(※写真はイメージです/PIXTA)

生活習慣病をはじめ、アレルギー、うつ、体の痛みなども含めた慢性疾患の有病者は増加の一途をたどっており、生活の質(QOL)の低下や要介護リスクの上昇などが問題とされていることは周知の通りです。漫然とした投薬など、対症療法で手づまりに陥りがちな慢性疾患に対して、統合医療の考え方で病気の根本にアプローチし、開院8年で7000人にのぼる患者さんを好転・寛解へと導いてきた大阪市の小西統合医療内科 小西康弘院長に、同院の統合医療の主要コンセプト「機能性医学」に基づいた医療についてお話を伺いました。

「病気に至るプロセス」を診ることで疾患を根本解決

統合医療といえば、一般的には東洋医学や伝統医学などの、西洋医学を補完する医療を指しますが、小西院長が提唱する統合医療は「病気の源流をたどり、原因となっている病態を治療することで治癒・改善を目指す医療」を意味します。

 

「病気になるプロセスは川の流れに例えることができます(図表参照)。表出している症状は川の下流のみで起こっていること。さかのぼれば中流には症状を起こしている何らかの病態があるはずですし、さらに上流にはその病態をつくる要因、たとえば生活習慣やストレス、心の問題などがあると考えています。現代の標準的な医療では『下流』に対する治療が主ですが、それでは根本的な解決にはなりません。中~上流にも目を向け必要な医療を提供する、これが私の考える統合医療です」

 

出所:小西統合医療内科HPより
【図表】病気になるプロセス 出所:小西統合医療内科HPより

 

病気を「体の悪い部分、障害がある部分」と固定的に捉えず、川のごとく流れるプロセスの一つと捉えると、いわゆる“臓器別の縦割り診療”では見えてこない、治療の糸口が得られることが多いと小西院長は話します。

 

「たとえば、慢性頭痛のほとんどは器質的な異常が認められず、原因不明とされていますが、統合医療の視点では腸管における毒素の産生や、体内への重金属の蓄積、ビタミンやミネラルの欠乏などが背景にありうると考えられます。実際、これらを改善することで症状が消失・軽快した例はいくつも経験しています」

 

ただし、症状による苦痛を取り除くことはもちろん大事であり、決して現代の標準的な医療が統合医療より劣っているといいたいのではない、と小西院長。「今、この人にとって何をしてあげるのが一番いいのか」の視点を持つことはとても重要、と強調します。

「機能性医学」によって病態を分子・細胞レベルで把握

病気の発症に至るプロセスをさかのぼり、原因をつきとめるには「機能性医学」の考え方が不可欠、と小西院長。

 

「機能性医学とは、人体を一つの生態系(システム)とみなし、それを構成している細胞や分子レベルで病態をとらえ、細胞の本来の働きを整えることで症状の改善を目指す治療法です。1990年に米国のJeffery Bland博士によって提唱され、新しい医学のパラダイムとして欧米中心に広まりつつあります」

 

人体を構成する数十兆ともいわれる細胞が機能するには十分なエネルギー供給が必要ですが、その産生器官であるミトコンドリアの働きを妨げるような要因があると、ある人は肝臓が悪くなり、ある人は消化器に異常をきたし、ある人は認知機能が低下…といったようにさまざまな不調を引き起こすもとになる、と小西院長。

 

「たとえばビジネスパーソンに多い慢性疲労症候群も、細胞へのエネルギー供給をスムーズにするよう体内の乱れを整えることで、疲労だけではなく、しびれや頭痛といったほかの症状も消失するケースが多くみられます」

 

具体的に細胞レベルではどのようなものが慢性疾患の根本原因になりうるのか――。それを紐解くうえで今もっとも注目されているキーワードに「エピジェネティクス」と「炎症」がある、と小西院長。

 

「エピジェネティクスとは、遺伝子情報の発現は生来的に決まっているものではなく、環境の影響を受けるという考え方です」

 

病気にあてはめれば、発症の有無は遺伝子そのものが決定づける、というのが従来の考え方でしたが、機能性医学では、同じ遺伝子であっても環境要因次第で、発現スイッチのオン、オフが決まる、と小西院長。影響度合いは遺伝子3:環境要因7ともいわれているそう。

 

病気になるのは遺伝子のせい、と悲観的になる必要はなく、環境に目を向けることで発現をコントロールし病気を防げる可能性がある、というわけです。

 

その環境を乱す大きな原因として注目されているのが「炎症」です。

 

 

