「不動産投資は相続税対策になる」という話を耳にしたことがあるかもしれません。今回は、相続税の仕組みと共に、投資用不動産が相続時にどのような評価を受けるのかを見ていきます。※本連載は、将来お金に困ることがないように、若いうちからできるライフプランニングに役立つ情報を紹介する「ライフプランnavi」の記事を抜粋、一部改変したものです。

相続財産の金額に応じた税率と控除額を確認

まず、相続税の基本的な税率について確認しておきます。相続税は累進課税となっています。累進課税とは、相続で取得する金額が上がるほど、税率が高くなるものです。税率などを確認しておくことで、相続税のシミュレーションができるようになります。

 

以下は、相続財産の取得金額に応じた税率と控除額の目安です(国税庁「No.4155 相続税の税率」)。実際の計算方法は、法定相続人(相続財産をもらう人)の人数や続柄によって異なり、複雑なのでここでは割愛します。

 

[図表]相続財産の取得金額に応じた税率と控除額の目安

 

ただし、相続税には基礎控除額「3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)」があるため、相続財産が3,600万円以下の場合、相続税は課税されません。国税庁の発表によれば、実際に相続税が課税される人は、相続人全体の8%程度です。

「墓地」は相続税の対象になるのか?

相続税の対象になる財産と対象にならない財産があります。

 

<相続税の対象になる財産>

●預貯金

●有価証券

●不動産

●貸付金

●貴金属

●著作権

…など

 

<相続税の対象にならない財産>

●墓地

●墓石

●仏壇

●仏具

●神棚

●弔慰金

●花輪代

●寄附した財産

…など

 

なお、生命保険金などは被相続人が生前持っている財産ではないため、基本的に遺産分割協議の対象とはなりません。しかし、被相続人が負担していた分については、みなし相続財産として扱われ、相続財産に含めて相続税を計算します。

不動産をもつことで、現金よりも40%以上の節税効果が

一般的に不動産が相続税の節税になるといわれるのは、相続税の評価が時価よりも低い価格になるためです。たとえば、2,000万円の定期預金を相続すれば、その相続財産は2,000万円と評価され、2,000万円に対して相続税が課税されます(簡便化のため、基礎控除は考慮しません。以下同)。

 

一方、不動産を相続する場合、モノなので何らかの基準によって価格を評価しなければなりません。その評価方法は、土地の場合、路線価方式、倍率方式、建物の場合、固定資産評価額など基準がありますが、おおむね、次のような評価額となります。

 

●土地:時価(公示地価)の80%

●建物:固定資産税評価額(おおむね、建築費の50%程度)

 

マンションの場合であれば、資産は土地(敷地権)と建物とにわけられます。たとえば、敷地権500万円、建物1,500万円という時価のマンションだとします。すると、

 

●土地(敷地権):500万円×80%=400万円

●建物:1,500万円×50%=750万円(固定資産税評価は50%と仮定)

 

合計1,150万円となり、60%以下の評価になるのです。つまり現預金で資産を持つことに比べて、40%以上の節税効果があるということになります。

賃貸ではさらに大きな節税も可能

不動産が賃貸(人に貸し出している)物件の場合は、上記の基本的な評価よりもさらに、相続税の評価額が下がります。なぜ賃貸物件は評価額が下がるのかというと、人に貸している物件は、貸主(所有者)でも、勝手に壊したりできず、物件に対する貸主の権利がある程度制限されるからです。その分を割り引いて評価しようという考え方です。

 

国税庁では、土地、建物ごとに借地権割合、借家権割合といった、評価額割引の基準を設定しています。借地権割合は地域によって異なり、借家権割合は全国で30%です。

 

計算方法は省きますが、賃貸不動産の場合は、上記の一般的な不動産評価額に対して、

 

●土地部分は80%程度(地域によって異なる)

●建物は固定資産税評価額の70%

 

となります。すると、上記の2,000万円のマンションでの例では、

 

●土地(敷地権):400万円×80%=320万円

●建物:750万円×70%=525万円

 

