緊迫するウクライナ情勢が米国経済に与えうる影響
ロシアによるウクライナ侵攻が世界的に危惧されています(2022年1月末現在)。アメリカのバイデン大統領はロシアを強く牽制する発言を行う一方、ロシア側に歩み寄るような柔軟な姿勢も見せており、両国の緊張関係の行方に大きな注目が集まっています。
「投資」という観点から見たときに、こうした状況は市場や経済にどのような影響をもたらすのでしょうか? 現在の市場の反応を踏まえて、ロシアのウクライナ侵攻が米国経済に与えうる影響について考察します。
NATOへの反発を強めるロシア
2021年12月3日、ロシアの軍事行動に関する米国諜報文書を独自に入手したワシントンポストがアメリカとロシアの緊張関係を報道。
記事によると、ロシアがウクライナとの国境付近の要所に約7万人もの人員を配置。予備役軍人なども含めると、その数は最大で17万5千人に達する計画があることを伝えました。
こうしたロシアの動きの背景には、NATO(北大西洋条約機構)への警戒感が存在しています。NATOはそもそも、旧ソ連に対抗するために、アメリカを実質的盟主として、イギリス、 フランス、 カナダ、 イタリアなどの西側諸国によって設立された政府間軍事同盟です。
そのNATOに旧ソ連からの独立国であるウクライナが加盟を希望していることが、かねてからロシアの懸念事項でした。
NATOは冷戦終結時、ロシアに対して東方不拡大(民主主義国と社会主義国の境目であったドイツを基準に、それよりも東にNATOは拡大しないこと)を約束したと囁かれていますが、プーチン大統領はウクライナのNATO加盟はこの約束を反故にするものだと主張し、強硬な姿勢をとっています。
今後のウクライナ情勢が市場の動向を左右する
米国経済にとって、ロシアとの緊張関係がネガティブに作用することは間違いありません。大きな理由として、ロシアはエネルギー資源と穀物の輸出大国でもあり、これらの資源や輸入物の価格が高騰する可能性が高いためです。
特に影響の大きさが懸念されるのは、エネルギー価格の高騰。ウクライナ危機が報じられる以前から、アメリカは国内の急激なインフレに苦しんでいますが、とりわけエネルギー分野は値上がり率が高く、ガソリン代は一時58.1%も上昇し、国民からは多くの不満の声が上がっていました。
もしも、エネルギー価格がさらなる上昇を見せるとなると、いずれの産業にとっても歓迎すべきことではありません。
実際、12月の米国市況は軒並み下落しており、1ヵ月間でNYダウ工業株30種は8.73%、S&P 500種は4.36%、グローバルREITは7.55%、WTI先物は13.64%と大幅な下落を記録しました。2022年1月も下落傾向はますます激しくなっており、さらに大きな下落幅を記録することが予想されます。
もちろん、こうした下落の原因はウクライナ情勢だけによるものではなく、実行が近づく利上げとテーパリング、オミクロン株の蔓延など、さまざまなマイナス要因も背景には存在します。
とはいえ、今後のウクライナ情勢が市場の動向を左右する大きな影響要因の一つであることは事実です。どこまでがウクライナ情勢の影響によるものか切り分けて考えるのは難しいですが、今後の動向には注視しておきたいところです。