1. 不動産投資・クラウドファンディングにおける関連法律一覧
不動産投資やクラウドファンディングにおいて、関連する法律をまとめました。主に、以下の項目です。
項目 |
関連法律 |
不動産クラウドファンディング |
不動産特定共同事業法 |
現物不動産 |
|
REIT |
金融商品取引法法 |
株式投資型クラウドファンディング |
|
融資型・貸付型クラウドファンディング |
貸金業法 |
どの投資やクラウドファンディングを活用するかによって関与する法律が違うため、対象となる法律がどれなのかしっかり確認することが重要です。また、法律を熟知していないと、後々トラブルになる可能性もあります。
不動産クラウドファンディングに大きく関わる「不動産特定共同事業法」について、詳しく解説します。
2. 不動産特定共同事業法(不特法)制定の経緯・目的
不動産特定共同事業法(不特法)とは、不動産特定共同事業において適切な運営の確保と、その事業に投資する投資家の資産を守るために制定された法律です。
日本は、バブル崩壊のときに数多くの投資家が自身の資産を失った過去があります。その経緯から、投資家を保護するために作られた法律が、不動産特定共同事業法(不特法)です。
この法律により、不動産特定共同事業を開始するためには、国土交通省大臣や都道府県知事の許可が必要となりました。
3. 不動産特定共同事業の契約種別
不動産特定共同事業には、複数の種類が存在します。ここでは、代表的な4種類を解説します。
3.1. 匿名組合契約(匿名組合型)
匿名組合契約とは、不動産特定共同事業者と投資家が匿名組合契約を結んで運用されるものです。投資家が不動産を所有する契約ではなく、事業者が不動産を運用し、運用益を投資家に配分する契約です。
1口当たりの金額が少額に設定されている商品も多く、資産運用として活用されます。また、不動産を所有しないため、相続税対策には使用できません。長期での運用よりも、短期で運用されるものが多い商品です。
3.2. 任意組合契約(任意組合型)
任意組合契約とは、不動産特定共同事業者と投資家が任意組合契約を結んで運用されるものです。この契約は投資家が不動産を所有する契約で、登記簿にもその投資家の名前が記載されます。所有権を事業者から投資家へ変更するため、不動産取得税や登記に関する諸費用が必要です。
1口あたり数百万円する高額商品が多く、資産運用よりも税金対策として活用されることの多い商品です。
3.3. 賃貸契約(賃貸型)
賃貸契約は、不動産特定共同事業者と投資家が不動産の賃貸契約を結んで運用されます。
投資家は、不動産を持っている人から共有持分権を購入して所有権を取得します。不動産特定共同事業者は投資家の代わりに賃貸物件の運用を行い、その賃料収入を分配する方法です。
不動産の権利は、その物件の共有持分権を所有している投資家で共有します。匿名組合型と同じように、任意組合契約と比べると少額の投資額で始められます。
しかし、あくまでも投資家たちで共有している形のため、物件を一括で売却する場合や分割請求がある時は、他の投資家たちの合意が必要です。
3.4. その他の型・契約
上記の3種類の他にも、契約の種類はあります。それは、他国の法律に基づく契約がされていて、なおかつ上記3種類の契約に相当する物です。
また、不動産取引によって生まれる利益の配分や共有を約し、以下を満たす取引も不動産特定共同事業として扱われます。
- その事業が公正に行われていること
- その契約に関して利益が受けられる者の保護を確保する必要があること
4. 不動産特定共同事業者の種類と認可要件
不動産特定共同事業の事業者には、第1号事業者・第2号事業者・第3号事業者・第4号事業者の4種類があります。
また、どの種類の事業者であっても満たさなければならない以下の必須項目があります。
- 宅地建物取引業者免許を所有している
- 不動産特定共同事業を運営するために必要な財産的基礎があり、的確に事業を進められる人的構成がある
- 不動産特定共同事業で定められている契約約款の基準を満たす
- 業務管理者を事務所ごとに配置している
これら項目を満たさなければ、事業者としての許可が降りません。
では、4つの事業者を比較して解説します。
4.1. 第1・2号事業者(1994年制定)
