アメリカでは、物件の価値が年々上昇していく風潮があるが、日本において、不動産の価値が最も高いのは「新築」の状態である。なぜ、日本とアメリカでこのような差が生まれたのだろうか。今回は「アメリカの不動産流通システム」について解説する。

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日本は、外国と比べると既存住宅の流通量が少ない

日本政府は、既存住宅流通を活性化するための取り組みを急速に進めつつある。2009年には「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づき、耐用性能の高い住宅に対する補助、税制、金融上の措置による支援を行っている。

 

また、住宅に関する修繕履歴などを蓄積することも進められている。さらに不動産業者は重要事項説明時にインスペクションの有無を報告することが義務づけられた。[図表1]に、全住宅流通量を既存住宅流通と新築住宅着工に分けたものが示されているが、既存住宅の流通比率は日本が14.5%であるのに対して欧米主要国のそれは7~9割に上っている。依然彼我の差は大きい。

 

[図表1]全住宅流通量に占める既存住宅流通戸数の国際比較
注1)国土交通省資料による
注2)各国とも2018年の数値

「既存住宅」に関する情報が少ないことが原因

このような現象を引き起こしている原因として、「情報の非対称性」が指摘されることが多い。経済学においては、売り手と買い手が持っている、財の品質に関する情報量に大きな格差がある場合は、「逆選択」と呼ばれる市場から良質な財が逃避してしまう現象が生じることが知られている。このような逆選択が、日本の既存住宅市場を縮小させている可能性がある。

 

日本政府は、情報の非対称性問題を解決するために様々な対応を行おうとしている。現在も米国で普及しているMLS(Multi Listing System:オープン化された不動産データベース)をモデルに、不動産取引においてやりとりできる情報を蓄積する「情報ストック構想」などの政策が講じられようとしている。

 

このような政策の施行によって、既存住宅流通の活性化は進むのだろうか。

 

ここで、既存住宅の売り手と買い手が登場する簡単なゲームによって、日本の既存住宅市場の状況を描いてみる。売り手の選択できる戦略は、現在居住している住宅に関する管理レベルである。一方、買い手には売りに出されている既存住宅の品質に関する「調査をしない」という戦略と、「調査を実施する」という二つの戦略があるものとする。

 

二つのゲームのプレイヤーの選ぶ戦略の組み合わせは4通りある。[図表2]では、<管理レベル低×調べない>という組み合わせを基準にして、(売り手の利得、買い手の利得)を整理している。売り手だけ<管理レベル高>という戦略に変更しても、品質に関する調査が行われないから、既存住宅は高い価格では売れず、売り手の利得が0に低下する。次に買い手のみがインスペクションを行っても、売り手が高いレベルの管理を行っていない限り、コストをかけた分だけ買い手の利得は低下して0になる。しかし両方が同時に戦略を変えた場合は、双方の利得が倍増する。

 

[図表2]既存住宅市場の売り手と買い手の利得表

 

このようなゲームは複数均衡問題として知られている「解決が困難な問題」である。このゲームでは、<管理レベル低×調べない>という状態と、<管理レベル高×調べる>という状態が双方とも、「ナッシュ均衡」といわれる状態になっている。

 

しかし、<管理レベル低×調べない>均衡に社会がある場合に、双方にとってより望ましい<管理レベル高×調べる>という均衡に移行することができるだろうか?

 

それは非常に困難だ。[図表2]から読み取れるように、一方だけが戦略を変えても、相手が戦略を変えない場合、戦略を変えた方の利得は低下する。二つの均衡のうち社会的な価値が低い均衡を、価値が高い均衡に移行させることは、自然には実現しない。売り手と買い手が同時に選択を変更することが必要になる。

 

そのためには、売り手と買い手というゲームに登場するプレイヤーが「同時に行動を変える」ことが、双方にとって好ましい結果をもたらすという世界観を共有することが重要だろう。

 

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※本記事は、オープンハウスのアメリカ不動産投資 海外不動産コラムで2020年1月17日に公開されたものです。

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