不動産業界は今、転換期を迎えています。「『次に来る変化』に対応できない企業は消える」と、株式会社トリビュート代表取締役・田中稔眞氏はそう断言します。地元・福岡でトップ営業マンとなり、若くして支店長に抜擢されたのちにリーマンショックに見舞われた田中氏が身をもって学んだことや、現在の不動産業界に抱く大きな問題意識から、不動産業界で生き残っていくための必須条件を語ります。

設立13年、年商30億円、社員数13人だが

不動産の売買は当然「物件ありき」で行われるものです。しかし今の不動産業界は物件ばかりを重視し、営業マンという「人」に焦点を当てることがほぼありません。実際に不動産の売買を動かすのは「人」ですし、どの業界にも言えることですが、会社の業績を築くのもやはり「人」なのです。また、これまでの連載でも繰り返し述べてきたように、人に焦点を当てることは不動産業界が抱える問題の解消にもつながります。だから私は、実際に営業マン個人を主役とする、営業マン同士のマッチングアプリ「TRG(トラジ)」を開発しました。

 

TRG(トラジ)は、営業マン同士の「信頼」がベースとなっています。参加するには、自分の顔や履歴を正直に開示することが必須となります。せっかくなので、発案者の私もここで自己紹介したいと思います。

 

人の何倍も働いていたので、その甲斐あって売り上げはつねにトップ。若くして福岡支店長に抜擢されたが……。
人の何倍も働いていたので、その甲斐あって売り上げはつねにトップ。若くして福岡支店長に抜擢されたが……。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

出身は福岡です。トリビュートを立ち上げるまでの6年間、不動産の再販などを主業務とする不動産会社の福岡支店に勤務していました。当時の私はバリバリの営業マンでした。ちょうど不動産の証券化が始まった時代で、レジデンシャルといわれる住居系マンションなど、所有権を証券にする業務を多く担当していました。いい土地を見つけては商業施設を建てたり、商業ビルを購入してテナントを入れたりするなど、不動産全般は一通り経験してきました。

 

朝6時に出社するなど、人の何倍も働いていたので、その甲斐あって売り上げはつねにトップ。若くして福岡支店長に抜擢されました。しかし、そこでリーマンショックに見舞われることとなりました。業績は一気に急落して福岡支店は閉鎖。西日本の営業統括の立場にあったため、500人いた社員を3カ月で50人にする首切りの業務を背負わされたのです。

 

このとき私は27歳で、結婚して半年の頃でした。今以上に頑張ろうとやる気に溢れていた時期だったので、最悪のタイミングとしか言いようがありません。部下の首を切っていくストレスから、頭にいくつもの十円ハゲができました。その後、金融機関の支援で会社は救済されました。私は東京へ行けば残ることもできたのですが、責任を取って辞めました。

 

こうした体験から身をもって学んだことがあります。それは、必要でない人は最初から雇わないということ。なぜなら、経営危機が来たときに人を切らねばならないから。あんな思いはもう二度としたくありません。独立して福岡に作った会社こそ、今私が経営している株式会社トリビュートです。最初はマンションの1室を借り、私一人でスタートしました。それから13年が経ち、今ではトリビュートは年商30億円の企業となりました。社員数は13人、年商は30億円。人数のわりにはよく売り上げているほうだと思います。

 

東京の不動産業界は「巨人」があまりにも多いので、トリビュートの知名度は低いですが、実は福岡の業者間ではそれなりに知られた存在です。たとえば写真の物件(24億円の物件概要)は当社の所有物件ですが、福岡でこの規模の不動産を買える不動産会社は一握りしかいません。

「お客様のためなら対立することを厭わない」

不動産業は今、確実に転換期に来ています。これまでのやり方では通用せず、変化に対応できない企業は先がありません。私は仲間を集めて、まず必要なものから始めようと考えました。今、必要なものってなんだろう。それは、アナログ営業をデジタル営業に変えることです。まずはここに賛同してくれる人たちを集め、自分たちが新しい営業スタイルを実践して結果を残すことで、いずれは不動産業界全体を変えて行きたい、そのためのツールがTRG(トラジ)なのです。

 

わが社の社員のほとんどは不動産業未経験者です。というのは、なまじ不動産業界を経験してきた人だと、私のカラーを理解しにくいことがあるからです。私は40歳。社員は30代中心で、いちばん上で50歳です。

 

 

トリビュートがどんな会社かは、名刺の裏を見ていただければすぐ分かります。ここに「トリビュート3つの約束」を明記しています。

 

●常に情報精査のプロ集団を目指します。
千三つといわれる業界を変えるため、ルートや情報の整理を第一優先にします。
●つねに高潔さを指針に活躍します。
本当の正しさとは何かを考え、場面に応じて高潔な方を選択します。
●常にお客様の為なら対立することを厭いません。
一時的な利益を捨て、お客様に不利益なら誠意をもって意見します。

 

私はこれを本気で実践しています。不動産業界の水に浸かりきった人ではおそらくついてこられないでしょうし、理解することすら難しいかもしれません。

TRG(トラジ)が、次のバブル崩壊の「受け皿」に

不動産業の原則として、人口が増えているところでやらないと儲かりにくいし、必要とされづらいといわれています。一時期、私は中国人を雇って香港に出店しましたが、政情不安が起きそうだったので香港支店を閉鎖しました。それはデモが起きる直前でした。

 

私には、東南アジアで不動産事業をやりたい気持ちが強くあります。東南アジアの一般庶民が住む家を、日本のクォリティで作りたいという思いです。日本も人口が増え続けていたころ、戸建て分譲会社がめちゃくちゃ伸びました。東南アジアでも、絶対に同じことが起きると思います。

 

ついこの間まで私はマレーシアに移住し、会社を立ち上げるつもりでした。2月には家まで借りたのですが、その後に新型コロナ感染拡大で街が封鎖されました。封鎖の解除予定が8月から12月に延びた時点で、その家は解約しました。子どもの学校も決まり、学費まで払っていただけに残念でした。

 

私は最初のバブルこそ経験していませんが、リーマンショックは身をもって経験しています。当時、大きな会社がどんどん潰れていった光景を目の当たりにしました。でも、会社はなくなるけれども人はなくなりません。またどこかへ就職したり、別の業界へ流れたりします。今後また同じようなことがもっと大きなスケールで起きるのではないか、そんな気がしてなりません。

 

今、不特法(不動産特定事業法=出資などを受けて不動産取引を行ない、その収益を分配する事業の仕組みを定めた法律)をよりどころに、不動産小口化商品の売買が活発化しています。

 

不特法による小口化商品の中にはひどい物件が多く、優良物件だけを運営している投資先を見つけるのもまた至難の業です。もともと一棟では売却しにくかった物件を不特法によって小口にして投資しやすくしています。まだ少数が投資しているだけにすぎませんが、多くの人が投資し始めると、物件に関係なく一気にバブルが醸成されます。さらに、不特法に注意が必要なのは、以前問題になった事件に関与した人たちの多くが手掛けているからに他なりません。