第1号事業者は、不動産特定共同事業契約を投資家との間に結びます。そして、契約に基づいて、運営する不動産の取引で得られる利益を投資家へと分配する事業者です。必要な資本金は1億円で、負債額が資産額の10%に満たないことが条件です。
第2号事業者は、第1号事業者が行う不動産特定共同事業契約の代理またはその媒介する事業者を指します。必要な資本金は1,000万円で、負債額が資産額の10%に満たないことが条件です。
4.2. 第3・4号事業者|特例事業(2013年改正)
第3号事業者は、特例事業者の委託を受けて、不動産特定共同事業契約に基づき運営されている不動産取引に関わる業務をする事業者です。必要な資本金額は5,000万円で、負債額が資産額の10%に満たないことが条件です。
第4号事業者は、特例事業者が当事者として締結される特定共同事業契約締結において、代理や媒介をする事業者です。必要な資本金額は1,000万円で、負債額が資産額の10%に満たないことが条件です。
第3・4号事業者には、第1・2号事業者とは異なる点があります。それは、第3号事業者を通して特例投資家との契約を結ぶ必要がある点です。そして、第3号事業者の認可を受けている事業者に委託する必要があります。
この特例事業に認定される企業は、銀行や宅地建物取引業者など、十分な資本と適切な判断能力を持った企業に限定されます。
5. 不動産特定共同事業における2017年の改正内容
都市の過密化や地方の人口減少により、空いている物件・不動産が急増しています。土地はあったとしても、所有する人がなく活用できていないという現状があります。
その現状を改善するために、不動産特定共有事業を見直して、投資業界と全国の地方都市を活性化しようとする目的で、国が動いて改正されました。
改正において、以下3つのポイントがあります。
- 「小規模不動産特定共同事業」の新たな創設
- クラウドファンディングを「電子取引業務」と定義
- 投資に関する規制の見直し
それぞれについて、詳しく解説します(参考:国土交通省「不動産特定共同事業法の一部を改正する法律(平成29年法律第46号)》」「不動産特定共同事業法の一部を改正する法律案を閣議決定」)
5.1.「小規模不動産特定共同事業」の新たな創設
小規模特定不動産共同事業とは、従来の第1号・第2号事業の資本金要件を下げた事業形態です。
これにより、今まで共同事業に参入できなかった規模が小さい不動産業者も、参入できるようになりました。必要な資本金額は、1,000万円です。この事業の条件には『事業参加者から集める資本金は、100万円以上、合計金額は1億円を超えてはいけない』という項目があります。
運営する事業範囲は限定されますが、今まで以上に幅広い企業の参入が見込まれます。
5.2. クラウドファンディングを「電子取引業務」と定義
初めて、クラウドファンディングを「電子取引業務」と定義した改正です。電子取引業務に携わる不動産特定共同事業者は、そのための申請が必要です。
この申請をよりスムーズに行うために、以下の項目がインターネット上で可能になりました。
- 契約成立前に必要な説明
- 契約成立時の書面交付
- 財産の管理報告書
これによって、より不動産のクラウドファンディングへの環境が整えられました。
5.3. 機関投資家における規制緩和
不動産業界の投資市場を活性化させるため、さまざまな規制が緩和されています。
今まで特例事業者は、約款の登録をして、その約款に乗っ取った不動産投資をする必要がありました。しかし、2017年の改正では、特例事業者が出資して成立する不動産の特定共同事業について、約款規制が廃止されました。これにより、多くの資本を持つ企業や銀行が柔軟な考えで出資や契約ができるようになりました。
また、適格特例投資家限定事業が設定されました。これにより、高度な知識を持つ投資家(適格特例投資家)が事業に参加する時、届出のみで不動産特定共同事業が開始可能です。
このように、規制の緩和によって、投資家がより柔軟にさまざまな不動産へ投資できるようになりました。
5.4. 一般投資家における参入障壁の低下
特例事業において、一般投資家の参加範囲が拡大しました。特別事業とは、リスクの少ない不動産の修繕事業が当てはまります。取引の範囲やその取引に参加できる投資家の数を増やすことで、全国にある空き物件や地方都市の活性を見込めます。
