富裕層の「住まい」に対する考え方が変化している。もともと都心部に住んでいる富裕層だけでなく、郊外や地方の富裕層の間でも、いま住むのに快適で、将来の資産価値も色あせにくい都心のレジデンスを求める傾向がより強まっているようだ。自分だけでなく、子供や孫のことを考えて「資産価値」を保ちやすい都心の住宅を選ぶ富裕層も増えている。本連載では、人口動態調査や再開発計画などに基づきながら、とりわけ注目度が高まっている都心のマンションの最新事情を探る。今回のテーマは、品川・田町エリアの魅力である。

住居エリアとビジネスセンター、2つの顔を持つ「品川」

前回は、富裕層が都心のマンションを購入する理由のひとつとして、「今の暮らしの快適さ」と「資産価値の保全」という2つのニーズが満たされる点をあげた。では、富裕層にとくに好まれているのは、都心のどのエリアに位置するマンションなのだろうか。

 

新築マンションポータルサイト『MAJOR7』の「住んでみたい街アンケート」(2018年9月27日発表)によると、1位「恵比寿」、2位「品川」、3位「自由が丘」となっている。2位にランクインした品川は、昨年6位からの4ランクアップとなった。このように、品川が注目されている理由のひとつとして、港区南エリアに位置する「品川駅・田町駅周辺地域」が「アジアヘッドクォーター特区」構想に沿って急ピッチで再開発が進んでいる点があげられるだろう。

 

生活の利便性という点では、商業地が近くにあるかどうかが重要なポイントとなるが、そもそも東海道の宿場町「品川宿」があったこのエリアは、中世から近世を通じて物流の拠点だった。その歴史を受け継ぎながら、現在は東海道・山陽新幹線の発着駅として「東京の玄関口」の役割を果たしている。品川駅には「ルミネ ザ・キッチン品川」「アトレ品川」という2つの駅ビルがあり、2005年にはエキナカの「エキュート品川」もオープン。また、京急ストアなどが入るショッピングセンター「ウィング高輪WEST」と「ウィング高輪EAST」が駅前(高輪口側)の道路を挟み両側に建っている。

 

 

一方、品川駅の港南口周辺は、1990年代から再開発が進み、ビジネスセンターとして発展した。それまで中央卸売市場食肉市場の輸送インフラとして敷かれていた鉄道が撤去され、「品川インターシティ」「品川グランドコモンズ」などの高層オフィスビル群が次々と完成。三菱重工やソニーなどの企業本社の進出も相次ぎ、2000年ごろには東京を代表するビジネスセンターのひとつとなった。

 

高輪口周辺は住居エリア、港南口周辺はビジネスセンターと「2つの顔」をあわせ持つ街が誕生したのである。

 

仕事にも生活にも便利な品川は、地方から東京に赴任するビジネスパーソンや外国人居住者にとって格好の立地であり、継続的な人口流入が期待できることから、不動産の価値も期待される。そのため、品川周辺のマンションは「生活の利便性」と「資産価値保全」の両立を求める富裕層にとって魅力的な存在ではないだろうか。

2020年春の暫定開業を目指す品川新駅

港区の南に位置する高輪・三田エリアが、再開発によってさらに魅力的なエリアに生まれ変わろうとしている。「アジアヘッドクォーター特区」構想に基づく再開発は、品川駅から田町駅に至る広大なエリアで行われているが、なかでも注目されているのは、2つの駅の間に新設される「品川新駅(編集部注:2018年12月4日「高輪ゲートウェイ」と発表)」周辺の開発プロジェクトである。

 

新国立競技場の設計も手掛ける著名建築家、隈研吾氏が建物をデザインした新駅は、2020年春の暫定開業を目指し、急ピッチで建設が進められている。JR東日本はこの品川新駅を中心に街づくりを行う「品川開発プロジェクト」を進めており、品川駅~田町駅間に新たな商業エリアなどが誕生することになる。

 

ちなみにJR東日本は、品川駅から品川新駅、田町駅に至る開発エリアを「グローバル ゲートウェイ 品川」と名付けている。やがてこの地域が「首都圏と世界、国内の各都市をつなぐ広域交通結節点としての役割」を果たすと考えているからだ。

 

なかでも、そのハブの役割を果たすのが品川駅である。同駅は2003年に東海道新幹線の停車駅となり、2027年に名古屋までの間で開業するリニア中央新幹線の始発駅となることも決まっている。さらに品川駅からは、京浜急行で羽田空港国際線ターミナル駅までわずか12分(京急本線:直通12分、通勤時23分)と「空の玄関口」へのアクセスも良好だ。また2020年に向け、国土交通省が羽田空港の国際線増便への取り組みを行っており、さらなる需要増加が期待できるだろう。

 

 

一方、建設中の品川新駅から徒歩数分のところには、都営地下鉄浅草線の泉岳寺駅がある。浅草線は京浜急行、京成電鉄と相互乗り入れしており、羽田空港と成田空港を直結する唯一の鉄道路線だ。2つの国際空港を結ぶ鉄道が通り、地方への鉄道アクセスとも連携しやすいこのエリアは、文字どおり首都圏と世界、国内の各都市を結ぶゲートウェイとなりそうだ。

 

このような交通アクセスの向上は、品川を拠点とするグローバルビジネスの発展に拍車を掛けることになり、品川エリアの住宅を購入した人々への恩恵も期待できるだろう。

 

鉄道や航空便が利用しやすくなれば、地方から品川に生活拠点を移す富裕層は今後さらに増えると予想される。それによって、品川エリアの不動産市場は長期的な安定が見込まれるだろう。シニアの富裕層のなかには、海外旅行や国内旅行を趣味にしている人も多い。そうした人々にとっても、国内外への交通アクセスがよい品川は魅力的なエリアである。

 

しかも、品川エリアの再開発は比較的長期にわたって続く。品川新駅は2020年の暫定開業から4年後の2024年に本開業する予定であり、リニアが開通するのは2027年のことだ。その間、街の利便性はどんどん高まり、魅力も増し続けることだろう。