景気を測る指標「VIX指数」とは?
VIX指数(Volatility Index)は、その名の通り、市場のボラティリティーを測る指標のことです。ボラティリティーとは、価格の変動の激しさを数値化したもので、その値が高いほど値動きが激しいことを示しています。
たとえば、暗号通貨(仮想通貨)はボラティリティーが高い代表的な金融商品であり、反対に債券はボラティリティーが低い傾向にあります。同じ金融商品であってもボラティリティーの数値が相対的に高まる時、「市場が荒れている」状態であることがわかります。
またVIX指数には、「シカゴ・オプション取引所(CBOE)ボラティリティーインデックス」や「日経ボラティリティーインデックス」など、市場ごとに算出した指標が存在します。
シンプルに「VIX指数」と書く場合は「CBOEボラティリティ指数」のことを指し、検索エンジンで「VIX指数」と検索して出てくるのも、この「CBOEボラティリティ指数」のこと。S&P500のオプション取引価格をもとに算出されている、もっとも標準的な数値です。
このVIX指数が20を上回ると、投資家の間で不安が高まりつつある状態といわれており、その後に株価の急落が見られるケースが多いのです。
実際に、歴史的な市場の冷え込みの直前には、VIX指数が大きく変動しています。例えば9.11の直前には「43.74」、ワールドコム破綻の際には「45.08」、リーマンショック直前には「80.86」、ギリシャショック時には「45.79」といったように、通常では見られないような大きな変動を示していました。
このVIX指数が史上最高値を示したのは、新型コロナウイルスの感染が拡大し、貿易や市中経済がストップしはじめた2020年3月16日の「82.69」。その後、長らく堅調だったアメリカ株が急落したのは周知の事実であり、大きな経済ショックの前にはVIX指数の高騰が予兆として現れることがわかります。
「VIX指数」はどのように算出されているのか
そんなに重要な数値だとわかれば、俄然興味が沸く人も多いかと思います。とはいえVIX指数の算出法は複雑なので、本記事では大まかな仕組みをご説明します。
VIX指数は簡単にいうと、オプション取引の注文価格を利用して算出しています。
オプション取引価格を活用する理由は、オプション取引市場は価格の変動幅が大きいときほど盛り上がるとされているためです。
オプション取引は、金融商品を未来のある日に、ある金額で売り買いする権利を購入する取引です。たとえば、1ヵ月後に商品Aを10,000円で買う権利(オプション料)を100円で購入したとします。この場合、値上がりするほど利益が大きくなります。1ヵ月後にその商品が11,000円になっていれば、900円の利益を得られる仕組みです。
反対に、商品Aの価格が9,000円に下落してしまった場合は、購入権利を放棄すれば10,000円を支払わずに、オプション料として初めに支払った100円を損切りするだけで済ませることができます。
値上がりだけでなく、値下がりしそうな商品の場合も同様です。商品を「売る権利」を買えば、同じように差益を生み出すことができます。商品Bを売る権利を10,000円で買い、1,000円に暴落すれば9,000円の利益となるのです。読みが外れて15,000円に高騰した場合は、権利を放棄すればいい、という形です。
オプション取引において、ボラティリティーが大きいほうが市場が盛り上がる理由はここにあります。大きく値動きする市場で読みが当たると大きな利益を生むのに対して、読みが外れても権利を放棄さえすれば損失額は一定で済むのです。
こうした理由から、市場が不安定なタイミングではオプション取引の相場が高騰し、VIXの指数が高まる原理が働きます。この現象を裏返すと、VIX指数が高いときは、多くの投資家が相場の高騰や急落を予想しているということになるのです。
最近の「VIX指標」はまだ低い水準にあるといえる
市場の荒れ具合を反映していることから、日本では恐怖指数とも呼ばれているVIX指数。それでは、バブルが懸念されている今の数値はどのようなものでしょうか?
2021年3〜9月の半年の数値を見ると、実は過去と比べてもそれほど高いわけではありませんでした。危険水域といわれる20を上回ったのは数回程度です。
VIX指数が「25」を超えたのは、ウッドショックやコロナ禍の落ち着きを背景とするインフレ懸念があった5月と、先日の恒大集団破綻危機の2度のみ。1年間を通して見ると、米国大統領選直前の10月末に40を瞬間的に上回ったのが最高値でした。
つまり、過去の大きな経済危機に比べると、今の数値はまだまだ低い水準にあるということがわかります。もちろん、VIX値は絶対の指標ではなく、上昇するときは急激に上昇するため、リスクを軽視するのは禁物です。とはいえ、現状からバブル崩壊を過度に恐れる必要は、いまのところはなさそうだといえるでしょう。