不動産売買の営業は「超」がつくほどアナログです。現状では直接コンタクトを取らなくては情報交換さえできず、コロナ禍の現在は苦境の真っただ中。コロナ後も生き残っていくためには、デジタル化が必須です。そこで登場したのが、全国の不動産営業マンの売却ニーズと購入ニーズをスマホ上でマッチングさせる画期的アプリ「TRG(トラジ)」。最終回は、開発者の株式会社トリビュート代表取締役・田中稔眞氏が、不動産業界の今後の展望と、「TRG(トラジ)の先にあるもの」を語ります。

人から探す不動産へのアプローチができる

テレワークやオンライン授業……、世間ではあらゆる場面においてインターネット活用が急速に進みました。それにも関わらず、不動産業界では未だに「超」がつくほどアナログな営業を行っています。直接会う機会がないと情報交換も成約もできないために、コロナ禍の現在は、まったくと言っていいほど営業活動ができなくなりました。

 

従来より、私は不動産営業のアナログすぎる側面に大きな問題意識を抱いていいました。どうにかインターネットの有効活用を促進しなくてはいけない……そう考え続けた結果、開発したものが、営業マン同士のマッチングアプリ「TRG(トラジ)」です。

 

TRG(トラジ)の参加者を募集してちょうど1年になります。集まってくれた人は1000人。当面の目標とする1万人に達するまでには、2~3年かかるのではないかと思います。大手の不動産会社ほどSNSを禁止していることや、コロナ前では対面式の営業スタイルが有効だったことから、1000人に到達するまでが大変でした。しかし最近、風向きが変わったと感じています。実際、1日の登録者数は1年前より増えています。

 

TRG(トラジ)の利便性の高さを実感してもらえれば、参加人数は確実に増えてく。(※写真はイメージです/PIXTA)
TRG(トラジ)の利便性の高さを実感してもらえれば、参加人数は確実に増えてく。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

TRG(トラジ)の認知度が高まり始めたころは、関心はあっても様子見に留めている人々が多くいました。そういった人々が、登録者の増加に伴い「知り合いの営業マンも使っているようだし、自分も……」と登録に踏み切り始めたようです。ある程度は受けいれられたかなという感触があります。登録者数を伸ばすために私たちが行うことはただひとつ、「本当に必要な機能」を追加していくことだけです。今後、不動産業界で生き残っていくには、デジタル化が必須です。その流れの中でTRG(トラジ)の利便性の高さを実感してもらえれば、参加人数は確実に増えていきます。

 

TRG(トラジ)に今後追加していく予定の機能をいくつか紹介しましょう。まずは登録営業マンの格付けに当たる「ホワイトチェック評価制度」です。これは良い営業マンか否かが一目でわかる目安となります。ホワイトチェック評価制度により、TRG(トラジ)を「質の高い営業マンが集うプラットフォーム」として守ることで、やりとりする情報の精度を維持する狙いがあります。

 

この業界には残念ながら「行儀の悪い営業マン」が少なくありません。謄本を上げてまだ照会も受けていないのに営業に飛び込んでいったり、面談アポのドタキャンを行う営業マンがいます。そういったことが行われた場合、その人の評点を低くして、他の参加者に注意を呼びかけます。

 

逆に、仕事の上でのレスポンスが非常に速いとか、各界に人脈のパイプを何本ももっている人に関しては高い評点をつけ、マッチング申請が届きやすくします。加点もあれば減点もある。顔写真の下に1000点満点のうち何点と、具体的に点数をつけてもいいでしょう。

 

いずれは営業マンをエリアごとに見つけられるようにして、売主、買主が検索できるようにしようと思っています。例えば、港区で物件を見つけようと思ったら、物件だけでなく営業マンをも探すことができる──、「人から探す」という不動産へのアプローチを作っておきたいのです。そのためにも、このホワイトチェック機能は非常に重要です。

公開入札、リスク保険、ファイナンスも

私がこの会社を立ち上げたころ、「マザーズオークション」がありました。これはまさしく不動産物件の公開入札で、すごく先進的だなと思い注目していました。しかし、時代が早過ぎてなくなりました。

 

物件をネットに乗せて入札するのはたやすいことです。公開入札は環境が整備された時点で、確実に実現したいことの1つです。TRG(トラジ)不動産オークション──参加者が3000人を超えた時点で着手したいと考えます。

