1. 不動産クラウドファンディングの概要
そもそもクラウドファンディングとは、考え方や意見に賛同した人々がプロジェクトへの支援として出資する仕組みのことです。出資者は、対価として立案者からサービスや金銭などを得ます。
不動産に関するクラウドファンディングは、複数人の投資家からインターネットを用いて支援金を集め、その資金で不動産の取得・運営をする形態を指します。そうして得た利益を、出資した投資家達に分配する仕組みです。
不動産クラウドファンディングの種類には、
- 不動産特定共同事業法(不特法)に基づいた電子取引業務の型(本記事ではこちらに焦点を当てて説明)
- ソーシャルレンディング(融資型)
- 株式型
と呼ばれるものがあります。どのような違いがあるのかを見てみましょう。
仕組み | 特徴 | メリット | デメリット | |
---|---|---|---|---|
不動産特定共同事業法 |
投資家が運営者に |
出資者の匿名化が可能 |
・少額から可能 ・細かなチェックが不要 ・リスクが比較的低い |
・利回りが比較的低い ・流動性が低い ・途中解約ができない |
ソーシャルレンディング |
融資 |
貸金業として行うため、 |
・金利が比較的高め |
・情報の透明性が低い ・運用期間中は自由に換金できない |
株式型 |
未上場の株式会社に投資 |
未公開株が入手可能 |
・自分のタイミングで払い戻しが可能 ・未上場の有能な株式会社に融資が可能 |
・株式公開までが長く、ハイリスクハイリターン ・日本ではあまり定着していない ・利回りや元本が保証されていない |
不動産クラウドファンディングの仕組みとして、「匿名組合」と「任意組合」と呼ばれる契約方法があります。
匿名組合 |
任意組合 |
・商法で規定されている ・匿名組合員と事業者との1対1契約 ・収益を分配してもらう権利を取得 ・株主とは違い、経営には参加しない ・不動産登記をしない ・損失に対して負担なし |
・民法で規定されている ・組合員全員と事業主との契約 ・不動産を実際に所有する ・業務の執行を委任 ・不動産登記をする ・損失に対して負担あり |
公開されているほとんどの不動産クラウドファンディングは匿名組合型です。そのため本記事では、匿名組合型の不動産クラウドファンディングに絞ってREITと比較します。
2. REIT(リート)の概要
REITを日本語にすると、「不動産投資信託」になります。投資信託というだけに、取引所に上場しており、株価のように価格が順次変動します。そのため、リアルタイムで売買が可能です。
また、REITを所有していると、入居者から得られる賃貸料や不動産の売買損益から、分配金が得られます。
物件の取得や管理・運営は、REITから委託された専門家がすべて行うため、手間がかかりません。
3. 不動産クラウドファンディングとREITの共通点
不動産クラウドファンディングとREITの共通点は、以下のとおりです。
■共通するメリット
- 不動産管理の手間がかからない
- 少額から投資できる
■共通するデメリット
- 元本割れのリスクがある
- 現物の不動産を保有できるわけではない
3.1. 共通するメリット
両者は直接現物の不動産を運用することがありません。そのため、比較的手軽に不動産運用ができるでしょう。
3.1.1. 不動産管理の手間がかからない
どちらも、不動産の運営・管理を委託する形態です。
現物での不動産投資になると、修繕管理や入居者の管理などが大変手間になるうえ、投資金も数百万から必要です。管理会社に一任できることや、ローンを組めるとはいえ、管理会社・ローンの選定など、手間がかかります。
一方、不動産クラウドファンディングとREITは、金銭を支払うか否かの判断をするだけです。
3.1.2. 少額から投資できる
案件にもよりますが、1万円からの少額投資が可能です。
3ヵ月〜1年ほどの短期間から投資できることもあり、一度に多額の費用は準備できないという方も気軽に始められます。
3.1.3. リターンが安定している
不動産クラウドファンディングは、自分で不動産を選べます。不動産クラウドファンディングは、優先劣後出資の仕組みがある案件に投資をすることで、元本割れするリスクを低減できます。他にも、複数に分散して投資することで、リスクを回避し安定したリターンを狙えます。
一方、REITは不動産クラウドファンディングとは違い、不動産が選べません。しかし、不動産投資の専門家が代行して分散投資を行うため、安定したリターンが見込めます。
