ネイチャーグループは、資産運用・資産承継の分野において、日本最大級のコンサルティングファームである。本企画では、代表税理士・芦田敏之氏へのインタビューを通じて、同グループが富裕層から圧倒的な支持を集める理由を探っていく。第2回のテーマは、一部の富裕層にとっては「常識」という資産管理会社について。その設立から活用法まで、詳しく話を聞いた。

個人の所得からは、最大55%もの税金が差し引かれる

12月初頭に公表された2020年度税制改正大綱には、5G(次世代無線通信規格)やベンチャー企業への投資を促すための減税策が盛り込まれていたものの、個人の所得税ついてはむしろ課税強化の方向に向かっており、海外の中古不動産を通じた節税スキームも2021年以降は通用しなくなるのは前回触れた通りだ。

 

しかしながら、知見に長けたプロフェッショナルから適宜アドバイスを受けていれば、こうした税務を取り巻く情勢の変化にうろたえる必要はないだろう。

 

万全の策を講じている富裕層の間では「資産管理会社」の設立は常識であり、それを上手く活用しているからだ。個人では資産をできるだけ所有せず、法人名義で管理しているわけだ。

 

個人の所得税は高収入であるほど税負担が重くなる、5〜45%の累進課税となっている。これに対し、法人税は普通法人の場合で、所定の条件を満たせば15%もしくは19%、満たさなくても23.2%(いずれも2019年の適用税率)にすぎない。

 

「住民税の負担も含めると、個人の所得からは最大55%もの税金が差し引かれます。さらに相続税の最高税率も55%で、これら2回の納税で手元には約20%しか残りません。ところが、法人の実効税率(法人住民税を考慮したという負担率)は最大でも33.8%で、法人名義にしておけば70%近くを残すことが可能です」

 

と、ネイチャーグループの芦田敏之代表税理士は指摘する。手元に残せる資産が多ければ、それを運用してさらに増やすうえでも格段に有利なのは当然である。

 

資産管理会社の設立で「相続」も円滑に

資産管理会社は事業法人とは異なり、現金や預貯金、債券、株式、不動産などといった資産を管理することを目的に設立するプライベートカンパニーである。2006年に新会社法が施行されて、極例を挙げれば1円の資本金でも株式会社を設立できるので、かかるコストは登記料や司法書士への報酬などにすぎない。

 

芦田氏が指摘したように、資産管理会社を設立するメリットの1つは「節税効果」にある。そして、もう1つのメリットとして挙げられるのは「円滑で有利な相続」を進められることだ。

 

非課税枠を超える資産を個人が所有している場合、被相続人が亡くなったことを知ってから10ヵ月以内に相続税の申告手続きをすませ、納税のための現金を用意しなければならない。相続税額を計算する際に額面通りに評価される現金・預貯金に対し、不動産は実際の取得価額よりも割安に評価されるのが利点だが、換金性には難がある。

 

下手に不動産へ資産を集中しすぎていると、納税資金を集めるのに苦労しがちだが、法人名義で所有している資産であれば、その代表者が死去しても売却を迫られることはない。

 

「しかも、資産管理会社名義にしておけば、個人の所有では55%の相続税が適用されるケースでも、もっと低い税率に抑えることも可能です。たとえば、設立から3年以上が経過した法人の株式を相続した場合は、不動産と同じ計算方式が用いられ、現金・預金を相続するケースよりも相続税評価額を低くできます」(芦田氏)

 

海外資産を有する場合は国際税務のプロの助言が不可欠

相続の発生前から、計画的に子や孫に所得移転も進めるうえでも、資産管理会社は非常に有益である。個人所有の資産の場合、生前贈与の非課税枠は1人当たり年間110万円で、これを超えると最高税率55%の贈与税が課される可能性が生じる。だが、家族を法人の役員に任命して報酬を支払うというパターンで所得移転を行えば、贈与税よりも税率の低い所得税に抑えることも可能だ。さらに、芦田氏はこう助言する。

 

税理士法人 ネイチャー国際相続 代表税理士・芦田敏之氏
税理士法人 ネイチャー国際資産税
代表税理士・芦田敏之氏

「100万円の現金を子どもや孫に贈与すると気軽に使われかねないでしょうが、100万円に相当する資産管理会社の株式を持たせればその恐れはありません。それに、現時点で100万円の評価の株式を200万円の価値に高めることもできますし、自分が所有する株式の議決権は100で子どもや孫に贈与する株式の議決権は1にとどめるような手を打っておけば、存命中は経営の主導権を確保できます」(芦田氏)

 

さらにいえば、個人と比べて法人は経費に計上できる対象が幅広いし、収益から損金を差し引けるのも利点だ。ただし、海外でも資産を所有している場合は、話がややこしくなってくるケースが多く、国際税務に精通しているプロのサポート抜きでは難しい。

 

「米国などでは、相続が発生すると裁判所の監視下でプロベートと呼ばれる遺産分割・相続手続きが進められます。その間は資産が凍結され、完了するまでに何年もの歳月を要するケースも出てきます。しかも、現地とのやりとりは外国語になり、死亡証明書や宣誓供述書などの書類も翻訳する必要があることから、対応できるのは私たちのように国際税務を専門とする税理士法人に限られてくるのが現実です」(芦田氏)

 

家族構成や資産の状況などによって、どのような資産形成を行うのが最善なのかは個別に異なってくるもの。だからこそ、ネイチャーグループはグローバルタックス(国際税務)アドバイザリーとともにファイナンシャル(資産運用)アドバイザリーのプロフェッショナルも擁し、より多様な顧客のニーズに応えられる体制を整えているのだ。

 

取材・文/大西 洋平 撮影(人物)/永井 浩
※本インタビューは、2019年12月9日に収録したものです。