金融商品に投資をして運用して得た利益については、通常その金額に対して約20%の税金がかかります。しかし、NISA口座を利用して、年間あたり一定金額の枠内で購入・運用した金融商品から得られる利益については、非課税となります。この制度は、イギリスのISAをモデルにした日本版ISAとして、NISA(ニーサ、Nippon Individual Savings Account)と呼ばれるようになりました。ここでは、NISAの基礎知識や、注意すべき点、利用する際のポイントを紹介します。

NISA誕生の背景は増税対策と資産形成促進

NISA制度はどのような背景から生まれたのでしょうか。

 

まずは増税に対しての緩和措置です。NISAが始まる前年の2013年までは証券優遇税制があり、上場株式や投資信託の売却益や配当と分配金の税率は10%に軽減されていました。しかし、2014年にこの軽減措置が終了し、税率が20%になりました。この増税による投資の減退への何らかの対抗措置が求められていたのです。

 

次に、政府が国民に投資による資産形成を促す目的からです。欧米と比べ、日本の家計の金融資産は現金・預金の割合が非常に高く、株や投資信託の割合が低くなっています。預金であれば元本保証はされますが、金利がほとんどつかないために運用面の効果は期待できません。近年は若年層の所得水準の減少傾向が顕著になっているため、運用による資産形成を促す必要がありました。

 

こうした事情を背景に、NISAが創設されたのです。

もくろみが外れたNISA

NISAは、運用で得た利益を非課税とすることで、投資を促しました。ところが、その思惑通りにはいきませんでした。非課税枠で毎月積立投資をするような投資行動が期待されましたが、積立での投資率は全体の1割程度にとどまっています。また、5年という非課税投資期間は長期投資というには中途半端な長さで、投機的行動に使われるケースもありました。すでに金融資産を保有する老年世代の利用がほとんどで、資産形成が必要な若い世代の利用が少なかったのも反省点となりました。

 

そして新しくできたのが、「つみたてNISA」です。つみたてNISAは、このように貯蓄から投資への流れをつくりだせなかったNISAの現状を鑑みた上で、資産形成をより着実に実践していくための仕組みとして2018年1月に始まりました。

 

金融庁は「長期・積立・分散」という投資行動3原則のもと、つみたてNISAの投資上限金額を年間40万円とNISAの3分の1に縮小。一方で、非課税投資期間を20年と長くしました。

 

以下、NISAとつみたてNISAについて具体的に説明していきます。

NISAとつみたてNISAの共通点

まず、NISAとつみたてNISAに共通することについて説明します。両方とも、日本に住む20歳以上の人なら誰でも利用できます。外国人でも住民票があれば可能です。また、いつでも自由に引き出すことができます。値上がりしたタイミングやお金が必要になったタイミングで、自由に引き出せるのは利点でしょう。

 

最大のメリットである非課税についての仕組みも、両者変わりません。通常20.315%の税金(所得税+住民税+復興特別所得税)が、一切かからないことになります。

 

逆にデメリットは、損益通算や繰越控除ができないことです。NISA口座から一般の課税口座に移管した時に、値上がりしていればいいのですが、値下がりしたときが問題です。

 

例えば、NISA口座で100万円の株式を購入し、課税口座への移管時に150万円に値上がりしていれば、まず、50万円の利益に対して非課税です。その後180万円に値上がりしたとしても、取得価格は150万円とされ、30万円に対してのみの課税となります。

 

一方、移管時に60万円に値下がりしていたとしても、40万円分の損益通算や繰越控除ができません。そしてその後、最初の取得時の100万円まで値を戻したとしても、移管時の60万円からの利益として40万円に通常どおり課税されます。つまり、利益に強く、損失に弱い制度といえそうです。

NISAとつみたてNISAで異なる点

NISAとつみたてNISAでは、異なることも多いです。

 

年間あたりの投資上限額は、NISAが120万円、つみたてNISAが40万円です。この制度が行われる期間を考慮すると、非課税運用できる総額は、NISAが600万円、つみたてNISAが800万円となります。つまり、短期的にはNISAのほうが大きいですが、長期的にはつみたてNISAのほうが大きくなります。 なお、同時に運用できる最大の投資額は、NISAが600万円(2014年から毎年継続利用して、2018年から2021年)、つみたてNISAが800万円(2018年から毎年継続利用して、2037年のみ)となります。

 

新規に投資できる期間が、NISAは10年間(買付は2014年~2023年、運用・売却は2027年まで)、つみたてNISAは20年間(買付は2018年~2037年、運用・売却は2056年まで)です。非課税となる期間は、NISAが投資した年から最長5年間(ロールオーバーを利用すれば最大10年間)、つみたてNISAが投資した年から最長20年間(ロールオーバーはできません)となります。

