富裕層の「住まい」に対する考え方が変化している。もともと都心部に住んでいる富裕層だけでなく、郊外や地方の富裕層の間でも、いま住むのに快適で、将来の資産価値も色あせにくい都心のレジデンスを求める傾向がより強まっているようだ。自分だけでなく、子供や孫のことを考えて「資産価値」を保ちやすい都心の住宅を選ぶ富裕層も増えている。本連載では、人口動態調査や再開発計画などに基づきながら、とりわけ注目度が高まっている都心のマンションの最新事情を探る。今回のテーマは、資産防衛と相続対策における「都心マンション」の強みである。

資産価値の保全には人口動態が大きく影響!?

都心のマンションを購入する富裕層の年齢はさまざまだ。自ら起業し、一代で財を成した富裕層には若い人も多いが、先祖や親の代から資産を受け継いだ人は、比較的シニア層の割合も高いようである。

 

後者の場合、「今の暮らしの快適さ」だけでなく、「受け継いだ資産をしっかり守る」という目的でマンションを購入するケースも多い。さらには、区分所有のマンションは「分けやすい資産」であることから、相続対策として購入する人もいるようだ。

 

まず、都心のマンションは資産防衛に有効な投資対象であるといえそうだ。新築マンションポータルサイト『MAJOR7』の「新築分譲マンション購入意向者アンケート」(2018年2月27日発表)によると、マンション購入を検討している理由の1位として「資産を持ちたい・資産として有利だと思ったから」があげられている。

 

よくいわれるように、現金はインフレによって目減りするリスクがあるし、株や債券といった有価証券の価値は、景気や金利などの経済情勢だけでなく、国内外の政治や社会情勢によって大きく変動する。もちろん、通貨も然りである。その点、一般に不動産はインフレに強く、株や債券などとは異なる現物資産なので、ポートフォリオの一部として不動産を持つことは資産防衛のための有効な手段といえる。

 

 

ただし、これはあくまで「教科書通り」のセオリーであり、どんな不動産でも、とにかく持っていれば資産が守られるというわけではない。

 

不動産の価値は、立地や建物のグレードが良好であるほど保たれやすいが、より長い視点で見れば、価値を保てるかどうかは人口動態に大きく左右される。

 

ご承知のように、日本では急速な人口減少が進んでいる。とくに地方における減少ペースは年々加速し、住宅需要は縮小し続けている。

 

需給バランスの変化による悪影響は、まず中古住宅市場や賃貸住宅市場に顕著に表れ、販売価格や家賃の下落に結びつく。新築分譲住宅や、新築マンションなどの分譲住宅は比較的影響を受けにくいと考えられるが、それでも中古や賃貸の下落によって不動産市場全体の相場が下がっていけば、長期的に価値を落としていく可能性は高いといえそうだ。

 

その点、本連載の第1回でも解説したように、東京都心は年々人口が増え続けている。需給バランスの悪化が回避できるという観点で見れば、都心のマンションを購入することは、資産防衛のための有効な選択肢のひとつだといえるだろう。

マンションは「複数の相続人」に分け与えやすい

一方、相続の観点から見た場合、区分所有マンションは戸建てなどと違い、複数の相続人に分け与えやすいのが大きなメリットである。

 

郊外や地方の富裕層であれば、住んでいる家をそのまま相続するのではなく、都心の複数のマンションに買い換えて子どもに分け与えるという方法も考えられるだろう。

 

子供が複数いるのに、相続できる不動産が実家の土地と建物だけということになると、どうしても揉めやすくなる。その点、都心のマンションには、相続人同士で分けやすいというメリットがある。

 

相続が発生するまでは、リタイヤ後の「快適な都会生活」の拠点にすればいいし、空いている物件は賃貸して家賃収入を得る方法もある。ただ、人が住むことによる汚れや老朽化を嫌い、建物の資産価値を保つため、空いている物件はそのままにしておく富裕層も多いようだ。

 

 

また、晩婚化や非婚化の進行とともに、一人暮らしのまま30~40代を迎えた子供を持つシニア富裕層も多く、購入したマンションのひとつに子供を住ませる人も増えているようだ。もちろん、どのように使うかは人それぞれだが、「資産価値が長く保たれる」という大前提があるからこそ、さまざまな利用方法が考えられるのである。

 

将来設計は、家族の事情や世の中の変化とともに変わっていくものである。そうした変化に柔軟に対応できることも、都心のマンションを取得することのメリットといえるのではないだろうか。