企業オーナーや個人投資家の「事業投資」に対する機運が高まる中で注目を集めているのが「コインランドリー事業」だ。本連載では、「事業」としてどう収益性を高めるのか、この点で特筆すべき取り組みを多数行っている株式会社ジーアイビー代表取締役の鈴木衛氏に、コインランドリー事業投資の最新事情を伺った。第4回目は、「AI×ビッグデータ」活用術を解説する。

本格的な「マーケティング」を可能にしたのは・・・

少し前までコインランドリー業界は、IT化がまったく進まないガラパゴスのような業界でした。ところが、ここ2~3年で急速な変化が起きています。今回は、IoTやビッグデータ分析、AI活用がどのようにコインランドリー業界を変えつつあるのかを紹介します。


いま、先進的なコインランドリー店舗には、「集中ターミナル型ペイメントシステム」が導入されています。

 

 

出典:株式会社ジーアイビー提供資料
「タッチ&ウォッシュ」
出典:株式会社ジーアイビー提供資料

これは、操作用のタッチパネルがついたコントロール用機器と、洗濯機・乾燥機をネットワーク化したもので、利用者にコントロール機器を使ってもらうことで、料金の支払い、洗濯機・乾燥機の操作、ポイントカードの発行、コイン詰まりによる返金対応などができるものです。

 

また、売上計算、機械の稼働状況の集計、故障などの異常検知も行っており、インターネットを通じた遠隔通知、遠隔操作も可能です。メーカーの修理サービスを呼ぶことも、稼働率や売上の確認も、すべて遠隔地のスマートフォンから可能で、オーナーが店舗に行く必要はありません。

 

コインランドリーの歴史上、こういった機器が登場したのは、ほんの3年ほど前のことです。つい最近まで、コインランドリー店舗には単なる「両替機」しかなく、硬貨を集めて数えるまで売上がわからないというアナログな業界だったのです。もっとも現在でも「集中ターミナル型ペイメントシステム」を導入しているのはまだ少数の店舗だけで、昔ながらの両替機だけという店舗が大多数なのが現状です。

 

この「集中ターミナル型ペイメントシステム」が開発されたことにより、コインランドリー業界でもようやく本格的なマーケティングが可能になってきました。日にち別、曜日別、時間別、天候別などのセグメントによる各機械の稼働率を集計し、クロス分析をすることで、天候等の外的な条件と稼働率(売上)との変化の相関関係がわかるようになってきたのです。そこから、稼働率を上げ、売上を増やすためのさまざまな施策を打つことが可能になります。

 

たとえば、コインランドリーには、いつも平均的に来客があるわけではありません。晴天が続くと来客数は減り、雨の日には増加します。また通常、週末にも来客数は多くなります。よく晴れた平日の稼働率は1~2割程度である反面、雨の土日などは非常に混雑し、待ち時間が長くなった結果、諦めて帰ってしまう方もいます。

 

このバラツキを少しでも平準化できるとすれば、どうでしょうか。混雑している雨の土日に来ている利用者の中には、その日ではなくてもいい人が2割か3割程度はいるはずです。そういう人には、空いている日に来店してもらえば、全体の稼働率は明らかに上がるはずです。

 

そこで平日の来店を促すために、「集中ターミナル型ペイメントシステム」で発行可能なポイントカードを利用します。たとえば、ある店舗で1回の利用にあたって、一律に10%のポイントを付加しているとします。これを「平日は15%ポイント付加」とすれば、「平日でも週末でもどちらでもいい顧客」に対して、平日に来店するインセンティブを与えることができます。店にとっても、顧客にとっても双方にメリットがある、Win-Winの方法です。

 

あるいは、天気のいい日が続いたら、「ポイント2倍デー」を作ることも考えられるでしょう。ただしこの場合、天候という変数に対応するため、ポイント2倍という情報を随時機動的にワントゥーワンで顧客へ届けなければなりません。私たちは現在、スマートフォンによって個々の顧客に直接リーチできるシステムを開発中です。

 

「集中ターミナル型ペイメントシステム」の導入により、マーケティングが可能になったにも関わらず、取り組んでいるコインランドリーはほとんど見受けられません。業界内におけるマーケティングを軸とした取り組みについて、我々が先陣を切っていると自負しています。

新規開店から1年後までの売上まで予測可能!?

私たちが提供するコインラインドリー「ブルースカイランドリー」は、2018年4月時点で、全国に48店舗を展開しています。既存店舗の稼働データと、天候その他の外部データを合わせて、専門会社の協力を得てAIでの分析を行っています。これによって、「この場所でコインランドリーを開店したら、1年後までの年間売上はどうなるか」という予測シミュレーションまでできるようになりました。

 

また短いスパンでは、4~5日後くらいまでの降雨量などは、かなり正確に予測できるようになっていますので、4日先までの売上数字も合わせて予測可能になっています。つまり、今日から4日後まで「明日は32,000円、明後日は33,500円・・・」と売上数字が事前に予測できるということです。

 

 

もちろん、これらは予測シミュレーションなので、外れることもあります。また、まだまだデータが不足している面もあります。しかし、今後データが蓄積されていくにつれて、より正確なシミュレーションが可能となり、それを徹底的に使って、より精緻なマーケティング施策を実施することで、稼働率や売上の上昇に結びつくはずです。

 

次回は、商業施設内への出店に特化したコインランドリー店舗「ブルースカイランドリー」の収支シミュレーションを解説します。

取材・文/椎原芳貴
※本インタビューは、2018年4月5日に収録したものです。