3.2. 共通するデメリット
投資ならではのデメリットと、運用を一任する不動産クラウドファンディングとREITだからこそのデメリットを解説します。
3.2.1. 元本割れのリスクがある
不動産クラウドファンディングは、利回りや元本が100%保証されていません。そのため、収益が回収できず、元本割れを起こしてしまう可能性があります。
REITに関しても、需給の関係や経済情勢、あるいは自然災害などによる価格変動が原因で収益が変わってきます。そのため、元本割れのリスクがあり、一概にプラスになるとは限りません。
3.2.2. 現物の不動産を保有できるわけではない
現物不動産の運用で得られるような、節税効果は得られません。たとえば、経費計上できる幅は少なく、相続税の評価額を下げることもできません。
あくまでも、不動産で出資を行う立場に限定されることを念頭に置いておきましょう。
4. 不動産クラウドファンディングとREITにおける9つの相違点
両者の違いを、9つの観点から比較します。どちらも良し悪しがあるため、うまく活用して資産形成をしていきましょう。
項目 |
不動産クラウドファンディング |
REIT |
①分配金頻度・利回り |
・年1回、年2回、償還一括 ・利回り相場は2〜8% |
・年1〜2回 ・利回り相場は3%前後 |
②換金の自由度 |
・自分でタイミングを決められない |
・購入、売却時共に自己判断が可能 |
③節税対策の幅 |
・雑所得になり、20万円以内でしか節税できない ・損失があれば損益通算が可能 |
・配当所得になり、比較的広い ・損失があれば損益通算が可能 ・3年間繰り越し可能 |
④価格変動のリスクヘッジ |
・優先劣後方式が採用されている ・元本、配当金の安全性が高い |
・リスクヘッジにかかわる制度がない ・元本、配当金の安全性が低い |
⑤市場規模 |
・数百億円 |
・10兆円以上 |
⑥選択肢 |
・REITよりも選択肢は少ないが、運営者など |
・あらゆる用途の不動産が対象 ・選択肢が多い |
⑦物件選択の自由度 |
・自分で選択が可能 ・マンションやアパートなどの住居不動産が多い |
・自分で選択は不可 ・不動産クラウドファンディングよりも |
⑧運用の手間 |
・事業主が購入、運用、売却まで行う ・投資にのみ専念できる |
・投資家が購入、売却のタイミングを |
⑨分散投資 |
・可能 |
・可能なうえ、少額で複数の不動産に投資できる |
① 分配金頻度・利回り|不動産クラウドファンディングのほうが比較的高い
不動産クラウドファンディングの場合、物件によって変動があるものの、分配金の頻度は年1、2回が大半です。
また、期限が来たとき一括で返還されること(償還一括)もあります。利回りの相場は2〜8%です。一方、REITの分配金の頻度は年に1〜2回です。
利回りは3%前後になることが多く、比較すると不動産クラウドファンディングのほうが比較的高いことがわかります。
② 換金の自由度|REITのほうが比較的高い
不動産クラウドファンディングは、物件を売却した際、資産価値のみに変動があります。投資家自身では換金のタイミングを決められず、事業主が事前に予定していた期間、または市場価値を見て売却します。
一方、REITは、購入や売却のタイミングはすべて投資家自身が行うため、いつでも換金が可能です。
③ 節税対策の幅|REITのほうが広い
不動産クラウドファンディングは、節税効果はそれほど期待できません。通常の不動産投資とは違い、「不動産所得」ではなく「雑所得(20万円以内)」として収入に数えられます。もし仮に不動産クラウドファンディングで損失が出てしまったときは、他の雑所得で得た利益と相殺が可能です。
一方、REITは金融商品のため、申告分離課税という枠組みを選択すれば、20.315%で税率が一定になります。「配当所得」として収入に数えられ、他の株式投資で損失があれば利益分との相殺が可能です。さらに、確定申告により3年間の繰り越しもできます。
④ 価格変動のリスクヘッジ|不動産クラウドファンディングには優先劣後方式が採用されている
両者の共通のデメリットとして、「配当や元本の保証はされていない」と前述しました。
しかし、不動産クラウドファンディングには、優先劣後方式という制度を採用している物件が数多くあります。
優先劣後後方式とは
投資家を優先出資者、事業主を劣後出資者とし、元本の返還や、配当金の支払いを優先出資者から行うことを指します。このシステムにより、元本、配当金の安全性が高まります。
