日本を代表する老舗企業を調査した結果
新型コロナウイルス感染拡大の収束が見えない中、倒産や廃業に追い込まれる企業が増えています。過去にもバブル崩壊やリーマンショックなどで多くの企業が消えていきました。
一方で、多くの企業はそうした経済危機を乗り越えてきました。また、日本には「100年企業」と呼ばれる永続企業が世界一多く存在します。私は日本を代表する老舗企業を数多く取材、調査してきました。虎屋、山本海苔店、にんべん、鈴廣蒲鉾本店、榮太樓總本鋪、龍角散、ういろう……。
その中で、老舗企業に共通する法則を見出しました。それは理念や家訓を根幹においた経営を貫いていることです。詳しくは後述しますが、その理念にのっとり、ブレない経営を行っているからこそ老舗企業は長い歴史を刻んでこれたのです。
創業100年を超える老舗企業は理念や家訓に基づいて経営を行っているので、理念や家訓に反すること、理念や家訓から逸脱するような経営は行いません。いまのコロナ禍でいうならば、どんなに経営が苦しいからといって、本業とはまったく関係のないビジネスに手を出すことはありません。
100年生き残れない企業は目先のことだけを見がちで、お金になるならば何にでも手を出します。もちろん、自社が手がける商品やサービスと似ていたり、顧客層が重なっているなど関連ビジネスならばいいでしょう。
しかし、全く違うビジネスでは必ず失敗します。それは「経営理念」が違うからです。会社の理念というのは、自社のビジネスを規定しているものです。理念がきちんと定まっていれば、経営がブレることはないのです。
老舗企業は立派な後継者をつくっている
老舗企業はまた、後継者を育て、「事業承継」をうまくおこなってきたという共通点があります。老舗企業にはみな立派な後継者がいます。それも多くの場合は一族で後継者をつくっています。
後継者不足の問題がいま深刻化しています。「中小企業白書(2020年版)」(中小企業庁)によると、「社長の年齢が60代の中小企業のうち、約半数は後継者が決まっていない」とのデータが出ています。そうした中、現在、M&A(企業の合併・買収)市場が活況を呈しています。背景にはコロナ禍による経営難のほか、中小企業の後継者不足があります。
つまり、経営不振ではなくても、後継者がいないために会社の存続が難しい企業が増えているのです。そこでM&A仲介業者が、後継者のいない企業に手当たり次第に声をかけ、会社の売却を持ちかけているというわけです。仲介業者の中には単に手数料目的でM&Aをすすめてくるケースも少なくありません。
会社を存続させるためにM&Aは有効な手法の一つです。しかし、私はいまのM&Aの活況には疑問を感じています。それは「安易なM&A」がはびこっていると思うからです。M&Aそのものは否定しませんが、私は「安易なM&A」には否定的な考えを持っています。それについては次回に詳述します。
老舗企業はM&Aではなく自力で生きてきた
TOMAグループ会社の藤間司法書士法人は、130年余の歴史があります。私の曽祖父が明治23(1890)年に司法書士事務所を開業したことに始まります。2代目、3代目と経営をつなぎ、父が4代目で、一族で経営を継いできました。
私自身は30歳の時に自分の会社を立ち上げたので、創業者です。それも3年前に社長を退き、現在は会長です。当社も2代目に入っています。
創業100年を超える老舗企業の多くは、M&Aではなく自力で生き残ってきました。
当社は、「『明るく・楽しく・元気に・前向き』なTOMAコンサルタンツグループは本物の一流専門家集団として社員・家族とお客様と共に成長・発展し 共に幸せになり 共に地球に貢献します」という理念に基づき、そうした永続企業を増やしていくための活動をしています。30年で消えていく企業が多い中で、50年、70年、100年と生き残る会社を増やして、日本を明るく元気な社会にしたいという思いがあります。
そのためには事業承継が円滑に行われねばなりません。しかし、多くの企業、特に中小企業の経営者は事業承継について真剣に考えていないように見受けられます。そのことを私は非常に危惧しています。
本連載ではそうした経営者の意識改革を促すとともに、事業承継を本気で考えている、または事業承継に悩んでいる経営者に少しでも有益となるお話をしていきたいと思っています。
藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社
代表取締役会長