経営者が突然亡くなると大変なことになる
「会社をいつまで存続させたいと考えていますか?」――。私はよく企業経営者にこう問いかけます。永続企業を目指すのか、または自分の代で終わりなのか。自分の代で終わりならばM&Aをすればいいでしょう。しかし、続けたいのであれば後継者をつくらなければなりません。
経営者の中には80歳、90歳を過ぎても社長を続けている人がいます。本人は元気でやる気十分、まだまだがんばるつもりですが、社員からすれば不安で仕方ないと思います。
事業承継はまだまだ先のこと、後継者を考えるにはまだ早い、と思っている経営者は、おそらく「死」というものを意識していないのだと思います。死生観がないと言い換えてもいいでしょう。死生観とは常に死を意識しながら生きることです。人は誰でもいつか死にます。それは明日かもしれません。コロナ禍のいまはなおさらで、何が起きてもおかしくない状況です。
経営者が突然亡くなったら大変なことになります。
ある中小企業の例ですが、社長が急に亡くなり、それまで経営に一切タッチしてこなかった奥さんはどうしたらいいのかわからず、弁護士に相談しました。多額の借金を抱えた会社の場合、弁護士は破産をすすめることが多いです。そのほうが楽で儲かるからです。最初に弁護士手数料を取った上で、債権者会議を開き、分配金を分配することになります。
しかも、社員や顧客、取引先などは大きな迷惑を被ります。当社も多くの企業のお手伝いをしています。そういう会社でも、実際は生き残る方法がいろいろあります。ですから経営者は事業承継の準備を進めておくことが大事なのです。
経営者も65歳が社長の引退年齢と考えよ
私は強い死生観を持っています。肥満ですし、がんにもなりました。幸い早期発見で大事には至りませんでした。ですから自分は、いつかは死ぬという思いがあるので、55歳の時に65歳で社長を退くと社内で表明し、事業承継の準備を進めました。
私は経営者も65歳が事業承継の標準だと思っています。いまは70歳を超えてもバトンタッチしない人が多い。しかし、体力と知力、指導力のピークは55~65歳で、65歳を過ぎると確実に落ちます。そうすると守りに入る。守りに入ると経営はダメです。
事業承継をすると、自分の存在価値がなくなる、寂しいと考えている経営者も多いです。しかし、仕事を辞める必要はなく、会長として残り、社長とともに経営にかかわればいいのです。互いに足りないところを補い合いながら経営にあたるのが、いまのような変化の激しい時代に適していると思います。
ただし、会長はあくまでも後方支援に徹することが大事です。私も会長として社長を支えています。毎週30分間、2人だけで話をする機会を設け、そこでは厳しい指摘もします。いろいろな経営課題がありますから、自分の意見は言います。ですが、最終判断は社長に委ねます。社長を譲り、経営を託した以上は任せなければなりません。
そして最後は、「がんばってくれてありがとう」と感謝の言葉をかけています。役員会でも社長の応援団をしています。社長が決めたことだからみんなで応援しようよと。
コロナ禍は事業承継の絶好のチャンス
コロナ禍で経営環境が厳しいいまこそ、私は事業承継の絶好のチャンスだと思っています。コロナ前にはテレワークなど考えもしませんでした。企業の中には素早くテレワークを導入して、社員の安全と感染予防を徹底したところもあれば、テレワークに否定的な経営者もいて、社員を従来どおり通勤させてコロナウイルス感染の危険にさらしている。
また、コロナで大変な時だからこそ自分ががんばらなければという経営者も多いです。しかし、そもそも70歳以上の経営者はITを使いこなせなかったりします。WEB会議やテレワークに対応できない。言うまでもなく、長く生き残れる企業は、環境の変化に素早く柔軟に対応できる会社です。
若い人にバトンタッチして新しい考え方と古い考え方を融合させないと、危機を乗り越えられません。実際、老舗企業の山本海苔店は今年7月に社長が交代しました。虎屋も昨年6月に社長が交代しています。いずれも新型コロナが影響しているようです。いまこそ世代交代し、新しい考え方、革新が求められているのです。
最後にあらためて後継者をつくらないと会社が存続できなくなることを強調しておきたいと思います。それは明日かもしれません。スティーブ・ジョブズの有名な言葉があります。「もし今日が人生最後の日だとしたら、私は今日やることをやりたいだろうか?」――。経営者のみなさんはいかがですか。
藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社
代表取締役会長