また、不動産投資で出た損失を事業主が先に補てんすることで、投資家のリスクを軽減させます。優先出資者と劣後出資者の出資割合は「8:2」「6:4」など、案件によって異なります。
⑤ 市場規模|REITのほうが比較的大きい
不動産クラウドファンディングの国内市場規模は数百億円です。それに比べて、REITは国内市場全体で時価総額が10兆円規模となり、大幅に規模が異なります。
ただし、不動産クラウドファンディングの市場規模は年々増加している状況です。
⑥ 選択肢|REITのほうが比較的多いものの、不動産クラウドファンディング独自の物件もある
不動産クラウドファンディングよりも、REITのほうが投資先の種類が豊富にあります。
REITでは、マンションや一軒家などの住居不動産に限らず、ホテルやオフィスなど、あらゆる用途の不動産を対象として証券市場に出回っています。
それに比べて、不動産クラウドファンディングは、マンションやアパートなどの住居不動産が主になり、選択肢はあまり多くありません。しかし、空き家問題に取り組む住居不動産や、インフルエンサーが監修したサウナの商業不動産など、不動産クラウドファンディングではユニークな物件を選べます。
⑦ 物件選択の自由度|不動産クラウドファンディングのほうが比較的高い
不動産クラウドファンディングでは、自分で投資する物件を一つひとつ選択できます。選択できる不動産は主にマンションやアパートなどの住居不動産です。
一方REITでは、事業主が投資家に代わって物件の投資割合を分散します。そのため、投資家自身で物件を選択できません。
⑧ 運用の手間|不動産クラウドファンディングのほうが比較的負担が少ない
不動産クラウドファンディングは、事業主が不動産の購入・運用・売却すべてを行います。そのため、専門知識が一切必要なく、投資にのみ専念できます。
REITでは、購入や売却のタイミングを自分で決められる反面、相場の変動を逐一チェックしておく必要があります。よって、REITは不動産クラウドファンディングよりも手間がかかるといえます。
⑨ 分散投資|REITのほうがしやすい
不動産クラウドファンディングでは、自分で一つひとつの物件を選べる分、リスクをかんがみて分散投資を考慮に入れる必要があります。
一方で前述のとおり、REITは投資家のお金を預かって、あらゆる不動産に投資します。不動産投資のプロが物件の投資割合や選定を行うため、1つの銘柄を購入するだけで分散投資が可能です。
5. それぞれのメリット・デメリットまとめ
前述した内容を踏まえて、両者のメリットデメリットを一覧でまとめました。
メリット |
デメリット |
|
不動産クラウド |
・分配金の頻度、利回りが高い ・優先劣後方式が採用されている ・すべての情報が開示可能 ・物件の選択が可能 ・運用の手間がかからない |
・自分のタイミングで換金ができない ・市場規模がREITに比べ小さい |
REIT |
・自分のタイミングで換金が可能 ・市場規模が大きい ・不動産の取り扱いが多い ・分散投資がしやすい |
・元本、配当金の安全性が低い ・不動産クラウドファンディングに比べて |
6. それぞれに向いている人
下記で具体例を挙げて、両者がどのような方に向いているのかをご説明します。
6.1. 不動産クラウドファンディングが向いている人|手間や費用をかけたくない人
不動産クラウドファンディングにおける最大のポイントは、以下の2点です。
- 不動産の運用、売却をプロに任せられる
- 少額から投資が可能で、まとまった金額がいらない
初めに出資すれば、基本的に待つだけで特にすることはありません。不動産投資を試したいが、手間をかけたくない人にはぴったりです。
6.2. REITが向いている人|より大きな利益を上げたい人
REITには、不動産クラウドファンディングと比べて、相場の変動をチェックする作業が増えます。具体的には、配当の利回りだけではなく、証券の売買で収益をあげられる余地があります。
一方で、リアルタイムで価格が下がる可能性もあります。そのため、時間や手間に比較的余裕があり、大きな収益を上げたい人にはおすすめの投資手法です。
7. まとめ
この記事では、不動産クラウドファンディングとREITを比較しました。
不動産クラウドファンディングはREITと比べると市場規模が小さく、選択肢も限られるものの、利回りのよさやリスクの低さなど、さまざまな魅力があります。
投資の肝は分散投資です。それぞれの利点・欠点を踏まえつつ、うまく組み合わせて今後の資産形成に役立ててください。