2019年6月3日に公表された金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書が発端となり、世間を賑わせた「老後2000万円問題」。資産形成への関心が高まるきっかけになりましたが、なかには「自分は退職金があるから大丈夫」と胡坐をかいている人も。本当に老後資金として退職金をあてにしていいのでしょうか。トランクルーム事業を手掛ける株式会社UKCorporation代表取締役である浦川浩貴氏の書籍『自己資金100万円台ではじめる不動産投資 なぜトランクルーム投資が注目されているのか?』より一部を抜粋し、解説します。
老後資金2000万円問題「退職金」をアテにしてはいけない理由

 

「老後2000万円」問題は、あくまで老後が30年として試算しています。しかし、「人生100年」が当たり前になれば、少なくても老後は35年になります。さらに退職金と年金が減ってしまえば本当に2000万円以上の蓄えが必要になるはずです。

正社員になっても昇給しない…「年功序列制度」の崩壊

日本企業にはかつて年功序列という人事制度がありました。これは勤続年数、年齢などに応じて役職や給与を上昇させるシステムです。例えば30歳になれば係長、40歳で課長、50歳で部長と昇進し、同時に収入も上がっていく人生すごろくを入社した時点で描くことができたのです。

 

年功序列制度が維持できた最大の理由は、日本経済が成長し続けていたからです。日本経済が成長していれば、個人的に仕事ができようができまいが勤続年数とともに給与をどんどん上げることができました。それゆえ平均年収も増加していったのです。

 

ところが1990年代前半のバブル崩壊で事態は一変します。景気の後退によって、企業のなかに「無駄なものは容赦なく切る」という風潮が発生しました。同時に年功序列制度が消滅し、実績主義の人事制度が確立していきました。

 

この頃から日本の平均年収は、ほぼ毎年下がり続けています。令和2年版厚生労働白書で確認すると、平均年収のピークは1992年で472.5万円。そこからわずかに増加した年はあるものの基本的には減少傾向で、2014年には419.2万円まで下がりました。最新データの2018年では433.3万円まで上昇していますが、この金額は10年前の2008年とほぼ同額です。

 

一方、先進国では景気の好不調に関わらず収入は増加しているようです。例えば全国労働組合総連合のデータによると、1997年を100とした場合の各国の2016年時点の実質賃金指数は次のようになっています。

 

・日本……89.7
・アメリカ……115.3
・ドイツ……116.3
・デンマーク……123.4
・イギリス(製造業)……125.3
・フランス……126.4

 

100を下回っている、つまり収入が減っているのは日本だけです。

 

なぜこのような悲惨な状況になっているのでしょうか。その理由はさまざまですが、おもなものとしては日本企業の国際競争力が低下していることで景気低迷が続き、給与を上げたくてもできないというところが大きいでしょう。

 

また、小泉政権時代に施行された「労働派遣法の改正」によって、より低い賃金で雇うことができる非正規労働者が増えたことも、正社員の給与に影響を与えているはずです。正社員でも昇給は望めない。この現実は特に働き盛り、そして最もお金が必要となる40代前半世代に突き刺さっています。

 

昨今の多くの企業は、人材を確保するために若い世代の給与を増やす傾向があります。そしてそのしわ寄せは、最も給与の伸び率が高かった働き盛りの40代前半世代にいってしまうのです。

 

国税庁の「民間給与実態調査」によると、10年前(2008年)からの給与の増減率は、20代が数%増であるのに対し、40代前半は約10%減になっています。現在のこの世代は、10年前の同世代よりも収入が少なくなっています。それなのに子どもの教育費や住宅ローン、親の介護などで当時よりもなにかと出費が増えているはずです。

日本の会社員に「明るい未来」はあるのか?

では、今後に明るい兆しはあるのでしょうか。残念ながら見当たらないといわざるを得ません。日本はすでに人口減の時代に突入しています。モノを消費する人間が減れば景気も後退します。

 

企業としてはお金がない、さらに働き手が少ないので、今後はますます非正規労働者やパートタイマーを雇うことになるでしょう。そうなれば低所得者が今よりも増えていき、さらに景気は低迷するという負の連鎖が止まらなくなります。

 

さらに2020年からはコロナ禍が世界経済に大打撃を与えています。この激動の時代に豊かに暮らしていくには、国や経営者に頼るのではなく、「自分の身は自分で守る」という姿勢が必須ではないでしょうか。