倫理的な観点はもちろん、企業存続を考える上でも重要
ESGと不動産との関わりについて考える前に、ESGとは何なのか、というところからまず整理します。
ESGは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の3つのワードを指す言葉です。
まず「Environment(環境)」は、地球環境や人を含めた動植物の生存環境に関する問題を指します。考慮すべき項目の代表例としては、資源・エネルギーの浪費や、有害な物質やゴミの排出などが挙げられます。
次に「Social(社会)」。これは、人間社会にまつわる課題を指します。考慮すべき項目の代表例は、人種や性別による差別や搾取などの人権侵害、経済格差などが挙げられます。
最後に「Governance(企業統治)」。これは、組織の透明性や公平性に関する問題を指します。考慮すべき項目の代表例には、隠蔽・偽装体質や、不正取引などが挙げられます。
これら3つは、倫理的な観点はもちろん、企業経営や企業の存続を考える上でも、非常に重要な項目だと言えます。
たとえば、資源枯渇を予期していながら、その少ない資源を有効活用できない企業は生き残ることはできません。また、教育水準と人権意識の高さは比例するともいわれるなかで、差別や搾取の存在する会社に優秀な人材が集まらないのは当然といえます。
そして情報社会の現代において、隠蔽や偽装は容易に露見する可能性が極めて高く、そういった意味でも透明性・公平性を保てない企業は大きなリスクを抱えているのと同じなのです。
不動産投資で特に考慮すべきは「Environment」
企業投資の文脈で語られることが多いESGですが、不動産を評価する際にも応用が可能です。特に重要なのは「Environment(環境)」の項目。
一説によると、世界の二酸化炭素排出量の40%は不動産から排出されると言われています。建物を建てる際には、建材の製造や輸送、加工の過程で膨大な二酸化炭素が発生します。さらに建てた後も、そこに人が住んだり働いたりする限り電気が必要であり、発電の副産物として二酸化炭素が排出され続けます。二酸化炭素だけでなく、不動産は世界のエネルギーの40%と、利用可能な飲料水の30%を消費するとも言われているほどです。
これは投資家にとっても、考慮に値する重要な情報です。将来、資源の枯渇に伴い、不動産価格も上昇していくと仮定すると、エネルギー効率の良い設備や、ソーラーパネルなどを備えた不動産の人気は、今後さらに増すはずです。また、環境負荷の高い新築物件は建てづらくなり、中古取引の比率や需要が増す可能性も考えられるでしょう。
一部の意識の高い人間だけが気にする綺麗事ではない
不動産業界においては、「Environment(環境)」ほどには注目されていませんが、今後は「Social(社会)」や「Governance(企業統治)」も、市場に強い影響を与えるようになると予想できます。
まず「Social(社会)」については、周辺地域の多様性や公平性に寄与することで、不動産の価値も増していくという考え方があります。わかりやすい例として、商業不動産に各種宗教に対応した設備や子ども連れの家族やお年寄りに優しい設計などを取り入れることで、より多くの顧客層を取り込めるようになるでしょう。
住宅不動産の場合も、マイノリティーに配慮した設備や契約条件を備えることで、借り手や買い手がより見つけやすくなり、中古物件にも新しい市場価値が生まれるかもしれません。
次に「Governance(企業統治)」です。これは収益性に直接は影響しないものの、売買リスク回避のための重要な指標になるといえます。
自分が買い手の際には、売り手が嘘偽りなく情報を開示してくれるか、仲介や調査を行う人物は公平な立場かを見極めたいと考えるはず。反対に、自分が売り手の際には、「駆け引き」の範疇を超えるような隠蔽や偽装は行わない方が得策です。
これからの社会では、わずかな利益を得るメリットよりも、トラブルが発生した際の手間やコストの方がデメリットとして何倍も大きくなることを理解しなければなりません。
もはや、ESGは一部の意識の高い人間だけが気にする「綺麗事」ではなく、「経済合理性」として自明のものとして語られる段階に入りつつあります。どのような投資戦略を取るにしても、ESGへの感度を高く持っておくことをお勧めします。