サプライチェーン・ファイナンスの導入・・・得られた効果とは? ベンダーを使用した金属の形状加工作業(菊川工業株式会社・白井工場)

下請取引に関する2016年末のルール改正に伴い、下請事業者への支払いサイト短縮が強く求められている親事業者。そんな中、世界で名を馳せる金属加工メーカー菊川工業株式会社が、支払いサイトの大幅な短縮を可能とする仕組み「サプライチェーン・ファイナンス」を導入した。その狙いは何か? 本連載では詳しく探っていく。第5回目は、サプライチェーン・ファイナンスの導入で得られた効果について、より詳しく宇津野嘉彦社長にお話を伺った。聞き手は、電子記録債権を利用した決済プラットフォーム事業を展開し、サプライチェーン・ファイナンスを取り扱うTranzax株式会社の小倉隆志社長である。

「毎月20~30時間」かかっていた作業がゼロに

――Tranzaxのサプライチェーン・ファイナンスを導入したことで、業務フローはどのように変わりましたか?

 

菊川工業株式会社 代表取締役社長
宇津野嘉彦 氏
菊川工業株式会社 代表取締役社長 宇津野嘉彦 氏

宇津野 導入前は納品頂いた後に検収通知書を発行して、締日には各社に検収一覧表を発行し、「今月はこれだけ払いますよ」とお知らせしたうえで翌月に代金をお支払いしていました。サプライチェーン・ファイナンス導入後は請求書代わりの検収一覧表をTranzaxさんにお送りしたら、それでほぼおしまい。非常に支払業務が簡略化されました。

 

小倉 当社では検収一覧表を受け取ったら、それを電子記録債権化して各社にメール等で「今月はこれだけの売掛債権が発生しました」とお知らせします。そのうえで、早期資金化を希望される事業者がいたら、Tranzaxと菊川工業さんとで設立したSPCが1.2%の金利で債権を割り引いてお金を支払う。菊川工業さんの支払いサイトは締日の翌月払いですから、最大で1か月近く早く現金化できることになります。

 

一方で、通常の支払いを希望される事業者には支払期日通りに、SPCのほうから支払いが実行されます。このように煩雑な支払い業務をすべて当社が代行するので、それだけでも、大きなコスト削減に繋がるかと。

 

――具体的にどれだけのコスト削減効果がありましたか?

 

宇津野 時間で言うと、毎月20~30時間かかっていた作業がゼロになりました。経理部門の担当者を一人減らすこともできて、手形の管理コスト、印紙代など諸々合わせて100万円弱のコスト削減効果が出ていると試算しています。さらにありがたいのは、経営のスピードアップにも繋がっている点です。

 

以前は、締日から土日を除いて中5日で経営会議を開いていました。前月の実績をベースに翌月以降の経営方針を組み立てるためですが、土日をまたぐ場合には20日締めて月末に経営会議を開くということが少なくありませんでした。

 

「京セラは締日の当日17時に経営会議を開いているんだぞ!」とハッパをかけて改善をはかり、今では中2日が開くことができるようになったのですが、サプライチェーン・ファイナンスを導入したことで、さらに経営会議の開催を早めることができそうです。

 

菊川工業総務担当者の提案からサプライチェーン・ファイナンスの導入がなされた
菊川工業総務担当者の提案がサプライチェーン・ファイナンスの導入につながった

 

――導入・ランニングコストを差し引いても大幅なプラス?

 

宇津野 Tranzaxさんの前で明かしてしまっていいのかわかりませんが、導入コストは数千円というレベルでした。月々のコストも数万円なので、むしろTranzaxさんがどうやって稼いでいるのか心配になるほどです(笑)。

 

小倉 当社は電子記録債権の発行手数料や割引金利の一部などをシステム運用費用として頂いているんです。だから、導入コストはほぼゼロといっていいでしょう。さらに当社はシステム会社でもあるので、サプライチェーン・ファイナンスの仕組みを完全にシステム化しています。だから、運用コストも限定的。継続的に利用して頂けるほど、利益があがる仕組みなのです。

 

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「銀行よりも高い利率で割り引かれるんじゃないか?」

――導入に際して、取引会社の反応はいかがでしたか?

 

宇津野 一部では反発に似たものがありましたよ。「Tranzaxさんって、どんな会社なんだ?」「銀行よりも高い利率で割り引かれるんじゃないか?」とか。サプライチェーン・ファイナンスを導入するに際して、協力会社さんの担当者には本人確認資料を提出して頂かなくてはならないのですが、「なぜ、顔写真付きの身分証明書を提出しないといけないんだ?」という声もありましたね。

 

Tranzax株式会社 代表取締役社長 
小倉隆志 氏
Tranzax株式会社 代表取締役社長
小倉隆志 氏

小倉 一応、当社は金融機関と同じ扱いなので、本人確認資料の提出は必須なんです。ただ、協力会社さんのお気持ちは痛いほどよくわかります。Tranzaxという聞いたこともない会社のサービスを利用して、売掛債権を買い取ってもらったら「ノンバンクよりも高い金利を取られるんじゃないか?」と思うのが普通です。

 

銀行の金利が一番安いという先入観もある。手形の割引率でいえば、都銀が短プラ(1.475%)前後で、地銀、第二地銀、信金、信組、ノンバンクの順に金利が上がっていき、街金のようなところで割り引いてもらう場合には10%近くの金利を取られるケースも少なくありません。

 

宇津野 ただ、説明すれば協力会社さんもすんなり理解してくれました。Tranzaxの担当者さんも説明に奔走してくださいましたし。今では、協力会社間でのTranzaxさんの知名度は相当なものです(笑)。

 

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取材・文/田茂井 治 撮影/永井 浩 
※本インタビューは、2017年10月16日に収録したものです。

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Tranzax株式会社 代表取締役社長

一橋大学卒業後、野村證券に入社。金融法人部リレーションシップマネージャーとして、ストラクチャード・ファイナンス並びに大型案件の立案から実行まで手掛ける。主計部では経営計画を担当。経営改革プロジェクトを推進し、事業再構築にも取り組んだ。2004年4月にエフエム東京執行役員経営企画局長に。同年10月には放送と通信の融合に向けて、モバイルIT上場企業のジグノシステムを買収。2007年4月にはCSK-IS執行役員就任。福岡市のデジタル放送実証実験、電子記録債権に関する研究開発に取り組んだ。2009年に日本電子記録債権研究所(現Tranzax)を設立。

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