投資できる金額の範囲は限られている事業ですが、一般の投資家が参入可能となったことで、投資業界のさらなる活発化が見込めます。
6.(補足)2018年の閣議決定「未来投資戦略2018」
政府は、「未来投資戦略2018」という施策を打ち出し、今後の日本経済や次世代産業について詳しく協議しました。この施策では、投資促進についても協議されています。
特に中期的な投資を促進するため、「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス -ESG・ 非財務情報と無形資産投資-」(平成 29 年5月 29 日経済産業省策定)の更なる周知・環境報告ガイドラインの公表を掲げている内容です。
活力のある投資市場を目指して、国もさまざまな方法でアプローチしています(参考:内閣官房「未来投資戦略2018概要」)。
7. 不動産特定共同事業における2019年の改正内容
2019年3月、「未来投資戦略2018」を踏まえた内容で不動産特定共同事業の改正を更に行いました。これは、不動産クラウドファンディング事業の促進を目的とした改正です。
内容は、以下の通りです。
- 電子取引業務ガイドラインにおける6つのルールを設定
- 施行規則の改正で長期で安定した不動産クラウドファンディングを促進
- 設立3年以内の法人でも不動産特定共同事業に参加が可能
- 不動産流通税における特例措置の延長・拡充
- 特例事業者が宅建保証協会へ加入することを認可
それぞれの内容について、詳しく解説します。
7.1. 電子取引業務ガイドラインにおける6つのルールを設定
不動産クラウドファンディングに携わる事業者が開示しなければいけない項目が明確に制定されました。
- 電子情報処理組織の管理
- 適切な審査
- クーリング・オフ
- 定期的な情報提供
- 重要事項の閲覧
- 分別管理の徹底及び金銭の預託
事業者は上記の6項目に関して、開示および整備を求められるようになりました。
7.2. 施行規則の改正で長期で安定した不動産クラウドファンディングを促進
対象の不動産変更型契約に対する規制の合理化を図る内容です。また、約款の内容の基準が変更され、書面に記載する事項も改正されました。
これにより、長期的に安定した不動産クラウドファンディングに、個人が参加できるようになりました。
7.3. 設立3年以内の法人でも不動産特定共同事業に参加が可能
2019年の改正によって、新設法人もクラウドファンディングに限り、事業への参加が認められました。
今まで、不動産特定共同事業に参入するためには、前年度の事業利益の審査や今年度の見込み利益が細かく調査されていました。また、提出書類に過去3年分の決算書類が必要でした。
しかし、この改正によって、今まで参加できなかった企業や業者が参加可能となり、より投資業界の活性化が見込まれます。
7.4. 不動産流通税における特例措置の延長・拡充
不動産取引を目的として不動産を所有したときにかかる、不動産流通税の特例措置が2021年3月31日まで延長されました。民間の不動産投資を促進させることが目的です。
また、「対象不動産に係る工事の竣工後10年以内の譲渡」の要件も撤廃されています。「土地及び建物」の取得要件も見直され、より不動産クラウドファンディングへ参入しやすい環境が構築されています。
7.5. 特例事業者が宅建保証協会へ加入することを認可
一定の特例事業者が宅建保証協会へ加入することが認められました。
今まで、特例事業者は営業保証金1,000万円を供託所に供託しなければいけませんでした。特別目的会社ごとに保証金を供託すると、資金効率が悪く、特別事業者の普及につながりません。
宅建保証協会へ加入すると、弁済業務保証金分担金60万円の納付で営業保証金の供託が必要なくなります。
8. まとめ
本記事では、不動産特定共同事業の概要や、この事業を進めるために国が行った法改正について解説しました。不動産クラウドファンディングは、幅広い投資金額で資産運用や税金対策が可能な人気の高い投資事業です。
国も事業を推進しており、過去に数回、法律の改正や廃止をしています。そのため、今後も活発な市場になることが予想される事業です。
今後、資産運用や節税対策を目的として不動産クラウドファンディングを始める方は、ぜひ参考にしてください。