競争が激化する賃貸住宅市場。「長期間に渡って入居者が絶えないホンモノの物件づくり」のニーズがますます高まっている。今や入居者の快適さを追求するだけでなく、ライフスタイルの提案も含めたトータルプロデュースの視点が欠かせないという。本連載では、建築家とタッグを組んだ住宅プロデュースで定評がある株式会社タツミプランニングの営業本部・藤郷紳也氏と、実際にいくつもの賃貸物件を設計した建築家・伊原孝則氏に、長期視点に基づく「勝つための賃貸物件づくり」の極意を伺う。前編のテーマは、企画提案型によるオリジナル賃貸物件の優位性についてである。

規格品物件と企画提案型物件との間にある大きな差とは

――昨年来、金融機関の融資引き締め姿勢の強化、大手のハウスメーカーの不祥事などが続き、土地活用や賃貸物件建築全般への逆風が吹いている状況ですが、どのように捉えていますか。

 

株式会社タツミプランニング営業本部・藤郷紳也氏
株式会社タツミプランニング
営業本部・藤郷紳也氏

藤郷 市場全体という観点では、たしかにそういう面はあります。さらにいえば、日本が長期的に人口減少傾向となる中で、賃貸物件を建てるってそもそもどうなの? という話もあるわけです。しかし当然ながら、都市部で賃貸物件に対する需要がなくなることはあり得ません。やはり、競争が増していく中で、勝てる物件にするための企画やコンセプトの部分が、今ますます重要になっているという話だと思います。

 

私たちが建築家の先生方とコラボレーションしているのは、まさにこの部分にしっかり対応するためです。そして施主(※物件の発注者、オーナー。以下同)様にこの点をご理解いただき、弊社に賃貸物件の建築の問い合わせ、あるいはお任せいただくケースが実は増えてきています。

 

伊原 これからの勝てる賃貸物件づくりには、企画やコンセプトを含め、目的への「最適化」がますます必要になると思います。「どこで建てても、アパートはアパートでしょ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。たしかに新築時であれば、いわゆる規格型物件でも、私たちがつくる企画提案型の物件でも、だいたい同じように入居者が埋まり、差は出にくいでしょう。

 

しかし規格型の物件の場合、その後も周囲に似たような新築物件が建つので、築古になるほど不利になっていきます。長い目で見た場合、入居者が2回転3回転と入れ替わる際の空室期間や、10年、15年と経った後の空室率は、規格型物件と企画提案型の物件とでは大きく差がつきます。

 

それが、きちんと将来まで収益を生む、という目的に沿って企画立案された注文建築の物件の力です。10年しか使わないつもりで物件を建てるなら別ですが、そんな方はほとんどいないと思います。

 

藤郷 地主さんや大家さんでも、よく勉強されている方は、いま伊原先生がおっしゃったような将来像までしっかり考えています。逆に、「簡単に儲かるんでしょ」と安易に捉えていたり、とにかく部屋数を増やして表面利回りを高くすることばかりを狙ったりするような方は、申し訳ないですが、長い目で見ると失敗する可能性が高いのではないでしょうか。

 

妥協のない物件づくりに欠かせない「建築家の力」

――不動産のプロではない一般の地主や、はじめて賃貸物件を建てる施主の方は、将来像と言われても、なかなかイメージが湧かないかもしれません。具体的にはどのようなものでしょうか。

 

建築家・伊原孝則氏
建築家・伊原孝則氏

伊原 私たちは、まず、施主様の年齢や家族、資産の状況、相続や資産継承に対する考えなどをくわしく聞き、さらに土地の状況、周辺状況などを精査して、複数のプランを比較しながら将来像をご提示します。これが前述した「目的への最適解」の第一歩となります。

 

たとえば木造アパートか、あるいは店舗ビルか、賃貸併用住宅がいいのかといったことを、ゼロベースから考えていきます。また、いずれの建物でも、その土地の状況(形状や地積、周辺環境)に合った設計、仕様を考えていきますので、施主様にとっても妥協のない計画が可能になります。

 

藤郷 建築家とのコラボレーションと聞くと、「そんなおしゃれな建物をつくるつもりはないよ」みたいに捉える方もいるのですが、もちろん、ただかっこいい建物をつくるためだけに建築家と組んでいるのではありません。施主様に対して、妥協のない「最適解」を提示するために建築家の力が必要となるのです。さらに、必要に応じて税理士や弁護士など、さまざまな専門家をアテンドし、チーム体制でプロジェクトを進めます。

 

――そのようなチーム体制でタツミプランニングが手掛ける物件は、一般の戸建て住宅も収益物件もほとんどが木造ですが、そのメリットはどういったところにあるのでしょうか。

 

藤郷 メリットはいろいろあります。まず、RC造(鉄筋コンクリート造)と比較して建築費を抑えることができ、収益性を高めやすいということです。とくにここ数年は、RC造の資材費がかなり高騰しているので、この点は大きなメリットになっています。初期コストが低く、減価償却期間が短いことから、比較的キャッシュフローも出しやすくなります。

 

伊原 一般的には木造はRC造より建物自体の寿命は短くなります。しかし、そもそも構造体の寿命の限界まで建物を使うというのは例外的で、その前に住居としての社会性を失い、使われなくなるのが一般的です。賃貸住宅でいうと、その時代の基準に照らして収益物件としての魅力が失われて入居者がいなくなり、建て替え、取り壊しが検討されるようになるということです。

 

しかし、木造住宅は更新性が高いことも強みのひとつで、比較的低コストでリノベーションや増改築がしやすいという特徴があります。そのため、工夫次第で実は寿命をいかようにも延ばすことができるという面もあるのです。

 

藤郷 最近は、循環型社会の形成を目指す国の方針として、木造住宅の活用が推進されています。2018年に公布(2019年施行)された改正建築基準法(国土交通省)では、木造住宅に関する規制が緩和され、これまではつくれなかった土地にも、3階以上の木造住宅がつくれるようになりました。

 

伊原 その背景には、木造の研究や技術が進歩して、耐震性能や耐火性能が良くなっていることもあります。昔は、木造といえば地震に弱い、火事に弱いというイメージがありましたが、現在では木造住宅でも実用上十分な耐震性能、耐火性能を確保できます。その点に関しては、現在ではまったく心配がいらないといえます。木造でつくる集合住宅は、昔の木質のイメージではなく、循環型未来に向け、デザインされた新鮮な物件を造る可能性に満ちています。

 

取材・文/椎原よしき 撮影/永井浩(人物)
※本インタビューは、2019年4月9日に収録したものです。