現在、中小企業のM&A(企業の合併・買収)が活況を呈しています。M&Aを選ぶ経営者は本気で後継者を育成する努力をしたのでしょうか、後継者を探すために四方八方手を尽くしたのでしょうか。TOMAコンサルタンツグループ株式会社代表取締役会長で、TOMA100年企業創りコンサルタンツ株式会社代表取締役社長の藤間秋男氏は「安易なM&A」に頼ってはいけないと警鐘を鳴らします。第2回は「安易なM&A」はなぜダメなのか、藤間会長が解説します。

安易なM&Aは社員を不幸にするだけ

私は中小企業のM&A自体そのものは決して悪いものだとは考えていません。残された社員たちとその家族、さらにはお客様、取引先の人生を左右する選択であることを、社長は忘れてはならないのです。つまり、「安易なM&A」には否定的な立場です。

 

私がいう「安易なM&A」とは、後継者を本気で探す努力をせずに、会社を売却してしまうというM&Aを指します。後継者を探すために四方八方手を尽くしたにもかかわらず、どうして見つからず、社長が70歳を超える年齢で、後継者を育てる時間も残されていないという極限状態の瀬戸際、最後の選択としてⅯ&Aは否定しません。会社存続のために必要な手段だからです。

 

しかし、経営コンサルタントとして多くの企業とかかわる中で、そうした努力なしに会社を売却する経営者をたくさん見てきました。

 

安易なM&Aに反対する最大の理由は、社員が不幸になる可能性が高いことです。たとえば、買収側の企業が会社を買ったとたんにビジネスを転換することがあります。そのビジネスモデルが買いたかったわけではなく、たとえば不動産業者が好立地の老舗企業を買い取ってビルやマンションに建て替えたりする例もあります。

 

そうすると、M&Aで買収された会社の社員は辞めさせられることになります。M&Aは基本的に社員に秘密で進めますから、売却された段階ではじめて社員は自分の会社が売られたこと知ります。そして、これまでとは違う仕事を突然、与えられたりすると、とても働き続けていくことはできません。

 

 

手数料目当てだけの仲介業者も存在する

M&Aでは、社員が幸せになれるかどうかが最も重要です。また、社員だけでなく、取引先や仕入れ先、さらには地域社会に対しても影響が出ます。経営者はその点を十分に考える必要があります。

 

M&A仲介業者はM&A成立時に手数料を取ることで利益を得るのが一般的です。なかには「とにかく売って、手数料を稼いで、あとは知りません」という悪しきスタイルの業者もいて、それがM&Aで発生するトラブルとして問題視されています。

 

一方で、経営者はM&Aである程度まとまったお金が入り、手元にはお金が残ることでしょう。私自身も経験がありますが、M&A仲介業者はおいしい話を持ちかけてきます。

 

たとえば「会社を売ったら楽になりますよ」「借金はすべてなくなります」「退職金で悠々自適の暮らしができますよ」などなど。私も一瞬、心が動きそうになりましたが、お金をお墓まで持っていけるわけではないですし、自分が苦労して育てた会社を手放すのは忍びなく、後継者に譲って経営を続けてもらいたいと考え、M&Aはしませんでした。

 

実際、優秀な後継者にバトンタッチすることができ、私はいまとても幸せです。もし会社を売っていたら一生悔いが残ったと思います。

 

事業承継には3つのタイプがある

大企業の場合は新卒で入り、課長、部長、取締役という形で昇進していき、その中から次の社長を選ぶのが一般的です。そういう仕組みが中小企業には基本的にないので、会社経営者には後継者をつくる努力をぜひしていただきたいと思います。私たちは後継者を探すお手伝いもしています。

 

事業承継には3つのタイプがあります。

 

第1は「親族内承継」です。中小企業ではこのケースがほとんどです。後継者の第一候補は自分の子どもです。子どもが難しい場合には、兄弟姉妹の子どもや親戚の子どもでもかまいません。または娘婿という選択肢もあります。

 

親族が承継した近年の例では、1368年創業の株式会社ういろうがあります。現社長の外郎氏は25代目で、先代社長の甥にあたります。もともと銀行員でしたが、後継者がいないため先代社長から事業承継をお願いされ、43歳の時に決意したそうです。ういろうの祖業は製薬で、いまも薬を販売しています。そのため現社長は45歳で薬科大学に入学し、薬剤師の資格を取得しています。

 

事業承継の2番目は、「従業員承継」です。社員の中から後継者を探します。当社はこれにあたります。私の息子が継がないという意思を示したので、社員の中から後継者を選びました。

 

事業承継の3番目は、「第三者承継」です。社外から信頼できる優秀な人材を招聘します。後継者探しではとにかくあらゆる可能性を検討することが大事です。しかし、多くの経営者は真剣に探しているようには見えず、「安易なM&A」に頼っているのが実態で、非常に残念に思っています。

 

藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社
代表取締役会長

 

取材・構成/田之上 信
※本インタビューは、2021年8月10日に収録したものです。

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幻冬舎メディアコンサルティング

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