1. 不動産小口化商品とは?
不動産が小口化されて販売されている商品を、不動産小口化商品と言います。複数人の投資家が共同で1つの物件を購入、および管理する形式です。
通常の現物不動産であれば、数千万円以上の投資が必須です。一方、小口化不動産であれば、最低100万円程度から投資を始められるため、手軽に投資できます。
2. 不動産小口化商品の市場規模
不動産小口化商品の市場規模は、およそ年間1,000億円前後で推移しています。
不動産小口化商品の運営を取り決める「不動産特定共同事業法」は、1995年に施行されました。その1995年から累計すると、市場規模は3兆円に迫る勢いです。
近年は「不動産STO」と呼ばれる商品も販売され、新しい局面を見せています。比較的新しい投資方法であるため、まだまだ市場規模は拡大する見込みがあります。
3. 不動産小口化商品の3種の形態
不動産小口化商品には、主に3種の形態があります。「匿名組合型」「任意組合型」「賃貸型」です。
形態ごとにまとめたのが、次の表です。
匿名組合型 |
任意組合型 |
賃貸型 |
|
投資額 |
最低1口1万円から |
最低1口100万円から |
最低1口100万円から |
運用期間 |
最低数ヵ月から |
最低10年以上 |
最低10年以上 |
初期費用 |
不要 |
必要 |
必要 |
元本割れの可能性 |
低い |
高い |
高い |
収益 |
少ない |
高い |
高い |
不動産の保有権利 |
事業所のみ |
投資家と事業所 |
投資家のみ |
登記簿の記名 |
記名されない |
記名される |
記名される |
相続税対策 |
できない |
できる |
できる |
3.1. 匿名組合型
匿名組合型は、不動産を管理・保有する事業所へ出資する形式です。事業所はその出資金で不動産を運用し、発生した利益を投資家へと還元します。
実際に不動産を保有せずに、匿名での出資となるため、投資家の名前は登記簿へ記名されません。比較的少額での投資が可能で、なかには1口1万円で投資できる案件もあります。運用期間は数ヵ月から数年と、短いものが多いことが特徴です。
投資範囲以上の責任を負う必要はないため、運用に失敗してもそれ以上の損失は発生しません。その分、他の型と比べると収益配分は少ない傾向にあります。
3種ある不動産投資の内、最も気軽にできる投資方法だといえます。
3.2. 任意組合型
任意組合型は、複数の投資家と事業所が結託して1つの不動産を保有する形式です。
匿名組合型と異なり、投資家自身も事業運営の一部として参加します。実際は、事業所が代表して運営や管理をし、得られた利益が投資家へ分配されます。
また、損益が発生すると、出資額以上に投資家が補填するケースも発生します。リスクが大きい一方で、収益が出た際は多くの利益を得られます。
投資額は1口100万円程度、運用期間は3〜10年程度が一般的です。登記簿へ投資家の名前が記名されるため、実際に不動産を保有しているのと同じ扱いになり、相続税の節税にもつながります。
3.3. 賃貸型
賃貸型は、複数の投資家が連名で1つの不動産を保有する形式です。その不動産を事業所へ貸し出して、代わりに運用してもらい、出た利益を分配してもらいます。
任意組合型と同様に、登記簿へ投資家の名前が記名されます。相続税対策になる点も同様です。
投資額は1口100万円、運用期間は10年以上が一般的です。他の型と比較すると、賃貸型は商品数が少なめです。
4. 他の不動産投資との比較
不動産小口化商品の他に、不動産投資にはさまざまな方法が存在しています。
各投資方法の特徴をまとめたものが、以下の表です。
不動産小口化商品 |
現物不動産 |
J-REIT |
不動産クラウド ファンディング |
ソーシャル レンディング |
||
匿名組合型 |
任意組合型 (賃貸型) |
|||||
投資額 |
少額 |
高額 |
高額 |
少額から |
少額から |
不動産投資ではない |
銀行の融資 |
受けられない |
受けられる |
受けられない |
受けられない |
||
不動産の選定 |
できる |
できる |
できない |
できる |
||
元本割れリスク |
低い |
高い |
高い |
高い (投資家の運用次第) |
低い |
|
利回り |
低い |
高い |
高い |
高い (投資家の運用次第) |
低い |
|
流動性 (権利の売買) |
低い |
低い |
高い |
低い |
||
不動産の管理 |
不要 |
必要 |
不要 |
不要 |
||
初期費用 |
不要 |
必要 |
必要 |
不要 |
不要 |
