(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢化が進む日本では認知症やがん、心血管疾患といった加齢でリスク増となる疾病への対策が喫緊の課題となっています。治療のみならず予防の重要性も叫ばれる中、栄養学的アプローチを柱とする「アンチエイジング医療」に注目する医療者が増えつつあるようです。これに15年以上前から取り組んでいる静岡市の田中消化器科クリニック 田中孝理事長に、その特徴や実践例、また効率的な栄養補助ツールとしてのサプリメントへの期待についてお話しを伺いました。

生活習慣の見直しによって「健康寿命」を伸ばす医療

アンチエイジングと聞くと文字通り「若返り」ととらえられがちですが、医療、特に内科の臨床における抗加齢は意を異にする、と田中理事長。

 

「ご存知のとおり日本は世界有数の長寿国である一方、介護状態の期間を差し引いた『健康寿命』は平均寿命よりも10年程度短くなっています。私の目指すアンチエイジングとは若返りではなくて、この『健康寿命をいかに長く保つか』に尽きます」

 

病気の多くは加齢にともなう機能低下や免疫力低下が発症・増悪因子になることから、これらの“不利益”を事前にできる限りつぶしていくことで疾病の予防や良好なコントロールを目指すと田中理事長は話します。

 

その具体的手法とは――。アンチエイジング医療という言葉からは最新鋭の技術を駆使した先進的な医療とのイメージも受けますが、基本は生活習慣の見直しにあるそう。

 

「確かに、アンチエイジング医療の一つのアプローチとして、ドックと称し膨大な項目に及ぶ生化学検査や、画像検査を駆使し全身をくまなく調べ、病気の可能性がある異常を検出するやり方もあります。当院でもこのようなスーパーアンチエイジングドックも実施していますが、一方で患者さんの話をお聞きし、適切なアンチエイジングドックを個別に実施しています。この個別ドックが現在では一般的です。このドックで得られたデータと通常診療を合わせて、患者さんの将来予想される疾病リスクを防止する目的で、適切な日常的アドバイスや栄養指導、運動指導を提供します。一部自由診療になりますが網羅的アンチエイジングドックよりは安価に抑えられますし、受診のハードルも高くはないと思います」

 

アンチエイジング医療の好例として、今ホットなトピックスに「口腔ケアによる認知症予防」がある、と田中理事長。

 

「近年、歯周病原因菌の一つとして知られるポルフィロモナス・ジンジバリスが血中から体内に取り込まれることで炎症を惹起し、アルツハイマー型認知症と関連の深いアミロイドβの産生を誘発するとともに、脳内への取り込みを誘導するとした研究結果が論文発表されました。

 

これを受けて当院でも患者さんに口腔ケアをきちんと行うようお話ししています。お金もかからず、何か特別なことをする必要もなく、認知症予防が期待できるのなら、患者さんにこれほど有益なことはありません。長期的にみれば国家の医療費削減にもつながるでしょう。こうしたアプローチこそがアンチエイジング医療の真骨頂と考えます」

 

アンチエイジング医療の柱は「適切な栄養療法」

食事に運動、そして“明るく生きる”――これが、田中理事長が掲げる「病気を遠ざけ元気で長生きをかなえる生活習慣の3要素」。中でも重点をおいているのが食事です。適切な食事指導と栄養補助からなる栄養療法を、アンチエイジング医療の柱として力を入れていると話します。

 

「栄養の見直しで予防のみならず健康状態の改善が見られたケースはいくつもあります。たとえば過敏性腸症候群(IBS)の場合、低FODMAP食と呼ばれる、腸内の異常発酵等IBSの原因となりうる食品を制限する食事法により、当院では薬物療法が適応となる症例の半数から3分の2は、無投薬あるいは減薬で症状の改善が見られました。

 

また、標準治療を終了したステージⅣのすい臓がんの患者さんで糖質と塩分の制限食を続けたところ、4年経った今もご存命というケースもあります。世間的には“奇跡”と言われる症例でも、実は適切な栄養療法をすれば成るべくして成る、ということを、肌身をもって実感しています」

 

栄養療法では制限一方ではなく、不足分の補充にも重きをおきます。そこで有用なのがサプリメント。普段の食事での必要量確保が困難な場合などに、効率よく補えるのが最大のメリットであり、栄養療法を行っていると頻繁に、サプリメントを使うほうがいいケースと出会う、と田中理事長は話します。

 

「たとえばヘム鉄は動物性食品に多く含まれる鉄分で、不足すると鉄欠乏性貧血にかかりやすくなりますが、高齢の方で肉やレバーをあまり食べられないという場合はサプリメントをおすすめします」

 

