長期に渡る医学部受験。わが子はしっかり勉強しているのか、今年こそ合格できるのか…心配が積もるばかりです。最新の大学情報・勉強法・メンタルケアの方法を知り、親子ともども、来たる日に備えましょう。医学部受験の最新情報を配信する『集中メディカ』より厳選した記事をお届けする本連載。今回のテーマは、医療業界で問題となっている「地域枠入学試験」について。

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医療従事者の確保のため始まった地域枠入試制度

◆医学部受験 「地域枠」の現状

 

地方医療現場の課題である「医師不足」を解消するため、全国の自治体では「地域枠入学試験」制度を設け、将来郷土で働いてくれる若手医師の育成に力を入れています。6年間で3000万円台にも上る医学部学費を一手に引き受けるこの制度は、地方の学生が優遇されているように見えます。

 

その一方で、「最低9年間は地方病院で従事しなければならない」「在学期間中の返還・中途退職の場合は高金利で弁済しなければならない」という、学生に対する縛り付けの厳しさも課題になっています。

 

経済的な理由で医学部進学が難しかった受験者にとっては、新たな可能性が拓ける良心的な制度であるとはいえ、賛否両論です。

 

◆一般家庭からも医学部進学が容易に

 

地方における医師不足や診療科の偏在の問題を受け、厚生労働省は「地域枠入学試験」(以下、地域枠)を導入、各自治体・大学に参画を呼びかけました。

 

地元出身者はもちろんのこと、他地域出身者でも、地方医療従事に意欲的な医学部志願者を対象とした奨学金制度です。医学部を卒業し医師免許を取得したあと、自治体が指定する医療機関に一定期間従事すれば、奨学金が免除されます。

 

この地域枠の導入により、地方の医師不足が解消されるとともに、経済的な理由で医学部進学が厳しかった一般家庭からの受験者にも、希望の光が射しました。

 

地域枠を導入する医学部は、2008年度では33大学でしたが、次第に全国へと広がり、2016年度には71大学に増加、現在ではほとんどの医学部がこの地域枠を導入しています。

 

たとえば栃木県の自治医科大学では、卒業後9年間、学生の出身県内の指定公立病院等にて勤務することを条件に学費が全額免除されます。

 

授業は、CTやMRIのような設備がない状況下で行う身体初見を想定した内容で、インフラの整っていないへき地における症状の診断、緊急性の判断を行える医師の育成がなされています。学生たちの住まいは全寮制で、寮費は月額8000円程度。安価で食事がとれる食堂や勉強室なども完備されており、志高い学友とともに、医師試験へ前向きに取り組める環境が整えられています。

 

◆入試では、本人の地方医療への意欲を重視

 

地域枠の入試では、筆記試験のほか面接も重視されるので、地方医療従事に意欲的な受験生は合格しやすいといわれます。

 

たとえば、島根大学の地域枠入試では、「生まれ育った地域が島根県内のへき地等に該当し、将来、そのへき地における医療に貢献する強い意志のある者」を受験対象としています。地域の医療機関や福祉施設での実習が受験資格として義務づけられており、出身地にある医療機関と福祉施設で実習をするとともに、各施設長の面接評価、さらには市町村長による面接を受ける必要もあります。地域医療に貢献する強い意志があるか、医師としての資質を備えているかが確認されます。

「もはや拘束ではないのか」現場からは冷ややかな声

昨今では、地域枠の貸与資格は得たものの、修学途中で返還するケースや、地域医療に従事しても、就業期間半ばで退職してしまうケースも少なくないといいます。地域枠の奨学金は基本的に「貸付金」なので、免除要件をクリアできなければ、貸付金に利子を付けて制限期間内に返還しなければなりません。

 

厚生労働省が実施した「臨床研修修了者アンケート調査」によると、奨学金を途中で返還した理由として、2%強が「もともと地域医療に従事する気はなく、最初から返還する予定だった」と回答しています。「被災地の医療に携わりたい」、「無医村で働く医師に憧れを持った」という地方医療に積極的な医学生がいる一方、「浪人した分の学費負担を軽くしたかった」という声もあり、制度本来の目的を無視する学生も少なからずいるようです。

 

「入学してみれば、地域医療に重きを置いた授業というわけでもなく、卒業後は誰も行きたがらないへき地へ赴き、最新設備・知識に触れる機会も少なく、キャリアアップもままならない」という先輩医師たちの悩みも噴出しています。

 

経済的には救世主となりうる地域枠ですが、その代償として、学びのピークである青年期のほとんどが就業拘束の犠牲になる可能性もあります。このことを考えると見通しが暗くなりますが、このデメリットがあるため、入試時は一般枠に比べて倍率が低く、偏差値も下がる傾向にあります。

 

経済的な安心と受かりやすさは魅力、しかし最低9年間の宮仕えも辛いところ。貸与条件も各自治体でさまざま。入試募集要綱を熟読・熟考してから応募することをおすすめします。

 

安易に受験するのは危険かもしれない
安易に受験するのは危険かもしれない

 

◆大学不問、出身地不問の自治体奨学金

 

岩手県:市町村医師養成修学資金……貸与年数と同じ期間、岩手県内の市町村立病院・県立病院等に勤務することで全額免除されます。

 

秋田県:医学生修学資金(市町村振興枠)……貸与期間の1.5倍の期間、秋田県内の公的医療機関等に勤務することで全額免除されます。

 

山形県:特定診療科医師確保修学金……貸与期間の1.5倍の期間、山形県内の公的医療機関等に勤務することで全額免除されます。

 

福島県:福島県へき地医療等医師確保修学資金貸与制度……貸与期間の1.5倍の期間、福島県内のへき地診療所等に勤務することで全額免除されます。

 

富山県:富山県地域医療再生修学資金貸与制度……貸与期間の2倍の期間、富山県内の公的病院等に勤務することで全額免除されます。※コースによって勤務期間は異なります

 

岐阜県:岐阜県医学生修学資金(第2種修学資金)……貸付年数と同期間、岐阜県内の医療機関、知事が指定する医療機関等に勤務することで全額免除されます。

 

静岡県:静岡県医学修学資金……貸与期間の1.5倍の期間、本人の意向を聞いた上で、静岡県が指定する医療機関で勤務することで全額免除されます。

 

京都府:京都府地域医療確保奨学金……貸与年数と同じ期間、京都府が指定する地域医療機関に勤務することで全額免除されます。

 

鳥取県:医師養成確保奨学金(一般貸付枠)……貸与期間の1.5倍の期間、鳥取県内の知事が別に定める病院等に勤務することで全額免除されます。

 

島根県:島根県医学生地域医療奨学金(全国大学枠)……貸与期間の1.5倍の期間、島根県の指定医療機関に勤務することで全額免除されます。

 

長崎県:長崎県医学修学資金貸与制度……貸与期間の1.5倍の期間、長崎県病院企業団と離島医療機関に勤務することで全額免除されます。

 

熊本県:医師修学資金貸与制度……貸与期間の1.5倍の期間、熊本県知事が指定する病院等に勤務することで全額免除されます。

 

宮崎県:宮崎県医師修学資金……貸与期間の1.5倍の期間、宮崎県が指定する医療機関に勤務することで全額免除されます。

 

※上記の各都道府県自治体奨学金には、別途、医師免許取得期限、臨床研修制限等の条件があります。詳細は各自治体のホームページ等でご確認ください。

 

 

亀井 孝祥

医学部受験専門予備校メディカ 代表

 

本記事は、医学部受験サクセスガイド『集中メディカ』ホームページのコラムを抜粋、一部改変したものです。