アメリカで歴史的な金利引き上げ政策が発表
2022年5月4日、アメリカの中央銀行的役割を果たすFRB(米国準備制度)が政策金利の水準を0.5%引き上げ、0.75〜1%とすることを発表しました。
政策金利の引き上げは通常0.25%幅の引き上げが一般的で、0.5%幅の大幅な引き上げは実に22年ぶり。歴史的な対応といっても差し支えなさそうです。FRBはこの大幅引き上げの理由を、ここ最近の非常に高いインフレ率に対応するためと説明していますが、ではなぜ、金利の引き上げがインフレの抑制につながるのでしょうか?
そもそも、インフレとは何か一言で説明すると「供給よりも需要の方が多い」状態。ざっくり、以下のような流れでインフレが発生すると考えられます。
1.景気が良くなる
↓
2.企業/個人の利益/収入が増える
↓
3.投資/買い物に使えるお金が増える
↓
4.モノやサービスの売れ行きが良くなる
↓
5.「高くても売れる」ため、価格が上昇する
つまり、インフレは「需要と供給のバランスで価格が決まる」という市場経済の原理で発生するもの。需要が供給を上回る状況では、景気はさらに良くなっていく傾向があるため、1〜5の流れが繰り返されることで、インフレも加速していきます。
好景気下では一般的にインフレ状態は持続するものなので、それ自体はむしろ歓迎すべきことなのかもしれません。しかし、問題なのは1〜5のサイクルのなかで、人々の収入が増えるペースが、モノやサービスの価格が上昇するペースと一致するとは限らないこと。
インフレがゆっくりと進行すれば、一時的な物価高に苦しむことがあっても、いずれは収入が追いつく可能性も高いですが、急激にインフレが進行してしまうと、収入増のペースが追いつかず、家計の圧迫や生活苦につながってしまう可能性が高くなります。そのため、各国の中央銀行は国民が貧困に陥らないよう、インフレのペースをコントロールしようとするわけです。
インフレは人為的に引き起こすこともできる?
ここまで説明したのはいわば「自然発生」的なインフレですが、人為的に引き起こされるインフレも存在します、それが「金融緩和」によるインフレです。インフレは景気が良くなることで起こることを説明しましたが、金融緩和、つまり政策金利の大幅な引き下げや資金供給量の増大によって、引き起こすこともできるのです。
そのメカニズムはざっくり以下のような流れになります。
1.金利が下がり、お金の借り入れ条件が有利になる
↓
2.企業/個人の借り入れが増える
↓
3.投資/買い物に使えるお金が増える
↓
4.雇用が増え、モノやサービスの売れ行きが良くなる
↓
5.人材の取り合いにより給与水準が上がる
↓
6.モノやサービスの価格も上がる
↓
7.景気が良くなる
3以降の流れは、基本的に自然発生的なインフレと同じです。消費が喚起されることで景気が良くなり、それによってさらに消費が換気される、というサイクルになります。
このように、金利を引き下げることで景気回復のきっかけを人為的に作り出せることから、バブル崩壊後やコロナ禍などの不況時には、利下げ政策が取られることが一般的です。インフレはあくまでその過程の副産物で、目的はあくまで景気を良くすることにあると言えるでしょう。
利上げというインフレへの「ブレーキ」は吉と出るか
金利の引き下げが消費を促進するアクセルだとすると、利上げは消費を抑制するブレーキとして働きます。そのメカニズムは、利下げ時と正反対に進んでいきます。
1.金利が上がり、お金の借り入れ条件が不利になる
↓
2.企業/個人の借り入れが減る
↓
3.投資/買い物に使えるお金が減る
↓
4.雇用が減り、モノやサービスの売れ行きが鈍る
↓
5.人材が余り、給与が上がりづらくなる
↓
6.モノやサービスの価格が据え置かれる
↓
7.景気の伸びが鈍る
インフレ抑制策として利上げが行われる理由も、基本的にはこれと同じです。
企業は投資資金が減ると、人件費削減を考え、新規採用をストップしたり、雇い止めを行なったりします。そのような企業が増えると、少ない求人を多くの求職者が取り合「企業優位」の状況となるため、労働者の給与水準も上がりにくくなります。それに伴い、人々の消費も抑制。モノやサービスの売れ行きが鈍ると、価格を下げることで売上回復を図ろうとする企業が増え、物価が下がり、インフレの進行が抑えられる……という流れです。
現在のアメリカにおける急激なインフレ状況は、コロナ禍による不景気からの回復をねらった極端な利下げ政策が大きな要因として引き起こされた事態だと考えられます。そこからの「揺り戻し」として、今回の極端な利上げが行われたと考えてよいでしょう。
急激な「アクセル」の踏み込みによって発生したとも言えるアメリカのインフレですが、それに対する“ブレーキ”の効きはどの程度のものとなるか、注意して見守りたいところです。