贈与税・相続税が「免除」されるわけではない
前回(『自社株の贈与・相続税がゼロに?事業承継税制「特例措置」とは』)説明したように、事業承継税制の「特例措置」を利用すると、贈与税・相続税が100%納税猶予されることになります。
贈与税・相続税は現金一括納付が原則ですから、通常であれば、贈与を受け、相続をする側が納税のために多額の現金を用意する必要があります。そしてこれが、中小企業において親族内でも株式承継が進まない大きな原因となっていました。
その点、「特例措置」を利用すれば、当面は贈与税・相続税の納税が猶予されるのですから、一見すると非常に大きなメリットがあるように思えます。また、「特例措置」では、親族内だけでなく、親族以外の人に対する贈与についても納税猶予が認められています。息子や孫など親族の中にふさわしい後継者がいない場合、長年働いてくれた役員を後継者に指名して、納税負担をかけずに株式を贈与することが可能となったのです。
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主に給与所得で資産を形成してきた社員の場合、数億円単位の贈与税を払えるほどの個人資産を持っているケースはほとんどありませんし、銀行から借り入れるのも困難です。しかし「特例措置」を利用すれば、多額の納税資金を用意しなくても、ひとまず税金を納めることなく株式の贈与が受けられるようになるのですから、親族以外の後継者にとっては朗報といえるかもしれません。
このように、一見いいこと尽くめに思える「特例措置」ですが、じつは思わぬ落とし穴があることに注意が必要です。
この「特例措置」を利用すると、贈与税や相続税は未来永劫、免除されると思っている方も少なくないようですが、実際にはそうではありません。あくまでも、納税が猶予されるだけなのです。ひとまず贈与税・相続税を納めなくて済んだとしても、猶予された納税義務は、いつか果たさなければなりません。
「特例措置」については、「贈与税・相続税がゼロになる」という話だけが独り歩きして、まるで贈与税・相続税が免除されるように思い込んでいる方もいるようですが、「猶予」と「免除」ではまったく意味が異なります。事業承継税制で認められるのは、あくまでも「猶予」であるということを覚えておいてください。
10年後に「特例」が延長されるとは限らない
ここで、事業承継税制における納税猶予の仕組みについて、簡単に説明しておきましょう。まず、経営者が自社株の100%を息子に贈与したとします。「特例措置」を利用すれば、全株式について100%納税猶予されるので、この時点で贈与税を納める必要はありません。
その後、経営者が亡くなると、息子に贈与された全株式は、経営者から親族への相続財産として持ち戻されることになります。この時点で、息子に対して猶予されていた贈与税の納税義務はなくなり、実質的に贈与税をゼロ円にすることができます。しかし、相続財産に持ち戻された全株式について、今度は相続税の納税義務が生じることになります。
もちろん、この場合も「特例措置」を利用すれば、相続税の納税猶予を受けることは可能です。相続を受けた息子が株式を持ち続ける限り、相続税を納める必要はありません。猶予が終わるのは、息子がその他の親族(孫など)や親族以外の第三者に株式を贈与、相続、または譲渡したときです。
仮に贈与・相続をした場合、贈与を受ける側、または相続する側が再び「特例措置」を利用すれば、納税猶予を引き継ぐことができます。これによって、贈与する側、相続される側(被相続人)は、実質的に納税義務を免除されることになります。「特例措置」が続く限り、これを延々と繰り返せば、孫やひ孫の代まで納税義務を「先送り」することができるわけです。
ところが、ここに落とし穴があります。
「特例措置」はあくまで、2018年1月1日から10年以内の期間限定の措置であって、未来永劫続くわけではありません。仮に10年後に「特例措置」がなくなってしまうと、孫の代は猶予され続けた多額の贈与税や相続税を納めなければならなくなる可能性があります。
10年後以降も「特例措置」が延長されるという話も出ていますが、何らかの保証のある話ではありません。あくまでも「特例」の措置なので、長く続くとは限らないと考えたほうがいいでしょう。そうなると、「先送り」された贈与税や相続税は、いつかは、誰かが納めなければならなくなるのです。いずれ誰かが負担するのであれば、納税額はなるべく抑えるに越したことはありません。
株式の承継においては、自社株評価をいかに下げて、贈与税・相続税の負担を小さくするかということが重要なポイントになりますが、事業承継税制の「特例措置」を利用する場合でも、この基本は変わらないといえます。
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