富裕層の「住まい」に対する考え方が変化している。もともと都心部に住んでいる富裕層だけでなく、郊外や地方の富裕層の間でも、いま住むのに快適で、将来の資産価値も色あせにくい都心のレジデンスを求める傾向がより強まっているようだ。自分だけでなく、子供や孫のことを考えて「資産価値」を保ちやすい都心の住宅を選ぶ富裕層も増えている。本連載では、人口動態調査や再開発計画などに基づきながら、とりわけ注目度が高まっている都心のマンションの最新事情を探る。今回のテーマは、QOLの観点から浮かび上がる「高輪・白金高輪・三田」の優位性である。

緑に囲まれ、落ち着いた佇まいの「高輪エリア」

前回は、富裕層に人気の高い都心のエリアのひとつとして、「品川駅・田町駅周辺地域」を紹介した。古くから商業地域として発展し、再開発によって首都圏と世界、全国各都市を結ぶゲートウェイに生まれ変わろうとしている同エリアは、都会ならではの便利な暮らしを満喫したいと考える富裕層にとっては理想的な場所といえそうだ。

 

しかし、富裕層のニーズは千差万別である。賑やかな街で明るく楽しく暮らしたいという人もいれば、なるべく喧噪から離れ、静かな佇まいのなかでゆったり暮らしたいという人もいる。とくに郊外や地方に長く住んでいた人のなかには、都会の利便性は捨てがたいけれど、ある程度自然に囲まれ、落ち着いた雰囲気のある場所に住みたいと思う人も多い。また都会暮らしの長い富裕層のなかにも、今後は少し落ち着いた場所で・・・という人は少なくないだろう。

 

そうしたニーズを満たしてくれるのが、品川に近接していながら閑静な雰囲気が漂う「高輪」や「白金高輪」「三田」などのエリアである。

 

高輪エリアは、江戸時代には屋敷や寺院が建ち並ぶ、非常に栄えた町だった。これらの屋敷は、明治以降に諸外国の大使館や皇族の屋敷・御用地、学校用地となったものも多く、緑が残る落ち着いた街並みをつくりあげている。

 

 

たとえば、現在のグランドプリンスホテル新高輪国際館パミールは旧北白川宮邸、同じくグランドプリンスホテル高輪貴賓館は旧竹田宮邸の跡地に建てられたものである。そもそも高輪や品川などに点在する「プリンスホテル」は、用地を宮家(皇子=プリンス)から譲り受けたことが名称の由来である。このほか、高輪には天皇皇后両陛下が2019年4月の譲位後に仮住まいされる予定の旧高松宮邸(高輪皇族邸)もある。

 

こうした、これまでの歴史によって醸し出された雰囲気や、緑が多く残る落ち着いた街並みは、都心でも有数の住宅街としての高輪の評価につながっている。

 

郊外や地方から都心に移り住みたいと考えている富裕層のなかには、「都心らしからぬ」高輪の落ち着いた雰囲気に魅了される人が少なくないようだ。緑に囲まれ、静けさが広がる環境は、格別のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を実感させてくれるからであろう。しかも、喧噪から一定の距離を置いているとはいえ、品川駅方面まで行けば、買い物や食事に不自由はなく、交通の便もよい立地である。

 

同じく都心有数の住宅街として人気のあるエリアといえば、最近では六本木周辺があげられる。上記で述べたような歴史というファクター以外に、高輪周辺地域と六本木周辺との違いを述べるとすれば教育環境だろう。

 

いま地方に住んでいても、子供は東京の大学に行かせようとする富裕層は多い。その際に注目されるのが、やはり高輪周辺である。とくに三田エリアには慶應義塾大学がキャンパスを構えているため、その周辺の大学へ通わせるための理想的な拠点のひとつであるといえるだろう。

再開発で新たな魅力を見せる「白金高輪・三田エリア」

高輪周辺エリアの東京メトロ・都営地下鉄の白金高輪駅周辺や、前述の都営地下鉄三田駅周辺なども富裕層にとって魅力のあるエリアではないだろうか。

 

どちらも閑静な住宅街だが、再開発の動きも活発化している。白金高輪駅東地区では、2007年に制定された「港区まちづくり条例」に基づいて、再開発を目指した街づくりの協議が進められている。

 

 

住友不動産プレスリリース(2018年6月22日)によると、三田においては、三田三丁目・四丁目地区の再開発事業として、田町・三田エリアで最高となる高さ約215m、総延床面積19万6,000㎡超の超高層オフィスビルを中核とし、住宅、商業、学校、文化・交流など多彩な機能を備えた全4棟、総延床面積約22万5,000㎡の大規模複合施設が建設される予定だ。

 

これに伴って、新たにバリアフリー化した歩道橋や歩行者デッキなどを新設し、地区と周辺市街地を繋ぐ安全で快適な歩行者ネットワークを形成するほか、隣接街区と一体化する合計約1万5,400㎡の緑地や広場などを設け、人が集い賑わい、災害時の対応拠点ともなる充実した都市基盤整備を行うという。

 

バリアフリー化や災害への対応拠点づくりなどは、このエリアのマンションの購入を検討するシニア層にとってもありがたい取り組みだといえそうだ。