「国の公的年金だけでは月々の収支が約5万円不足し、老後の約30年間で2,000万円が不足する」という「老後2,000万円問題」が記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。これは逆にいうと「2,000万円以上退職金や貯蓄があれば老後も安泰」ということになりそうですが、どうもそうではないようです。退職金2,000万円のエリート会社員が陥った老後破綻の危機について、FP office STORY代表の尾﨑佳奈氏が解説します。
退職金2,000万円のエリート会社員…「勝ち組確定」と思いきや一転、「老後破産」の危機 (※写真はイメージです/PIXTA)

「勝ち組」Aさんが老後破綻の危機に陥ったワケ

では、一般的にどれくらいの退職金が平均なのでしょうか。

 

厚生労働省「平成30年就労条件総合調査 結果の概況 退職給付(一時金・年金)の支給実態」によると、大卒または大学院卒の管理職、事務職、技術職で勤続20年以上の人に支払われる退職金の金額は1,983万円です。

 

企業の規模別でみると、従業員が100~299人の企業の退職金は25~29年で1,019万円、30~34年で1,830万円。30~99人規模の企業の退職金は、全体平均が1,096万円です。

 

つまりAさんの退職金2,000万円は全体からみて多く、一般的には「勝ち組」といえます。

 

では、なぜAさんご夫婦は老後破綻の危機に陥ってしまったのでしょうか。問題点は大きく2つあると考えられます。

 

①きちんとしたライフプランニングをすることなくリターンを求め、リスクを取りすぎる資産運用をしたから。
②退職してからも、支出を抑えずに生活をしているから。

 

この2点について、以下で詳しく説明していきます。

Aさんに不足していた「お金の可視化」

まず①についてですが、もし退職後にしっかりとしたライフプランニングを行い、キャッシュフロー表等でお金の動きを可視化していれば、無理にハイリスクハイリターンな運用をしようと思わなかったでしょう。可視化を行えば、老後はなんとか生活ができることが明確になるからです。

 

仮に、退職後の2,000万円、預貯金1,000万円、株式500万円の合計3,500万円を65歳から15万円ずつ取り崩した場合、運用利回り0%なら84歳で枯渇します。

 

2021年の日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳ですから、0%での運用であった場合寿命より先に資金が枯渇してしまうリスクはたしかにあるのですが、それでも84歳までは持ちます。

 

一方、仮に3%での運用をした場合ですと、94歳まで資金が持ちます。つまりこの時点で、Aさんは「3%程のリターンの追及でよかった」ということになります。新興国通貨のような10%程のリターンは必要なかったのです。

 

次に問題点②に関してですが、Aさんは退職後も現役時代と同じような生活をしており、月に支出が35万円に対して年金等の収入見込みが約20万円。そのため収支は毎月15万円の赤字でした。

 

総務省『家計調査報告(家計収支編)2020年(令和2年)平均結果の概要』によると、65歳以上で無職・2人暮らしの場合1ヵ月の生活費は平均22万円程度です。Aさんの暮らしは、一般的な夫婦よりも支出が多いことがわかります。もし仮に支出を少しでも抑えることができれば、もっと資金寿命は長くなります。