなく、禁錮や懲役の罰則が規定されているあらゆる法律の規定が変わることになります。また、国家公務員や弁護士などでは、禁錮以上の刑による欠格が定められており、この表記もすべて変更されます。
8.3.3. 指導マニュアル作成と指導できる人材が必要になる
個人に応じた指導を行うということは、それぞれの専門家が必要になるということです。教育、福祉、心理ケアなど、各分野で指導できる人材を確保しなければ、適切な指導が行えません。
まとめ
刑罰の一種である禁錮について、懲役との比較を中心に解説しました。
- 禁錮とは身柄を拘束される刑罰
- 懲役には刑務作業があるが、禁錮にはない
- 懲役のほうが禁錮よりも刑としては重い
- 刑法改正により禁錮と懲役が一本化されて「拘禁刑」になる
今後、ニュースで見聞きしたときは、ぜひ本記事の内容を思い出してください。