ネイチャーグループは、資産運用・資産承継の分野において、日本最大級のコンサルティングファームである。本企画では、代表税理士・芦田敏之氏へのインタビューを通じて、同グループが富裕層から圧倒的な支持を集める理由を探っていく。第3回のテーマは、「海外資産における税務処理の留意点」等について。

法人名義で資産を所有すれば税負担は軽くなるが…

前回(第2回『富裕層にとっては常識?「資産管理会社」設立の優位性とは』)、資産管理会社を設立する効用について触れたうえで、海外に資産を保有している場合には落とし穴も潜んでいることについて言及した。そして、国際税務のプロフェッショナルにきちんとサポートしてもらうことが欠かせないとも述べたが、他にも注意すべきポイントは無数に存在している。

 

たとえば、タックスヘイブン課税がその一例だ。タックスヘイブンとは、所得税や法人税、相続税などの税金がまったく徴収されないか、もしくは極めて低い税率が設定されている国・地域で、「租税回避地・低課税地域」とも表現される。

 

日本から近場ではシンガポールや香港、グローバルにはバハマやバージン諸島、ケイマン諸島がその具体例である。日本よりもそういったタックスヘイブンに資産管理会社を設立し、その法人名義で資産を所有したほうが税負担は軽くなると考える人は多いかもしれない。しかし、現実にはそういった課税逃れにはすでに対策が講じられている。タックスヘイブン課税と呼ばれる制度が設けられているのだ。

 

「タックスヘイブンを活用した課税逃れや節税の行為だと日本の国税当局が判断すれば、資産管理会社が得た利益はその法人に出資している個人の雑所得とみなされ、最高税率55%の累進税率が課されます」(芦田氏)

 

たとえ税理士の資格を持っていたとしても、国際的な税務処理を巡って国税当局が具体的にどのような見方をしているのかについては、その実務を多数こなしていなければピンとこないものだ。しかも、国際税務に関して豊富な知識のある税理士は限られているのが現実なのである。

 

税理士法人 ネイチャー国際資産税 代表税理士・芦田敏之氏
税理士法人 ネイチャー国際資産税 代表税理士・芦田敏之氏

「現在、ネイチャーグループは個人の国際税務の分野で国内最大級のファームとなっており、圧倒的な数の案件を手掛け、多彩な言語にも対応しています。私がこの分野に照準を定めた際、ニーズの高さを痛感したことから、追随するところが相次ぐのかと思っていました。

 

しかし実際にはそうではありませんでした。国際税務に詳しい人材というのはなかなかおらず、お客さまからのニーズがあっても、対応できる専門家はそう多くなかったというのが現状のようでした」(芦田氏)

 

当連載の第1回(富裕層の税金対策としての「海外不動産投資」…今後どうなる?)では、海外の中古不動産に着目した節税行為に国が待ったをかけて、その封じ手が2020年度税制改正大綱に盛り込まれたことについて触れた。ただ、海外資産が関わる今回の税制見直しは、それだけにとどまっていない。

 

子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避にもメスが⁉

一部の富裕層の間では「子会社の配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避」というスキームがもてはやされていたが、やはり今回の見直しで封じ込められることになるようだ。海外の子会社から受け取る配当と同社の譲渡を組み合わせ、意図的に損失を発生させて日本国内での課税を回避するというスキームである。

 

現行の税制では、法人が子会社から受け取る配当を所定の割合まで益金に算入しなくてもいい。その子会社が外国法人である場合、「25%以上の株式を保有している」との要件を満たせば、配当の95%を益金に不算入とすることが可能だ。

 

一方で、法人は配当を支払うと、それによって純資産が減少した分だけ株式の価値が低下する。こうしたポイントに着目し、M&Aで海外法人の株式を取得後、同社からの配当を実質的に無税で受け取るとともに、価値が低下した株式を取得価額よりも低い金額で他社に売却して譲渡損失を生じさせれば、その分だけ法人税の負担を抑えられる。

 

具体例を挙げたほうがわかりやすいだろう。芦田氏は次のように説明する。

 

「まず、日本の法人(内国法人)が外国籍のA社をM&Aで子会社化します。そして、A社は自らの子会社(内国法人から見れば孫会社)であるC社の株式を現物配当として内国法人に支給したと仮定しましょう。すると、内国法人は現物配当された株式の95%を益金に算入しなくてもすみます。さらに、配当を支払った後にB社へA社株を譲渡すれば譲渡損失が発生し、その点においても節税を図ることが可能だったわけです」

 

では、今回の税制改正が現実のものとなれば、どのように変わるのだろうか?

 

「内国法人が外国籍のA社を子会社化して、同社がC社の株式を親会社(内国法人)への現物配当に充てた場合、その95%を益金に算入しなくてもいいという点に変わりはありません。しかし、改正後はA社株をB社へ譲渡する際に益金の不算入分だけ帳簿価額が下がるので譲渡損失は5%のみとなり、こちらの節税効果は大幅に薄れます」(芦田氏)

 

国税当局が「税務調査に費やせる時間」も拡大傾向に

もっとも、「子会社の配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避」を巡る税制の見直しが具体的にいつから適用されるのかについて、件の税制改正大綱には明記されていないのも事実だ。今後、道筋が明らかになっていくだろうが、そういった点においても、国際税務に関する最新の情報をキャッチアップできる体制を整えているネイチャーグループの強みが光る。

 

他方、細かいところにまで目を向ければ、今回の税制改正大綱では海外との取引で得た利益への課税に関する「更正決定等」の期間制限も見直す方針を掲げている。納税義務者が申告した内容に誤りがある場合に税務署長が訂正を加えるのが「更正」で、納税義務者が申告を怠った場合に税務署長が調査に基づいて税額などを確定するのが「決定」だ。

 

「CRS(共通報告基準)制度はOECD(経済協力開発機構)が定めたもので、これを利用すれば日本の税務当局は国内居住者が海外で所有している金融資産の残高情報を把握できました。しかしながら、詳細な入出金情報までは把握できず、海外の国税当局や金融機関に情報提供を要請するとかなりの時間がかかり、『更正』の期限に間に合わず、時効となるケースが見られました。今回の改正は2020年4月1日から適用される予定で、以降は書面交付後3年間は『更正』が可能となり、国税当局は調査時間を確保できるようになります。一方で、あえて書面を交付しないことによって、さらに調査を長期化させることも予想されます」(芦田氏)

意図的な租税回避や脱税行為はともかく、国際税務は複雑極まりないだけに、信頼している顧問税理士に処理を依頼していても国税当局から誤りを指摘されるようなケースが少なくない。

 

すでに海外で資産を所有していたり、海外投資を検討中だったりする人は、国際税務のプロフェッショナルから助言を受けるのが無難だろう。

 

取材・文/大西 洋平 撮影(人物)/永井 浩
※本インタビューは、2019年12月9日に収録したものです。