 

「不動産営業マンのためのリスク保険制度」も、今検討段階に入っています。不動産営業マンが売主さん・買主さんに損害を与えた場合の保険は、現時点では、宅建業界の1000万円までの保証しかありません。不動産の売買では1000万円なんてすぐ吹き飛ぶ額ですから、全然リスクヘッジになりませんよね。

 

ある程度、登録者数の母数がそろえば保険を作ることができます。1人あたり1~2億円単位の保証ができる保険商品を作りたいと考えています。

 

また、これはかなりの参加者数が揃った後の話ですが、ぜひとも「不動産相場の可視化」を実現したいと思います。すでにご存じのとおり、不動産の相場を知ることができるのは、公示価格発表に限られます。しかもその価格は2年くらい前のもので、私たち売買のプロにとっては何の価値もありません。

 

 

AI-OCR(物件概要書自動作成機能。詳細は関連記事『業務効率「10倍」以上の実績、Withコロナ時代のデキる営業マンの武器』参照)の機能をもっと強化し、1万人の営業マン全員に物件登録を求めたなら、現時点の相場に近いものを出すことも可能です。

 

これまで不動産市場には第三者的指標となるものがなく、営業マンは苦労してきました。皆なんとなく感覚で売買してきたところがあります。相場を閲覧できたなら、売主さんや買主さんから「安く売られた」「高く買わされた」といった不満も出なくなります。

 

不動産売買業務におけるデジタル化、そして可視化は、単なる業務効率の向上をもたらすのみならず、この業界がもっと必要とする「透明性」「公平性」の担保につながります。TRG(トラジ)がその水先案内人の役割を担ってくれればこれほどうれしいことはありません。

 

他にも、大きな資金を必要とするときのファイナンスを募集できる制度など、やりたいこと、できることはたくさんあります。すべてはTRG(トラジ)というプラットフォーム基盤の拡充にかかっていることなのです。

「建築資材の浪費」「ムダな競争・倒産」のない世界に

これまでTRG(トラジ)について語ってきましたが、私にとってTRG(トラジ)は不動産業に携わるものとしてやりたいことの第一歩、夢の入口に過ぎません。では、私が目指すものとは何か──、最後にそれをお話ししたいと思います。

 

私の地元・福岡では、ホテルが足りないという報道が出た途端に、その真偽をきちんと検証する間もなく一斉にデベロッパーがホテルを建てました。オリンピックの延期、新型コロナウィルスの影響で需給予測は白紙と化し、悲惨な事態に陥っています。

 

私が不思議でならないのは、「どうして、建設前に『ホテルが本当に必要か否か』を調べなかったのか」ということです。1人1台のスマホを持ち、いろんなアプリが自由に入手できる今日では、一般消費者でもビッグデータに近い情報を手にすることができます。そんな時代にも関わらず、報道に踊らされ、このような悲惨な事態に陥ってしまった。業界がいかにアナログといえども、事ここに至ると言葉を失ってしまいます。

 

結果、何が起きているのか。儲かりそうなところに建築資材が投入され、本当に必要な復興を急ぐ被災地の建築は資材が不足する状況が起きています。まさに本末転倒です。

 

本当に必要なものが、必要な数だけ建っていく世界──簡単にいえば、これが私の考える不動産業界のゴールです。そうなることで、売れない物件は安くしないと売れなくなり、人気のある物件はどんどん高くなる。それでいいと思います。

 

不透明性を逆手にとって儲けていた業者は立ち行かなくなり、真面目にまっとうな不動産売買を続けてきた業者が勝者となり発展していく。不動産業はそういう時期に差しかかっていると思います。

 

最終的には、ムダな建物や建築資材の浪費、ムダな業者間競争の激減による倒産件数縮小を促す「全住民参加型まちづくりアプリ」の開発を考えています。その先には、永続可能なスーパーシティ構想があります。

 

今の18歳の若者が、5年後に飛び込み営業をすると思いますか。そんなことを言おうものなら、その日に会社を辞めて家に帰ってしまいますよ。こうした私の考えに共感してくださる方、不動産営業のスタイルを根本的に変えたいという考えをお持ちの営業マンの方の参加をお待ちしております。