資産100億円を作るにはどうすればよいのか。本連載では、「賃貸経営」を中心に資産を形成していくための考え方やノウハウを、自らも900戸の大家である、ゴールドトラスト株式会社の取締役会長・久保川議道氏に伺う。第3回目のテーマは、満室賃貸経営のために必要な3要素である。

「この立地には、どんなお客様の需要があるのか」

前回、我欲(自分の都合)での賃貸経営は必ず失敗するという話をしました。我欲の反対は「利他」です。つまり、どうすればお客様の利益になるかを考えて、そこからスタートすしなければならないということです。そうすれば「余っている土地があるから、アパートでも建てよう」という失敗の発想には絶対になりません。

 

では、満室賃貸経営をするためのステップを具体的に見ていきましょう。

 

<満室経営のための3要素、立地、家賃、仕様・設備>

 

まず、「立地の需要」を考えます。つまり、ここにアパートがあったら喜んで入ってくれる人がいるだろうか? ということを考えるわけです。すると、この立地はアパートには向いていないけど、広めのマンションなら向いているという場合があるかもしれません。あるいは、アパート・マンションには向いていないが、サ高住(サービス付き高齢者住宅)には向いているということがあるかもしれません。あるいはもっと別の建物がいいという結論になるかもしれません。

 

このように、「この立地には、どんなお客様の需要があるのか」を考えるところが、第一段階です。これを突き詰めれば、需要のある土地を買えばいいということになります。まず需要のある立地の土地を手に入れる。これが満室賃貸経営の第一歩です。現在はまだ土地をお持ちではない方でも、賃貸経営は可能です(詳しくは第6回でご説明します)。

 

次に、入居者さんに喜んでもらうため、「家賃を周辺の相場より安くする」ことです。入居者さんにとって一番気になるのは家賃ですから、ここで周辺物件よりも安い設定にすることは、なによりもお客様のメリットになります。

 

さらに、安いからと言って狭くてみすぼらしい建物では問題外で、「しっかりした設備・仕様の住居」でなければなりません。広さは2DLKなら65平米以上、1Rなら40平米以上、防音・断熱性能、駐車場、オートロックや防犯設備などを備えた、水準以上の住宅です(東海地方の基準です)。

 

以上、①立地に賃貸需要があり、②周辺相場より5パーセント程度低い賃料で、③設備・仕様面でも上記のような一定水準を満たす建物、という賃貸物件を建てれば、お客様(入居者さん)は大喜びです。お客様が喜ぶ物件で、失敗することはありえません。

 

そして、以上の①~③のポイントを実現するための絶対的な条件が、建築費が適正な安さであることです。高い建築費で建物を建てたら、低い家賃を設定できないことは自明でしょう。

 

なぜ、日本一安い「建築費」が実現できるのか?

ゴールドトラスト株式会社 取締役会長 久保川議道 氏
ゴールドトラスト株式会社
取締役会長 久保川議道 氏

具体的には、大手のアパートメーカー、ハウスメーカーの場合、木造アパートで、坪単価65万円というのが、標準的な建築費の見積もりです。しかし、木造の場合なら、高くても坪単価40万円を超えない金額で建てること。これが、成功する賃貸経営に不可欠な第1の要素です。

 

そして、私たちは木造アパートなら坪単価38万円、コンクリートマンションなら坪単価44万円で販売しています。これは「日本一安い」と自負しています。ただ、建築費が大手アパートメーカーより4割も安いと聞くと、「安かろう、悪かろう」なのではないかとご心配になる方もいらっしゃるかもしません。そこで、どうして私たちがそのような安い建築費を実現できるのかもご説明しておきます。

 

それは、日本一安い価格で仕事をしてくれる協力会社(下請け業者)さんを350社抱えているからです。ではなぜ協力会社さんが日本一安い価格で仕事をしてくれるのか。

 

まず、私自身が建築現場の職人出身であるため、下請け業者さんの本当の原価を知っているからです。だから、ぎりぎりのところでの要求ができます。大学の建築科を卒業して大手メーカーに入社し、現場監督からスタートしたような人は『積算ブック』(建築コストの見積もりをするためのマニュアルのようなもの)で原価を出しますが、それでは、本当の原価は絶対にわかりません。

 

また、通常の場合、建築の下請けというのは、案件ごとの受注になりますから、繁忙期と閑散期の波がとても大きくなります。それが、経営を不安定にさせています。また、案件ごとの相見積もりを取られて、さらに後から理不尽な値引きを要求されたりして・・・と、多くの下請け業者さんは本当に苦労をしています。

 

一方、私たちは一社発注で、相見積もりは取りません。そして、年間購買でまとめ買いをします。たとえば、「おたくには、去年は40件お願いしたけど、今年は50件お願いします」という形で、1年分をまとめて発注するのです。その代わり、1件ごとの単価は下げてもらいます。協力会社さんにとっては、単価は低くても、件数がまとまるので利益の金額は大きくなります。しかも年間購買なので、経営も安定します。ですから協力会社さんは喜んで仕事をしてくれます。言わば、協力会社さんとWin-Winの関係を築いていることが、結果として坪単価38万円という低価格につながっているのです。

 

これができる背景には、私たちが年間に1000戸を超える住宅を建設し、その数が毎年増え続けていることもあります。良いものを低コストでたくさん作るという、製造業としての基本中の基本を大切にすることが、賃貸経営者の皆様、そして、入居者さんの利益にもつながっているのです。

 

取材・文/椎原芳貴 撮影/石塚実貴 ※本インタビューは、2018年6月6日に収録したものです。