不動産業界の営業は驚くほど超アナログです。インターネット上に「良い物件」が載ることはなく、本当に良い情報ほど営業マンは隠してしまいます。それなら、物件情報を求めるより、「デキる営業マン」の情報を得られるほうが効率的であることは確かです。ここでは、株式会社トリビュート代表取締役・田中稔眞氏が、営業マン個人に焦点を当て、新型コロナに負けない「これからの営業手法」について語ります。

業者間の情報交換は超アナログの世界という現実

前回の記事『電話アポも飛び込み営業もできない!どうする? 全国の55万の不動産営業マン』(関連記事参照)でも解説したように、不動産業界は「超」がつくほどアナログな世界です。不動産売買の営業にインターネットはほぼ活用されていないというと、読者の皆さんは驚かれるかもしれません。

 

しかしこれは誇張ではなく、ありのままの事実です。パソコンを開いて物件を検索したり、情報交換しているように見えますが、実はメールをやりとりしている時間が大半を占めます。メールの相手は、フェイスブックでつながった人や、夜の業者会で顔見知りになった人たち、もしくは飛び込みで名刺交換をした同業者たちです。

 

とくに新規開拓の営業となると、もう何十年も前から変わらないアナログの世界です。直接の売主さんや買主さん……、つまり不動産業者ではない人たちの開拓には地道な努力が必要です。登記簿謄本を上げて、お手紙をお送りして、興味があったらというアプローチが今も必要とされているのです。さらに、同業者への営業です。実際に当社にも時々同業者が飛び込み営業でやってきたり、営業電話がかかってきます。

 

不動産業界は物件主義が当たり前で、人については軽んじられてきた。
不動産業界は物件主義が当たり前で、人については軽んじられてきた。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

しかし、業界の人間である私からしても、不動産業者同士の情報交換がこれほどまでに前時代的なのはどうかと思います。ネットで住所や電話番号を調べて、電話して会いに行くしかない。私がおかしいと思っているのはここです。

 

非常に不便だと思いませんか。インターネットの進化のスピードに置いてけぼりにされた数少ない業界、それが不動産売買の営業です。このアナログ極まりない部分をデジタル化し、インターネット活用を進めたい…そんな思いから、私は不動産売買の業者間マッチングアプリを作りました。それが「TRG(トラジ)」です。

不動産売買もやっぱり「人が主役」と考える理由

不動産売買の営業は当然「物件ありき」です。ただ、ほとんどの会社は物件ばかりを重視する営業を行い、営業マンという個人に焦点を当てることはありません。私はこれを「物件主義」と呼んでいます。

 

私は、不動産売買も「人が主役」だと考えます。考えてもみてください。同じものを売らせたとき、めちゃくちゃ売る人もいれば全然売れない人もいます。それはどの業界も同じです。不動産も決して例外ではありません。業績をつくるのはやはり人の力なのです。

 

ところがこれまで、不動産業界は物件主義が当たり前で、人については軽んじられてきました。これは前回の記事でも述べたことですが、いいことをしても悪いことをしても評価されないという環境は、様々な問題を引き起こしています。個人の責任を問われることがないので、ポータルサイトで他の営業マンが仲介する物件に目を付けた後、売主のところに直接営業に行く「行儀の悪い営業マン」が後を絶ちません。そのせいで、「本当に良い物件」がポータルサイトに載らなくなり、ネット活用が進まない。まさに悪循環です。

 

物件情報か人物情報か、どちらか一つしか手に入れられないとしたら、あなたはどちらを選びますか。同業者ならすぐに答えは出ると思います。

 

 

物件はポータルサイトに載った時点で価値が半減します。本当に価値ある情報は簡単に開示しないのが営業マンの性。本当に欲しい情報は結局、そのニーズに合った人物と会って引き出すほかないのです。だから私は「人」に焦点を当てることにしました。TRG(トラジ)の最大の特色は、物件情報ではなく営業マンという“人物情報”を開示していることです。「物件主義」に対して「人物主義」と呼んでいます。

 

TRG(トラジ)には、不動産売買を行う全国の“営業マン”の情報(氏名、プロフィール、勤務先、得意分野など)が登録されています。自分のニーズに合いそうな人がいたら、スマホが点滅で知らせてくれます。申請を出し相手の承認が得られたら、そこから1対1もしくはグループでチャットを行ない、その場で物件情報の交換をすることができます。

 

現在、不動産業界にも情報交換のプラットフォームがいくつか誕生していて、業者間のマッチングアプリをやる会社も他に2~3社あります。しかし、人にシフトしているのは「TRG(トラジ)」だけで、不動産業界の営業スタイルを革新するものだと考えています。

1000人の営業マンとつながれるツールの価値

「TRG(トラジ)」は、会員数が1万人を超えたら有料化する予定です。しかし、2020年10月現在の会員数は約1,000人。募集を開始したのは2019年11月ですから、約1年間をかけて集めた数字にしては少ないと思われるでしょう。実は私も、はじめのうちはもっと速いペースで登録が進むものだと思っていました。

 

サービス開始当初は、この営業方法自体を受け入れられないという人が大半でした。アプリを使わなくても普通に業者間の情報交換は可能であり、契約を取ることもできるから、わざわざ利用する必要性を感じなかったのです。

 

しかし、最近の新規加入者データを見ると、大手不動産会社やデベロッパーの社員の個人登録が増えています。大手不動産会社に多いSNS禁止という規則はかなり解消されていることが分かります。

 

また、「日本人気質」という要因もあるでしょう。ネットというオープンな環境で自分のプロフィールを開示することに、大体の人は抵抗感を感じます。「TRG(トラジ)」は素顔の開示を求めるので、なおさら気おくれするのでしょう。今ではメジャーなフェイスブックも、日本で浸透するまでには15年もかかりました。

 

顔写真をなくしたら登録数が一気に伸びることはわかっています。しかし、私たちがここを緩和することは絶対ありません。各個人が自分の情報に自然と責任を持つように、個人のアカウントとして登録してもらうことで、業界の体質改善につながると信じているからです。

 

今の不動産業界は、同業者同士が疑心暗鬼で物件を紹介し合っているのが実情です。これを解消するには、物件を扱う個人にもスポットを当て、皆が信頼しあう中で情報を共有できる場所が必要です。そのためにも本人が顔を出すことが絶対条件だと考えています。1000人という会員数は決して軽いものではありません。今の不動産業界で、1人の営業マンが1000人の営業マンとつながれるツールが他にあるでしょうか?しかも「個人の実名・会社名・連絡先が載っているプラットフォーム」は、「TRG(トラジ)」しかないのです。

 

「TRG(トラジ)」の会員登録数の増加ペースは想定より遅いものでした。しかし、今年の3月ころから風向きが大きく変わってきました。新型コロナ感染拡大が追い風となり、今年の春頃から問い合わせが増えているのです。それでも、目安とする1万人に達するまで2~3年はかかるのではないでしょうか。営業マンの皆さんには、まだまだ無料でお使いいただけます(笑)。

 

私たちが頑張って会員を増やそうとして、広告をバンバン打ったとしても、それで登録者が増えるほど単純なものではありません。会員数を増やすには、いかに「TRG(トラジ)」が便利なものであるかを理解し、実感してもらうほかありません。遠回りのようでそれが一番の近道であると思います。次回は詳しい機能やその有効な使い方についてご説明します。