合計845万円となります。時価の2,000万円に対して、845万円の部分のみが相続税評価の対象となるので、大きな節税効果が得られます。

「小規模宅地の特例」でも評価額の引き下げが可能

自宅不動産の相続に関連して、「小規模宅地の特例」という制度を聞いたことがある人は多いかもしれません。一定の条件のもとに、自宅不動産の相続税評価額が80%も減額される特例です。

 

実は、投資用不動産でもこの「小規模宅地の特例」の適用があります。その場合、「貸付事業用宅地」という分類の適用となり、土地部分について50%の評価減がなされます。適用できれば、相続税評価額をさらに引き下げることができるのです。

 

ただし、適用に際しては、原則として賃貸に出してから3年以上経っていなければならないなど、制約条件がいくつかあります。実際に適用を検討する際には、税理士などの専門家に相談することがベターでしょう。

不動産を相続するときの3つの注意点

相続税対策としては効果が大きい不動産投資ですが、注意点もあります。それらを知らずに相続を進めてしまうと、あとからトラブルの原因になりかねません。主な3つのポイントを確認していきましょう。

 

(1)不動産を「持分」で相続すると、もめ事になりやすい

 

不動産を「持分」で相続するのはおすすめしません。最初に持分の比率でもめる可能性がありますし、納得して相続しても、その後、売却するか否かなどで意見が割れると対処が大変です。もし仮に、3人きょうだいで共有持分にした場合、本人たちの生存中は問題なくても、いずれは子ども等に引き継がれます。そうなれば、共有持分を持つ人数が増えていき、管理が難しくなります。

 

(2)土地の分筆が難しいなら、売却して相続することも視野に

 

土地の分筆(一筆の土地をいくつかに分割すること)が難しいときは、売却して相続することも視野に入れましょう。分筆とは土地を分けることですが、分筆には接道義務などさまざまなルールがあり、分筆の仕方次第では土地の価値が損なわれる可能性があります。その場合は土地に固執せず、売却して財産をわけるほうがよいこともあります。

 

(3)民法改正により遺留分の扱いが変わったことに注意

 

2018年7月に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立・公布されたことで、相続法が改正されました。改正点はいろいろありますが、相続法の改正で、「遺留分」の取り扱いが変わったことも、大きなポイントです。

 

遺留分とは、配偶者や子どもなど法定相続人の直系尊属のみが認められている最低保証枠の相続分です。

 

たとえば、相続人となるきょうだいが3名いて、被相続人の父が「財産はすべて長女に相続させる」という遺言書を残していた場合、他の相続人が1円も相続できないのは不合理です。このような場合に、財産の一定割合を取得する権利が民法で定められており、その権利を遺留分といいます。

 

遺留分について今回改正されたのは、主に以下の4点です。

 

●遺留分は金銭債権扱い

●生前贈与の特別受益は10年以内が対象

●不相当な対価の有償行為の減殺で償還が不要

●相続債務の弁済で控除がある

 

これらの内容は、2019年7月から適用されています。遺留分の扱いについて、上記のように変更があったことを注意しておきましょう。

相続対策を優先して「争続」にならないよう、慎重に

ある程度の資産がある方なら、当然相続税は気になるものです。不動産投資は大きな節税効果が見込めるため、計画的に不動産投資をすることは、相続対策にも有効だといえます。しかし、対策を最優先にしてしまうと、資産分配の公平性をめぐって親族がもめ、「争続」に発展する恐れがあるため、注意が必要です。

 

ワンルームマンションの複数所有は、複数の相続人にそれぞれ取り分を用意できることから、親族間の公平性の担保を目的に検討する富裕層もいらっしゃいます。将来を見越した不動産投資の選択肢として、検討してみるのもおすすめです。

 

(本記事での課税評価額などの計算は、あくまで概略を理解するためのものであり、実際にはさまざまな条件で変動する可能性がある点にご留意ください。)

 

 

 

※本連載は、『ライフプランnavi』の記事を抜粋、一部改変したものです。

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