アメリカ「失業率」がコロナ以前の水準にまで改善
新型コロナウイルスの世界的流行は世界経済にグローバルな打撃を与え、各国で失業率が上昇しました。アメリカも例外ではなく、ピークとなった2020年4月には14.8%の失業率を記録。これは1948年の統計開始以来、もっとも高い数字となり、リーマン・ショックのピーク時10.0%をも大きく上回る数字となりました。
それ以降も依然として高い水準のまま推移していた失業率ですが、ここ最近、急速に改善傾向にあることが注目を集めています。米国労働統計局(Bureau of Labor Statistics)の報告によると、2021年12月の失業率は3.9%にまで改善。コロナ禍以前の失業率が約3.5%前後であったことを考えると、平時に近い水準にまで持ち直してきていると言えるでしょう。
失業率改善の背景には、企業の求人数が増加しているのに対し、仕事を求める労働者数が少ないというギャップが挙げられます。コロナ禍で多くの企業がレイオフ(雇い止め)を行いましたが、経済活動の再開に伴い、労働者補充のために再び求人を再開する企業が増えました。
その一方、離職した労働者のなかには自身の感染を恐れる人、親族の介護に追われる人(多くの介護施設が新規の受け入れを中止していたため)など、スムーズに労働を再開できない理由がある人も大勢おり、そうしたことが背景の一因として考えられそうです。
売り手市場がもたらす「正負の影響」とは?
こうした状況を受けて、労働市場は今、求職者にとって有利な環境=売り手市場になっているようです。人手不足の企業は、求職者の奪い合いを制するために賃金をアップさせており、コロナ禍以前は年率3%ほどだった平均時給の上昇ペースが、4.7%ペースにまで上昇していることからも、そうした事実が読み取れます。
失業率の回復と賃金上昇という事象だけに注目すると、一見好ましい状況にも見えますが、米国経済の現状を鑑みると手放しで喜べないような状況でもあります。
その理由が、インフレです。労働力不足により物品やサービスの供給が減る一方で、賃金が上昇すると人々の購買力は回復し、需要は増していきます。供給が減って、需要は増すとなると、当然物価は上昇。
つまり、インフレが加速されるというわけです。ただでさえ現在、歴史的なインフレの渦中にある米国経済において、こうした労働市場の不均衡は大きな懸念材料になるといえるでしょう。
「金融引締め」が予想以上に早まる可能性も
アメリカのFRB(連邦準備理事会)は現在インフレ対策を急務として対応にあたっており、2021年12月にはテーパリング(量的金融緩和の解除)を当初の予定より前倒しで実行することを発表しました。また終了時期を2022年6月末までとしていましたが、これを3月末に繰り上げる動きもあるようです。
並行して金利の引き上げも2022年中に三度実施する予定だといいます。金融引締めを行うと、株式をはじめ各種投資市場が冷え込むのは確定的で、景気上昇が減速する可能性も高く、そのため当初発表されていたスケジュールでは事は進まないだろう、と楽観的に予想していた投資家も多かったようです。
しかし、インフレの上昇要因が次々と表出している今、対応のタイミングを間違えると経済コントロールが難しくなるような事態にもなりかねません。投資家たちの当初の予想に反して、急ピッチで金融引締めが行われる可能性も高いといえるでしょう。今後の対策の方向性に要注目です。