後継者がいない、育っていない会社の多くの社長は「毎日の社長業が忙しくて、後継者を見つけたり、育てたりする時間が確保できていない」と答えるのが通常だといいます。「そんな言い訳をしている時点で社長失格です!」とTOMAコンサルタンツグループ株式会社代表取締役会長で、TOMA100年企業創りコンサルタンツ株式会社代表取締役社長の藤間秋男氏は苦言を呈します。第3回は「後継者が育たない、社員が辞めていく」会社の共通点を藤間会長が明らかにします。

優秀な社員から辞めていくワンマン社長

前回、事業承継で安易なM&Aを考える前に、徹底的に後継者探しをすることの重要性について述べました。後継者探しに苦労するということは、裏を返すと、経営者として最も重要な仕事の一つである後継者の育成をしてこなかったということにほかなりません。

 

本来、社員を育てたり、後継者を育てたりすることが、社長の本業なのです。ですから「後継者がいない、育てていない」と言い訳するのは、社長の怠慢であり、ただ社長の椅子に座っていただけのお飾り、あるいは会社のお荷物だったと自戒すべきです。おそらく社内にも優秀な人材がいたはずですが、辞めていったケースも多かったのではないかと思います。

 

実際、経営者からよく「社員がすぐに辞めてしまい困っている」という相談を受けます。給与や福利厚生などを手厚くし、働きやすい環境を整えているにもかかわらず、社員が定着しないという嘆きです。話を詳しく聞くと、ほとんどの場合、その理由は社長がワンマンということにいきつきます。

 

中小企業の場合は特にそうです。創業社長が「独裁者」になり、すべてをトップダウンで決めています。社員の意見には耳をかさず、自分の考えを決して曲げない。自分でなければ経営はできない、とても任せられないと思っているからです。

 

その結果、イエスマンばかりが出世し、優秀な社員は辞めていきます。それでも時代や社会の恩恵を受けて業績は悪くないケースも多いのです。しかし、長期的な経営基盤は構築できていないため、いずれ限界がやってきます。そしていざ事業承継となった時に、経営を任せられる人材は育っておらず、倒産や廃業、売却の道に追い込まれることになります。

 

 

経営理念の確立と浸透で経営の5割が成功

実は私自身、かつては独裁者タイプの経営者でした。社員に対して一方的に指示、命令するだけで、社員の提案はすべて否定していました。その結果、創業10年を過ぎた頃に、幹部社員が一斉に退社するという事態にみまわれました。業績も急激に悪化しました。

 

危機感を抱いた私は、さまざまな本やセミナーなどに参加して経営手法を学びました。その中で転機となったのが、松下幸之助氏の一番弟子だった木野親之氏の話を聞いたことです。

 

「経営理念の確立と浸透ができれば、経営の5割は成功したようなものだ」という言葉に衝撃を受けたのです。これは松下氏が最も大事にしていた格言の一つということでした。「経営理念で経営の5割が成功するなんて」と、にわかには信じられませんでしたが、経営の立て直しが急務でしたから、藁にもすがるつもりで経営理念の見直しに着手しました。そして2年半ほどかけて、新しい理念をつくり上げました。

 

私自身の経験から断言できますが、この「理念」こそが社員を信頼して仕事を任せる上で根幹になる、企業経営で最も重要なものなのです。

 

理念とは、会社の旗印のようなものです。そこには会社の価値観や存在理由、また創業者の思いや大切にしたいことなどが込められています。この理念を社内全体に浸透させ、社員一人ひとりがきちんと理解して行動するようになれば、仕事を任せられるようになります。社長がいちいち指示する必要はなくなります。

 

「理念なんてあいまいなもので経営がうまくいけば苦労しないよ」と思うかもしれません。実際、私もそう思っていました。もともと当社にも創業時の理念があったからです。ただ、それはどこにでもあるような通りいっぺんの借り物の理念でした。しかし、松下氏の教えのとおり本気で理念を考え確立し、社員への浸透を徹底した結果、社員を信じて任せられる組織づくりができるようになったのです。

 

経営理念は自分らしい理念を掲げよ

それからは社員がどんどん成長し、業績も上向いていきました。当時は社員40人でしたが、現在は5倍の200人規模に拡大しました。私は理念の重要性を、身をもって知り、いまでは事業の一つとして顧客企業の理念の確立や浸透のお手伝いをしています。

 

理念づくりは簡単ではありません。当社の理念は「『明るく・楽しく・元気に・前向き』なTOMAコンサルタンツグループは本物の一流専門家集団として社員・家族とお客様と共に成長・発展し 共に幸せになり 共に地球に貢献します」というものです。

 

一般的には社員よりもお客様を先に持ってくることが多いと思いますが、私は社員・家族とお客様の順番にしました。それは社員・家族の幸せが先にあり、それがお客様の幸せにつながる近道だと考えたからです。社員・家族が幸せになれなければ、お客様も幸せにはなれない。実際、老舗企業も社員をすごく大切にしています。これは永続企業の秘訣だと思います。

 

「理念なんて」と考えている経営者にかぎって、ありきたりな理念を掲げていることが多く見受けられます。「お客様ファースト」「自利利他」「社員の物心共に豊かな」など、どれも借り物の言葉です。経営者自身が心底思っているものなのか疑わしい。私は自分自身、明るく楽しく元気で前向きな性格だと思っています。ですから会社もそうありたいと思い理念に盛り込みました。自分らしい理念を掲げることが大事です。

 

ちなみに、一般的にコンサルティングファームや会計事務所は堅苦しくて、やや暗いイメージがあります。ですから当社の理念は同業者の中でも独自性が際立っていて、この理念に共感して入社を希望してくれる社員が多くいます。理念は人材採用の面でも大きな効果があるのです。

 

藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社
代表取締役会長

 

取材・構成/田之上 信
※本インタビューは、2021年8月10日に収録したものです。

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幻冬舎メディアコンサルティング

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