日本企業の多くは定年を60歳に設定しています。年金の受給は原則として65歳からなので、それまでの間、再雇用で働く人が多くなっています。しかし、その際、たいていは給与が定年前と比べて減額されます。不合理な場合は争う手段もありますが、なかなかそうもいきません。実は、足りない分をある程度補う公的な給付金もあります。その制度「高年齢雇用継続基本給付金」について解説します。
「24時間戦ってきたのに…」60代ビジネスマン「定年後再雇用」で給料が“60%にダウン”も…知らないと損する「国からの給付金」 (※写真はイメージです/PIXTA)

60歳以降、給料はどれくらい下がる?

国税庁の2021年(令和3年)民間給与実態統計調査によると、年齢階層別の平均給与額は、「55歳~59歳」が529万円なのに対し、「60歳~64歳」が423万円と、20.0%低くなっています(【図表1】)。

 

国税庁「2021年(令和3年)民間給与実態統計調査」より
【図表1】年齢階層別の平均給与額の推移(男女) 国税庁「2021年(令和3年)民間給与実態統計調査」より

 

なお、性別ごとにみると、男性は「55歳~59歳」が687万円なのに対し、「60歳~64歳」が537万円と、21.8%低くなっています(【図表2】)。

 

国税庁「2021年(令和3年)民間給与実態統計調査」より
【図表2】年齢階層別の平均給与額の推移(男性) 国税庁「2021年(令和3年)民間給与実態統計調査」より

 

女性は「55歳~59歳」が316万円なのに対し、「60歳~64歳」が262万円と、17.1%低くなっています(【図表3】)。

 

国税庁「2021年(令和3年)民間給与実態統計調査」より
【図表3】年齢階層別の平均給与額の推移(女性) 国税庁「2021年(令和3年)民間給与実態統計調査」より

 

これらの結果をみると、定年後の給与はだいたい平均して定年前の80%くらいに下がるということになります。

 

しかし、これはあくまでも平均です。なかには、もっと減額の幅が大きい人もいます。

 

もちろん、業務内容がほとんど変わらないのに減額の幅が大きすぎるとみられる場合には、違法となり、裁判等で争う余地があります。

 

ちなみに、近年の地裁レベルの裁判例では、定年前の60%を下回った分について違法としたものがあります(名古屋地判令和2年(2020年)10月28日)。

 

逆にいえば、60%くらいまでのカットは許容されると覚悟しなければならないのかもしれません。

 

60歳前後のビジネスマンの方であれば、ちょうどバブル期は青年期の働き盛り。当時流行った「♪24時間戦えますか~」というCMソングを覚えていることと思います。

 

その後、バブル崩壊からの平成不況、リーマンショックと、厳しい時代を、休日も常に仕事のことが頭から離れず、文字通り、「24時間戦う」という気持ちで猛烈に働いて会社に尽くしてきた方からすれば、釈然としないものがあるかもしれません。

減額分をカバーする公的制度「高年齢雇用継続基本給付金」

実は、定年後に同じ職場で継続雇用となり、給料が下がった人のために、減額分についてある程度カバーしてもらえる制度があります。

 

それが「高年齢雇用継続基本給付金」です。

 

雇用保険に基づく制度で、60歳以降、給料が75%未満に減額された場合に、減額の幅に応じて給付金をもらえる制度です。

「高年齢雇用継続基本給付金」の受給要件

高年齢者雇用継続給付金の受給要件は以下の通りです。

 

【高年齢者雇用継続給付金の受給要件】

・60歳以上・65歳未満の「一般被保険者」である

・60歳以降に継続雇用となった

・60歳時点と比べ、60歳以降の給料が75%未満になった

・雇用保険に5年以上加入している

 

ちなみに、再雇用ではなく、定年退職後に別の勤務先に再就職した場合には、「高年齢再就職給付金」という似た内容の制度が用意されています。