 

ロールオーバーとは、NISAでの5年間の非課税期間が終了した後に、その翌年の非課税投資枠を利用することでさらに非課税期間を5年間延長することができるというものです。つまり、最大10年まで延長可能ということになります。

 

例えば、2015年に始めたNISA枠は、2019年に非課税期間が終わります。そこで、2015年~2019年に保有していた商品を2020年のNISA枠に移すのがロールオーバーです。非課税枠の120万円を超えてもロールオーバーは可能です。ロールオーバーした分が120万円以下ならば、その分の非課税枠が減少し、新規に投資できる額が少なくなります。

 

また、同一金融機関でしかロールオーバーできません。なお、NISAの新規枠開設は2023年に終了するため、ロールオーバーを利用できるのは2018年が最後の年になります(2018年に開設し2023年にロールオーバーオーバーすれば2027年まで運用できます)。

 

つみたてNISAは、2018年に開いた口座の非課税期間が2018年から2037年ですが、2037年には制度が終了予定のため、今のところロールオーバーはできません。ただし、2037年に開いた口座の非課税期間が2056年までなので、長期運用には適しています。

 

投資対象商品は、NISAでは上場株式(ETF、REIT含む)と投資信託から選べます。投資経験者や上級者にとっては選択肢が多いことになります。しかし、NISA枠では、50万円の株式3銘柄や、投資単位が120万円を超えているような銘柄には投資できません。

 

つみたてNISAでは、金融庁が長期での資産形成に適しているとして定めた基準を満たす投資信託とETFの中からしか選べません。商品の販売年数や純資産が一定上であること、販売手数料や信託報酬が一定以下であることなどが基準となっています。株主優待や配当金が期待できず、選択肢が現状で百数十種ほどと少ない一方、長期運用に不向きな商品が予め除外されていると考えることもできます。投資未経験者や初心者にやさしくなっています。なお、金融機関によって取扱商品は異なります。

まだあるNISAとつみたてNISAの違い~投資方法~

投資方法にも違いがあります。NISAでは一括買付も積立も可能です。年単位での計算になりますので、1月に120万円でも、12月に120万円でも、あるいは1ヵ月に10万円ずつの利用でも可能となります。

 

これに対し、つみたてNISAでは定期かつ継続的方法による積立のみとなります。金融機関によって積み立て頻度の選択肢が異なりますが、40万円を12ヵ月毎月積立するのであれば、毎月33,333円の積立を継続することになります。安値のタイミングで1度に40万円分を使い切るというようなことはできません。しかし積立投資は、投資手法としては確実性の高いドルコスト平均法であり、買い逃しや高値づかみを避けやすくなります。

NISAとつみたてNISA…どちらを選ぶべきか?

NISAとつみたてNISAの違いについて理解いただけたでしょうか。ここからは、利用するときのポイントを紹介します。

 

まず、NISAかつみたてNISAか、どちらか一方しか選ぶことができません。資金に余裕があり40万円枠では不十分である、投資経験者で商品選択の知識がある、比較的短期間で運用成果が欲しい、ようなときはNISA。手元資金が少ない、投資初心者なので安全に運用したい、将来に向けて長期での運用を目指す、ならばつみたてNISAを選ぶとよいでしょう。

 

NISAやつみたてNISAの口座は、1人につき1つの金融機関に1つだけしか作れません。取り扱っている金融商品、手数料、使い勝手などを充分比較検討した上で開設しましょう。手数料が安く、取り扱い商品数が多いネット証券がおすすめです。

 

マイナンバーを含む必要書類を提出した後、金融機関は税務署を通して2重口座の開設にならないように確認するため、取引開始まで1~2週間程度かかります。他の一般口座ですでに保有している株や投資信託を、NISAやつみたてNISAの口座に移すことはできません。

 

現在は銀行口座に預金していても、得られる金利は微々たるもので、うっかりATMで手数料を取られただけで吹き飛んでしまいます。投資の対象は元本保証の商品ではありませんが、上手に運用できれば預金をはるかに上回る効果が期待できます。

 

1995年~2015年の20年間に国内・先進国・新興国の株式、債券(計6資産)に均等投資した場合の累積リターンは79.9%(年平均では4.0%)になりました。今投資して同じように40万円が20年後に72万円になるとは限りませんが、長期の積立・分散投資は有効な投資手法といえそうです。

 

上手く利用すれば大きいメリットを受けることができるNISAやつみたてNISAの制度。資産形成に役立ててみてはいかがでしょうか。

 

 

※本連載は、将来お金に困ることがないように、若いうちからできるライフプランニングに役立つ情報を紹介する「ライフプランnavi」の記事を抜粋、一部改変したものです。