ゲイツ氏「acute phaseは2022年に収束するだろう」
マイクロソフトの創業者で世界有数の資産家として知られるビル・ゲイツ。実業家としての顔はもちろんですが、自身の財団を立ち上げ、慈善活動に広く従事するなどの活動でも広く知られています。
そんなゲイツ氏が自身のブログサイトで「新型コロナウイルスのacute phase(深刻期、急性期)は2022年に収束するだろう」と予測したことが話題を集めました。
ゲイツ氏はコロナ禍以前の2015年ごろから、感染症の世界的流行を危惧し、自身の財団を通してワクチンや感染状況追跡システムの開発に投資を行うなど、世界規模のパンデミックに対して警鐘を鳴らしてきました。
そんなゲイツ氏が「コロナ禍は2022年に収束する」と楽観的な見通しを持っていることには意外な印象も受けますが、果たして、その理由とはどのようなものなのでしょうか?
コロナ禍収束予測の裏にあるのは「前向きな根拠」
ゲイツ氏が自身の見解を発表したのは、財団の活動や彼個人の意見を発信する場として2010年に開設したWebサイト「Gates Notes」においてです。「YEAR IN REVIEW(1年の振り返り)」とタグ付けされた記事で、2021年の総括と2022年に向けた展望を語っています。
記事タイトルは『Reasons for optimism after a difficult year(困難な1年を経たにもかかわらず、私が楽観的でいられる理由)』というもの。
記事のなかでは、世界各地の異常気象やアメリカ軍のアフガニスタン撤退といった世界的トピックから、自身の離婚や長女の結婚といった自身の身辺的な話題まで、幅広いテーマについて語られています。
しかし、記事の中心を占めるのは、やはりコロナ禍について。ゲイツ氏はワクチンの迅速な開発などを評価する一方で、ワクチン普及の遅れや変異株の登場、人々の気の緩みなどについて触れながら、自身が期待していたほどには、2021年のコロナ禍状況は良くならなかったという見解を述べています。
それでもゲイツ氏が2022年のパンデミック収束を予測するのは、主に以下のような根拠からです。
ワクチンの効果が明白なこと
新型コロナウイルスの致死率はインフルエンザの約10倍ともされているが、ワクチンや抗ウイルス剤を使用すれば、現在の半分以下になることもわかっており、数年後には毎年秋にコロナとインフルエンザのワクチンを同時接種できる可能性もある。
変異を確認するまでのスピードの向上
オミクロン株はデルタ株よりも早い段階で発見されている。これは南アフリカがゲノム開発へ多額の投資を行っていたことのおかげでもあるが、その他の国でも変異株への意識が高まっているのは好材料といえる。
非医薬品的介入(NPI)の重要性が理解されたこと
マスクの義務化、検疫手続き、渡航制限などのNPIがどれだけ効果的か、この2年で世界的な認識が高まった。
「より効果が高く、より安価」な治療薬登場への期待
こうした根拠のなかでも、とりわけ興味深いのが「治療薬の開発」について。ゲイツ氏の活動にも、関わりの深いトピックであるといえます。
これまでは新型コロナウイルスに対して、十分な効果を持つ薬はありませんでしたが、ついにFDA(米国食品医薬品局)の承認を得た新薬が登場。アメリカの大手製薬企業メルク社の「モルヌピラビル」は、入院や死亡の可能性を大幅に減少させ、製造コストも比較的安く、流通しやすい経口薬として注目を集めています。
現在、ゲイツ財団の支援により、メルク社はさらにコストを下げた製剤をジェネリックメーカーに製造委託しているとのことで、今後より多くの人が、この薬を気軽に利用できるようになることが期待されます。
これら複数のポジティブな要因、特に画期的な治療薬の登場が、ゲイツ氏が2022年の収束を唱える主な理由といえるでしょう。
新薬の開発に資金面でのサポートを行なっている投資家として、この治療薬の効果を確信しているからこそ、ある意味で楽観的にも見える展望を語ることができたのかもしれません。
記事のなかでゲイツ氏は、パンデミック収束の予想とともに、コロナ禍で我々が得た学びや教訓が気候変動や働き方、教育分野など、世界が抱えるさまざまな課題に取り組むヒントになるとも言及しています。興味のある方はぜひ、原文をチェックしてみてください。