4.1. 現物不動産
現物不動産の投資は、実際に不動産を保有して管理する投資方法です。ここでは、小口化されていない現物不動産投資を指します。小口化されていないため、投資額は数千万円から数億円と高額です。
また、入居者の募集や建物の整備などの管理を、自ら行わなければなりません。
高額投資が必要なため、銀行の融資を受けることが一般的です。損益が出た際は自分ですべて補わなければなりませんが、その分利益が出たときは投資家へすべて還元されます。
4.2. J-REIT(不動産投資信託)
投資家がお金を投資し、その資金で事業所が不動産の購入・運営を行う形式がJ-REITです。証券取引で投資するため、いつでも自由に売買可能です。
不動産投資の一種ではありますが、管理する不動産は事業所が選定します。
1口10万円程度から投資できるため、比較的安価です。また、不動産の管理は不要であるため余計な手間も発生しません。自由に売買できるため、大きな損益を自分で判断して回避できます。
4.3. 不動産クラウドファンディング
インターネットを使って投資家を募り、集めた資金で不動産の運用をする形式が不動産クラウドファンディングです。その運用で得た利益が、投資家へ分配されます。
J-REITと似ていますが、こちらは基本的に途中で権利を売り払えません。
一方で、価格変動のリスクが低く、安定した運用が可能です。スマートフォンやパソコン上のやり取りだけで完結するため、手軽に投資ができます。投資額は1口1万円から始められ、期間も短いものが多い投資方法です。
4.4. ソーシャルレンディング
ソーシャルレンディングは、インターネット上で事業所へお金を貸し付ける投資方法です。貸し付けた利子で収益を得ます。
不動産投資としてよく比較されますが、厳密には不動産投資ではなく、資金の運用方法も不動産に限りません。
貸し付ける際に利子があらかじめ決められており、その決まった利子額を受け取ります。安定した収入を得られますが、必ずしも利益が保証されているわけではありません。
5. 不動産STOとは?
不動産を証券化して、自由に売買できるようにした不動産小口化商品を、「不動産STO」と言います。
STOとは「Security Token Offering」の略です。Security Token(セキュリティトークン)は、ブロックチェーン技術によりデジタル化されたものを指します。
ブロックチェーンは、自動で取引データを公開・管理できるシステムです。自動化することで管理の手間やコストを削減できるため、取引の中間コストを抑えられます。
また、外部から改ざんされない高いセキュリティが特徴です。信頼性が非常に高く、自由な売買が可能になるため、従来の不動産小口化商品より流動性が高くなります。
まだ登場したばかりですが、不動産STOだけで2030年には2兆円を超える市場になると予測されています。
6. 不動産小口化商品のメリット
これまで不動産小口化商品の紹介をしてきましたが、投資するさまざまなメリットがあります。
ここでは、そのメリットについて解説します。
6.1. 手軽な投資|少額から始められて管理も不要
従来の現物不動産投資と比較すると非常に手軽な投資方法です。主に2つの観点から解説します。
① 少額から始められる
匿名組合型であれば1口数万円から開始できるため、初心者の方におすすめです。また、数百万円単位の案件もあるため、自分の投資スタイルにあった投資額を選べます。
② 管理が不要
現物不動産では、物件の管理が必須でした。一方、不動産小口化商品は、入居者募集や清掃業務を事業者へ一任できます。
6.2. 物件の安定さ|プロと自分の目が選んだ物件
小口化して出される商品は、不動産のプロが選んだ物件です。そのため、安定した収入が得やすく、資産価値が下がりづらい物件が多く紹介されています。不動産投資が初めての方でも、リスクの低い物件が多いため信頼して利用できます。
また、J-REITと違い、投資する不動産を自分自身で判断できます。つまり、プロが選んだ不動産から、さらに自分の目で不動産を選定できます。不動産投資に知見のある方にもおすすめの投資方法です。
6.3. 現物保有|遺産相続に便利
任意組合型では、不動産を現物で保有していることと同じ扱いになります。そのため、相続税の節税が可能です。遺産相続する際、現金であればその分だけ相続税がかかります。
一方で、不動産はおおよそ7から8割程度の評価となり、評価額が少ない分だけ相続税も減少します。
また、小口でいくつも不動産の権利を持つことで、遺産の分割が容易です。遺産相続の際に揉めづらくなる、非常に便利な投資方法です。
