アンバランスな需給関係が生む「高い空室率」
賃貸用住宅の空室率は年々、上昇の一途を辿っている。不動産・住宅情報サイトを運営するライフルホームズによると、全国47都道府県における空室率の平均は21.1%。地域別に見ると、賃貸需要が比較的安定しているとされる大都市圏でも東京都14.5%、愛知県16.1%、大阪府20.1%、福岡県18.9%と高水準。地方ともなると状況はさらに深刻で、茨城県27.5%、福井県30.1%、山梨県28.2%、長野県27.7%と、空室率が30%に迫ろうかという勢いだ。
こうした背景には、何よりも人口減少に伴う需要の縮小がある。だが、その一方で、賃貸を目的としてアパートやマンションを建設する「貸家」の着工戸数は41万8,543戸で、前年比10.5%増と大きく伸びているのだ(国土交通省「2016年建築着工統計調査」)。ちなみに貸家が40万戸を超えるのは、2008年の46万4,851戸以来8年ぶりのこと。需要が減っている上に供給が増えれば、空室率が上昇するのは当然だろう。
賃貸用住宅の建設が増えている要因は、近年の不動産投資ブームに加え、都心部での単身世帯の増加や低金利という情勢下で金融機関がアパートローンに注力していることなどが挙げられる。2016年からマイナス金利が導入されたことも、これに拍車をかけている。だが、最も直接的な要因は2015年に施行された相続税増税である。
相続税の改正により、相続する人数によって変わる非課税枠が改正前の「5,000万円+(法定相続人の数×1,000万円)」から「3,000万円+(法定相続人の数×600万円)」となり、これまで相続税の課税対象ではなかった層が、税金を納めなければならなくなってしまった。そして周知の通り、相続税対策として有効とされるのが賃貸経営である。遺族が相続する場合に、相続税や贈与税の計算を行う際の基準となる「相続税評価額」が、現金や株をそのまま残すよりも、賃貸住宅を建てると低い実勢価格で評価されるため節税効果が高いのだ。
だが、マンション経営で家賃収入や節税効果を目論むにしても、前提となるのは入居者で空室が埋まり、安定した経営が図られてこそ。つまり、昨今の空室率の上昇は、物件のオーナーにとっては有難くない状況なのである。
30~40年の長い年月に耐え得る「高価値」な物件
――空室率の上昇に加え、工事費の高騰による物件価格の上昇で利回りも低落傾向になるなど、賃貸経営にとっては逆風が吹いている昨今です。こうした状況は、貴社にどのような影響を及ぼしていますか?
井本 確かにおっしゃるような市況ではあるのですが、実はそうした市況の影響を受けにくいのが当社の営業スタンス。物件のほとんどが主要駅から徒歩10分圏内に立地する高家賃・高容積のものです。
家賃が高く取れる好立地の場所にしか、営業をかけないんですよ。たとえば、駅から徒歩15分以上かかるような立地だと、そもそも入居率が上がらないし、年月を経るにつれて物件の価値も家賃も下がるので、長期的に高い収益性を確保するのが難しい場合があります。
――では、地方や郊外はあまり視野に入れていない?
黒木 そうですね。空室率を見ても、地方でマンションを経営して高い収益を出すというのはなかなか厳しい。基本的には東京や大阪、名古屋といった大都市圏が主な対象です。
もちろん神奈川や千葉、埼玉などの関東エリアにも当社の物件はありますが、たとえば埼玉なら大宮や川口といった主要駅から徒歩圏内といったように、高い家賃が取れる立地であることが必須条件。30~40年の長い年月に耐え得る高価値な物件であることが大前提ですからね。
――東京都心部では相変わらずタワーマンションの建設ラッシュが続いていますが、一方で供給過剰も指摘されています。まだまだビジネスの余地があるとお考えですか?
井本 2020年の東京五輪を契機に再開発が目白押しですから、これから家賃が上昇するエリアが出てくるはず。JRの田町駅―品川駅間には山手線・京浜東北線の品川新駅(仮称)もできますし、駅周辺に新たな街並みが整備されれば近隣エリアの家賃も上がるでしょう。そう考えると、まだまだ東京は魅力的な市場だと思います。