炎症とはそもそも、体の防御機構である免疫が、病原体の感染や毒素等で細胞が傷ついたときに、その原因物質を排除し傷を修復する過程で起きる反応なので、本来、有害なものではありません。しかし慢性化すると全身の免疫が消耗し、傷ついた細胞が修復されなくなるうえ、健康な細胞も損傷を受けやすくなるため、遺伝子にも影響が及ぶおそれがある、というわけです。

 

「体の中で起こっている慢性的な炎症を鎮めたり、炎症の火元をとりのぞいたりすることが大事」

 

その火元の一つが、近年、日本でも知られるようになってきた「リーキーガット(腸もれ)症候群」と小西院長は指摘します。

 

腸粘膜を構成している細胞は、健康な状態であればしっかりと細胞同士が結合しています。しかし、何らかの要因で腸の状態が悪くなると、腸壁を傷つけるような有害物質が産生され、それによって細胞間の結合がゆるんでしまうと考えられています。「それによって未消化の食べ物や、食べ物に含まれる添加物や化学物質、環境汚染物質、重金属等の有害物質が腸を透過し全身に運ばれ炎症を起こしてしまうのがリーキーガットの怖さなのです」

 

体内にはもともとグルタチオンなどの解毒物質があるものの、こうしたいわゆる炎症物質が蓄積すると、その“火消し”のほうに追われ解毒が手薄になるために、結局いたちごっこになってしまうとも。「こうしたことから、炎症の火元を絶つにはまず腸内環境を整えることがとても重要です」

 

機能性医学について、小西医師は動画配信で積極的に発信しています。より詳しく知りたい方は【こちら(⇒YouTubeへ移動)】をご覧ください。

高品質なサプリを身近に…ドクターズ・サプリの監修

機能性医学にもとづいた慢性疾患の治療において、サプリメントは腸内環境の調整や有害物質の解毒等に大きな役割を果たしている、と小西院長。

 

「ただし、そうした機能を持つ製品はサプリ先進国ともいえる米国が主流。必要に応じて医師の判断のもと輸入し処方をしています」

 

実際に、10~20代に多い起立性調節障害は、一般的には自律神経失調とされ踏み込んだ治療がなされないことがほとんどですが、「生化学検査等で重金属の蓄積がわかる例が多々あり、解毒をサポートするサプリメントを使用することで、劇的な改善が見られたケースが後をたちません」と小西院長。改善した患者さんの中には「これまで10年以上、何をやっても治らなかったのに…」という人もいたそうです。

 

こうしたサプリメントの“実力”を目のあたりにし、国内でも機能性医学の観点から良質・高機能な製品をと、今年から顧問医師としてサプリメントの監修に携わっているという小西院長。院内のほか、通販サイト「iHealth」で一般の人も購入可能です。

 

「定期購入者には、専門知識を持ったサプリメント・アドバイザーによる健康相談など、継続して健康づくりに取り組めるサポートも行っています」

究極の目的は「病気にならない体」をつくること

機能性医学の柱といえるエピジェネティクスや、環境要因に悪影響を与えるとされる炎症の考え方は、治療だけでなく予防にとっても重要、と小西院長。

 

「たとえばアルツハイマー型認知症(以下AD)の患者さんは、アポε4遺伝子を持つ方に高率で発現することがわかっています。しかしこの遺伝子を持っている人が必ずADを発症するわけではなく、近年ではADの原因物質とされるアミロイドβがリーキーガット症候群による炎症により誘発されるとの説もあります。

 

現時点では治癒が困難な病態だけに、腸内環境を改善するなど早め早めに手を打つことで発症を予防できるのならおおいに希望の持てることですし、今後も機能性医学のアプローチによる有効な予防法の研究が進むことを期待しています」

 

機能性医学が目指す究極の目的は、冒頭の川の流れに例えれば中~上流で病気の根本原因を取り除き、病気にならない体をつくること、と小西院長。

 

「これからの医療は、病気を治すだけではなく、遺伝子に影響する酵素の阻害薬や類似薬など、分子レベルでの治療――たとえば薬によって遺伝子のオンオフを調節し、病気の発症を抑えていくような治療が主流になっていくかもしれません」

 

治療から予防へ。慢性疾患に苦しむ患者さんを根本から救える大きな可能性を秘めた機能性医学にますます目が離せません。

 

 

小西 康弘

医療法人全人会 小西統合医療内科 院長

総合内科専門医、医学博士

 

田村 忠司

株式会社ヘルシーパス 代表取締役社長