近隣の環境にも配慮したいマイホームのデザイン
――マイホームをデザインするうえで注意しているのはどんな点でしょうか?
山本 前回に言いましたように、クライアントの要望を可能な限りかたちにする、ということに尽きます。その次に、近隣の環境にも配慮するよう心掛けるようにしています。やはり、近隣の人たちに対して失礼のない設えは大事です。大層な資産家で、簡単に家を買い替えられる人ならばともかく、多くの方は購入された家で長い人生の大半を過ごすことになります。
ですから、近隣の方から嫌がられるような家は、クライアントが建てた瞬間は満足していても、長期的視点には居心地の悪い家になってしまうのです。なにより、若い方がマイホームを新築される場合には、そこで子育てをすることになります。子供はそのマイホームで「家ってこういうものなんだ」と学んで大きくなっていくわけです。そのときに、周囲の環境から“浮いた”家は、ふさわしくないと感じています。
決して、子供は家族だけに囲まれて育つわけではない。まずは学校、そして近所の方々などと接しながら社会について学んでいくわけですから。
独特の温かみがある無垢材は、調湿効果にも優れる
――そんな奇抜なマイホームを求める人もいる?
山本 それほど多くはありません。地方に豪華な別荘を建てたいという方のなかには、ものすごい予算を用意して、自分の要望を全部取り込んだ奇抜な別荘を建ててほしいという方もいますが(笑)。やはり多いのは、ローコストの家を求める方です。特に独立したての頃は坪45万円で建てたいという依頼もありましたね。
確かにローコスト住宅を売りにしているハウスメーカーもたくさんありますけど、当然、安さには理由があるわけです。建材は安物で、施工も雑になりがちです。だから、ローコスト住宅を求める方には、「あなたはそのような家に一生住む覚悟がありますか?」と念を押します。長い目で見たら、要所要所でお金をかけたほうが、最終的なコストは安く済んだりもするのです。
その典型は、無垢材のフローリングですよね。安い、賃貸住宅で使われるフローリング材は入居者の入れ替えの際に、貼り替えるのを前提にしたものです。一方、無垢材は本当に一生もの。傷がついても、へこみができても、素材が生きているので修復することができます。独特の温かみがあって、調湿効果にも優れているので、マイホームにも負荷がかからない。
――多少高価な建材を使ったほうが、将来の修繕コストが抑えられるということですか?
山本 もちろん、お金をかけなくても快適な住環境を長く維持する方法はありますよ。例えば、家のなかに風の通り道をつくり、心地よい日差しが差しこむように随所に窓を設置するだけで、エアコンに頼らずに快適性を保てる家ができます。当然、家に対する負荷も小さい。家のデザインを工夫することで実現できるものと、特定の建材でしか実現できないものとがあるわけです。