また、いまだ猛威をふるい治療や予防の決定打がない新型コロナウイルス感染症に対し、ビタミンDが発症や重症化リスクを低減するとの論文発表が複数出ていることを受け、当クリニックでは職員全員にビタミンDを無償で供与しました。また感染を心配される患者さんにもビタミンD投与を勧めています。ただ漠然と勧めるのではなく、適切な血中濃度が保たれるように服用量や期間も丁寧に紹介しています。ビタミンD投与の有効性は米国の有名なメイヨクリニックも推奨していることも併せて伝え、継続使用を促しています。

 

栄養療法でサプリメントを用いる場合、何より重要なのがその品質です。同時に、ただ製品を渡すのではなく、正しい栄養学にもとづき目的や使い方を患者さんに的確に伝え、ヘルスリテラシーを高める役割も医師には求められます。そこで田中理事長が絶大な信頼をおいているのが、医療機関専用のサプリメント製造販売会社「ヘルシーパス」の田村忠司社長です。

 

「メーカーの社長でありながら、サプリメントの弊害をテーマに本を出すなど、フラットなスタンスで正しい栄養学を伝えていこうとする姿勢に共感しています。サプリメントありきではなく、普段の食事で摂れる栄養はしっかり摂って、なお必要だったらサプリを賢く利用して欲しい、というのが田村さんの基本姿勢。儲けに走らず、実に良心的です。

 

また、こういう症例のときにはこんな栄養素がフィットする、といったような、実臨床ですぐ役立つ情報を積極的に発信してくださることもありがたいです。われわれ臨床医はどうしても日々、患者さんの診療に追われ勉強する時間が限られますので、常に新しい情報を豊富に提供くださるオーソリティの存在は極めて貴重なのです」

 

【医療機関専用サプリメントの特徴】

田村社長:「栄養素の含有量が市販のものより多く、それゆえ処方薬との飲みあわせに問題はないか医師の判断が必要となります。また、治療の一貫性を保つためにも、医療機関のみでの販売(または主治医の同意とアドバイスのもと患者が直接ヘルシーパスに注文)としています。」

「すべては患者さんのために」臨床医が集まり切磋琢磨

その田村社長が世話人となり運営されているのが「抗加齢医学を実践する臨床医の会」。文字通り、アンチエイジング医療に積極的な臨床医による会で、年1回、栄養療法を中心に症例発表・検討会をはじめ活発な情報交換が行われています。

 

かつては「変わった医師がやるもの」とみられかねなかったアンチエイジング医療も、ここ十数年の間で、日本抗加齢医学会の発足・活動にも象徴されるように、医学界の評価も高まっている、と田中理事長。

 

「ただ、実臨床にすぐ役立つ情報を得る場はまだまだ少ない。そこで、サプリメントを通して、全国各地でアンチエイジング医療に取り組む医師とつながっている田村さんが、非常に先進的な取り組みをし成果を上げている先生方を紹介してくださるようになったことが、この有志の会の発足につながりました」

 

【「抗加齢医学を実践する臨床医の会」立ち上げ時の思い】

田村社長:「サプリメントを学術的にとらえ勉強する場は日本にはまだ少なく、臨床の先生方が興味をもっても、なかなか正しい知識を得る機会に恵まれないのが実状です。そこで田中先生のような先輩医師にいろいろ相談できる場を設けられたら、と同会の発足に至りました。とはいえ決して“サプリありき”ではなく、純粋に栄養療法を勉強し互いに高め合うことを目的とした会です。」

 

田中理事長は同会の中でも最古参であり、他メンバーのよき相談役。立場は違えど、田村社長とは「患者さんのために」との揺るがぬ思いをともにする同志、と話します。

 

「正しい医療をすれば患者さんに必ずベネフィットがあり、喜ばれる。そうすればおのずと患者数も増える。その思いは田村さんも同じ。患者さんのためにどんなサプリが有用なのか、これからどんな栄養学的アプローチが多くの人を救えるのか、仲間と話し合い切磋琢磨しあう、それがこの会の目的であり、メンバー全員の思いです」

 

同会のメンバーは2021年現在で約40名。ただアンチエイジング医療に興味があり自院にも取り入れたいと考えている医師は年々増えているような感触も得ており、もっと仲間を増やしたい、と田中理事長。

 

「新しい医療には勇気がいる。だからこそ、自分を信じて一所懸命やる姿には共感するものです。一人だけでやっていると行き詰ってしまうことも多い。人間はそんなに強くありませんから。だから我々は互いを認め合いながら、一緒に歩んでいきたいのです」

 

 

田中 孝

田中消化器科クリニック 理事長

日本抗加齢医学会 理事

 

田村 忠司

株式会社ヘルシーパス 代表取締役社長