6.4. ローリスクで安定収入|小口化によるリスク回避
不動産小口化商品は、基本的にいくつもの商品に投資して利益を稼ぐことが一般的です。複数の商品へと投資することでリスクが分散されるため、ローリスクで運用できます。
たとえば、1つの不動産が倒産しても、他の不動産に投資していれば立て直しが可能です。
また、不動産小口化商品は利回りも安定しています。平均して2~6%程度の利回りを得られるため、大きな負債を抱えるリスクが少なく投資できます。
7. 不動産小口化商品のデメリットと解決法
メリットの多い不動産小口化商品ですが、もちろんデメリットも存在します。
ここでは、デメリットとその対策について解説します。
7.1. 利回りの低さ|ローリスク故にハイリターンはなし
ローリスクで運用できる一方、現物不動産と比較すると利回りは低く設定されています。そのため、投資額に対して得られる利益は少なくなります。
分配金も年に1から2回ほどが基本であるため、利益を得る機会も少数です。
■解決策
小口化商品とは、リスクを抑えて安定した収入を得るための投資方法です。そのため、利益が少ない点は割り切って投資しましょう。もっと多くの利益を得たいのであれば、他の投資方法を選択できます。
7.2. 融資不可|自己資金のみでの投資
通常の現物不動産であれば、銀行の融資を受けて投資することが一般的です。
一方、不動産小口化商品は、基本的に銀行の融資が受けられません。そのため、自己資金以上にレバレッジを効かせることは望めません。
■解決策
初めに自己資金を用意しましょう。そもそも、小口化商品は少額で投資できるのがメリットです。自分の元手に見合った安価な物件から選択できます。
7.3. 元本保証なし|途中解約不可のリスク
以下の2点により、損失を被る可能性があります。
① 元本割れのリスク
元本割れのリスクを抱えています。比較的ローリスクの投資方法ですが、損益を被る可能性はあります。
② 途中解約不可
原則的に、契約期間内は途中解約できません。そのため、資産価値が落ちてきても売却不可能です。
■解決策
複数の不動産へ投資することで、リスクの回避が可能です。1つの不動産で損益を被っても、他の不動産から得られる利益でカバーできます。また、近年登場した不動産STOは自由な売買が可能です。
7.4. 選択肢の少なさ|発展途上の投資方法
現物不動産投資は多彩な不動産が売り出されている一方、小口化されたものは比較的少ないことが特徴です。
また、人気の高い投資方法であるため、案件の取り合いになる可能性があります。
■解決策
小口化商品は、現状まだまだ発展途上の投資方法です。これから商品も増えると見込まれます。それまでは、別の投資方法で資金を蓄える選択肢も視野に入れましょう。
8. 不動産特定共同事業法について
不動産特定共同事業法(以下不特法)は、1995年4月に施行されました。そのあと、時代に合わせて何度か改正されています。
不動産特定共同事業とは、複数の投資家から資金を集めて不動産を運営する事業です。不特法が制定されるより以前も、不動産を小口化にして販売した商品は存在しました。
一方で、バブル崩壊に伴い、商品を取り扱っていた事業所の倒産が相次ぎました。小口化の商品を取り扱っていた事業所は、経営の基盤がしっかりしていないところが多かったことが一因です。多大な損失を被った投資家が多数いたため、不特法の制定に至った背景があります。
現在では、その不動産特定共同事業法に基づいて認定された事業所のみ、販売・運営が可能です。
9. 不動産小口化商品を選ぶ際のポイント
ここでは、実際に小口化商品を購入するうえでのポイントを4つに分けて説明します。
① 利回り
投資家が特に気にするポイントが利回りです。表示されている利回りと、実際の利回りが違うケースもあるため、よく確認しましょう。
② 運用期間
自分の投資スタイルに合わせて、運用期間を選定します。長期か短期かを明確にしましょう。
③ 物件の種類
住宅やホテル、オフィスビルなど物件はさまざまです。人気の地域に立つマンションや都心のビルは人気が高く、安定した収入を得られる可能性があります。
④ 配当金の税務区分
匿名組合型、任意組合型によって配当金の税務区分が変わります。税務区分によって節税対策となるかどうかが決まるため、目的により選択しましょう。
10. まとめ
不動産小口化商品の市場規模は、3兆円に迫っています。近年では、不動産STOと呼ばれる投資方法も登場し、さらなる成長が期待されています。
安定した利益を得たい方や、相続税対策をしたい方は、不動産小口化商品の購入を検討してはいかがでしょうか。