他社にはない「全建物・全棟・全フロア」の配筋検査
――貴社の品質管理を担っている技術監査部の仕事について教えてください。
井本 鉄筋コンクリート造建物の工事でコンクリートを打ち込む前に、柱・梁・壁・スラブ・基礎などの各鉄筋が正しく配置されているかどうかを確認する検査のことを「配筋検査」といいます。簡単に言ってしまえば、この検査を行うのが技術監査部の主な仕事です。建物の耐久性や強度に直接影響を及ぼすため、重要な検査と言えます。
黒木 特徴的なのは、当社の技術監査部は工事部と設計部と完全に切り離された部署だということ。というのも、工事部や設計部の中に設置してしまうと、“なあなあの関係”でどうしてもチェックが甘くなってしまいがち。そうしたことを避けるのが目的です。いってみれば、第三者機関のようなもの。
――会社にとって不都合でも、建物のクオリティのためには断固とした対応を取るということですね。
井本 そういうことです。たとえば、当社では全建物・全棟・全フロアの配筋検査を行っています。通常はサンプルとして一部分だけ検査すればOKなのですが、ここまで徹底しているのは、他社でもなかなかないのではと思いますよ。
――技術監査部の配筋検査をクリアできなかった場合、どうなるのですか?
黒木 当然ながら、コンクリート打ち込みのスケジュールは全てキャンセルされます。正しい配置に修正して技術監査部がOKするまで、コンクリートを打つことができません。逆に言うと、技術監査部はコンクリートの打ち込みをストップできる、大きな権限を持っているわけです。だからこそ、工事部や設計部とは完全に切り離したセクションなのです。
金銭的な負担が自社に強いられるとしても・・・
――一部外者からすると、大きな権限という感覚がいまひとつピンと来ないです。
井本 コンクリートの打ち込みには、多くの業者やミキサー車などのさまざまな段取りが必要になってきます。そして、これをキャンセルするということは全ての段取りをやり直さなければならず、工期が延びるだけでなく手間もコストもかかってしまい、しかも価格に上乗せすることができないので、社内で負担しなければなりません。
会社に対して大損害を与える判断と言えるだけに、もし技術監査部が工事部や設計部と関連していたら、二の足を踏んでしまうかもしれません。それが人情というものですからね。しかし、会社に金銭的な損害をもたらそうとも、正しく鉄筋を配置し直すのはオーナー様にとっては絶対必要なこと。建物の強度や耐久性に直接関わるだけに、「ちょっとぐらいいいじゃないか」では絶対済まされないことです。
――最近、大企業の不正が相次いでいますが、これらも「ちょっとぐらいなら大丈夫」という軽率な判断ですよね。
黒木 でも、場合によっては、会社にとって耳の痛い指摘や不都合な判断をしなければならないだけに、技術監査部のメンバーもなかなか辛いですよ。スケジュールをキャンセルされた工事部のスタッフは面白くないでしょうし、社内の目も気になりますからね。ただ、配筋検査をクリアできずにコンクリートの打ち込みをキャンセルした、なんていうケースはゼロとは言いませんが、ほとんどありませんから誤解のなきように(笑)。