アメリカの人口増加率が過去最低を更新?
アメリカの人口増加にやや翳りが見えています。アメリカ国勢調査局の2022年1月6日の発表によると、2022年1月1日時点での米国人口は約3億3,240万人と推計されています。これは、1年前の2021年1月1日時点と比べると約70万人ほど増えている数字になり、人口増加率に換算するとプラス0.21%です。
ちなみに日本は2022年1月1日時点で、前年比約63万人減。人口増加率に換算するとマイナス0.50%という数字に。日本から見れば、わずかでも人口が増加しているアメリカは羨ましい限りに思えますが、この数字は史上最低を記録した2021年を下回る数字となっており、アメリカ国内のメディアは危機感を持ってこれを報じています。
人口は国家の経済成長を強く後押しし、株価や不動産相場にも直結する重要な要素。投資家にとっても、現在の数字が一過性のものなのか、今後さらに悪い数字へと進むのかは、今後の投資方針を左右する重要な情報となります。そこで本記事では、アメリカにおける人口増加が翳りを見せている原因を3つの観点から紹介し、今後の見通しを考察します。
人口増鈍化の要因①コロナ禍による死亡者数増加
人口増加に翳りが見えている1つ目の主要な要因として「新型コロナウイルス感染拡大の影響による死者数の増加」が考えられます。
CDC(米疾病対策センター)の報告によると、2020年から2022年までの約2年間で、新型コロナウイルス感染による死者数は100万人近く増加。2020年末時点で約36万人だった累計死者数は、2021年末では累計約82万人に。2021年単年で見ても約46万人とペースアップしており、現在もその勢いは衰えていません。
その結果、全米の自治体の実に7割以上が、出生数より死亡数がマイナスの状態となる「自然減」となる異常事態に陥っている現状があります。
人口増鈍化の要因②移民の減少
2つ目の要因として「移民の減少」が挙げられます。
米国の年間移民流入数は、オバマ政権時代の2016年に約105万人に達したのをピークに減少に転じています。移民減少の理由には複数の要因が考えられますが、まず挙げられるのが、オバマ政権の跡を継いだトランプ元大統領が莫大な予算を投じて不法移民対策に乗り出したこと。これによって、移民が国境を通過するハードルが実際に高まったことに加え、その情報が各国に知れ渡ることで、国境を越えようとする人自体が減少したと考えられます。
また、アメリカへの移民の多くを占めるのがラテンアメリカ出身者ですが、それらの国々が経済的に発展し、自国内での生活が改善されたことも大きな要因として考えられます。自国の経済発展によって、リスクを取ってまでアメリカに入国する必要性が薄れたと言うことです。
最後に、コロナ禍によって入出国規制が強化されたことも挙げられます。アメリカへの入国制限はもちろん、アメリカ国外への出国制限も設けられたことで、アメリカへの移民希望者はもちろん、すでにアメリカ国内に居住している移民も移動の制限を余儀なくされました。
こうした複数の理由が重なって、現在、アメリカへの移民流入数は25万人を切っている状況があります。
人口増鈍化の要因③少子化問題
3つ目の要因として、日本人にもなじみ深い「少子化問題」が挙げられます。
実はアメリカも日本や他の先進国と同じく出生数が減少しており、2011年と比較すると、全米の出生数は約40万人も減少している現状があります。
その要因には、日本をはじめとする他の先進国とほぼ同じ理由が考えられます。例えば、女性の社会進出により子を望まない夫婦が増えたこと、子育てコストの増大によって経済的理由で子を持てない人が増加したことなど、です。また高騰する不動産価格に伴い、都市部を中心にファミリー用住宅が不足するなど、そもそも快適に子育てに取り組む環境自体が不足しているような現状も。
こうしたことは経済・生活水準の高い先進国においては、共通して見られる社会課題だと言えるでしょう。
他の先進国と比較するとまだ初期症状レベル?
さまざまな要因が考えられるアメリカの人口増の停滞ですが、短期的な改善は難しいかもしれません。
コロナ禍はワクチンなどの普及により、やや落ち着きを見せてきた感はあるものの、コロナ以前の生活に戻れる見通しは現状ではまだ見えていません。その他の原因として挙げた「移民インセンティブの薄れ」や「少子化」といった問題は、周辺に経済成長著しい国が位置している国や、先進国にはつきものの“慢性疾患”となる可能性が高いと考えられます。
とはいえ、それによってアメリカの人口減少がさらに加速し、国力の低下にもつながる……などと判断するのは早計です。アメリカの人口増加率の鈍化は、日本やヨーロッパ諸国と比較すれば、まだまだ“初期症状”の段階とも言えるからです。
グローバルな投資という観点では、一国の数字だけを見るのではなく、各国を比較し、「全体としての比較」のなかで人口の動きを見て、投資の可能性とリスクを冷静に分析する視点が必要です。アメリカの人口動態が置かれている現状をどのように評価するかは、投資家としての目線が試される部分かもしれません。