前回は、自益信託で発生した赤字が「損益通算」できるのかを確認しました。今回は、共有名義になっている不動産での信託の活用法についてみていきます。 ※本連載は、2015年10月に刊行された税理士・鈴木和宏氏の著書、『検討してみよう! 家族信託の基礎知識』(ファーストプレス)の中から一部を抜粋し、スムーズな不動産移転や、残された家族の生活を守る方法についてやさしく解説します。

不動産の共有は持分の相続が起こると複雑に・・・

夫:O市のT区の不動産が兄と共有になっているのを知っている?
妻:あなたの財産について興味がなかったから知らないわ。
夫:所有者が共有になっていると何かと不便だから処分しようと思っている。
妻:あらそうなの。お兄さんも賛成しているの?
夫:これから話をしようと思っている。
妻:でも、お兄さんは売るのを嫌といったらどうする?
夫:それは困るな。
妻:まして、少しもの忘れがひどいと先日あなたがいっていたじゃない。

 

相続人が複数いる相続では、場合によっては、遺産分割の協議でひとつの不動産を複数人の相続人が共有することもあります。

 

時が経ち平均年齢が80歳を超える兄弟姉妹3人で、賃貸マンションを共有しているケースがあったとします。その内の誰か1人が先に亡くなるとどうなるでしょうか? その子どもたちである甥や姪などに持ち分が相続され、通常共有者の数が増えていき複雑になります。

 

そうなると将来の売却や大規模な修繕について全員の意見がまとまらず、手の施しようがなくなってしまう可能性があります。しかも、兄弟姉妹の中に認知症予備軍の方もいると大変です。

持分のある人の受託者を決め、信託契約を結べば安心

そこで、その子どもを受託者として信託契約を結んで、財産管理に支障がないように検討する必要があります。さらに将来全員で売却して金銭を共有者で分配しようということになった場合でも、受託者である子どもとその他の兄弟姉妹で話し合いがまとまれば売却することも可能になります。

 

万が一、家族信託を組まない状況で共有者の1人でも意思判断ができなければ、売却や大規模な修繕もできない可能性があります。また、共有者間の仲が悪い場合は、円滑な管理ができないこともあります。

 

こうしたケースでは、共有物分割請求により、最終的には競売にかけ財産配分を行うことになる場合もあります。信託のスキームを利用することにより、第三者、または共有者の1人を受託者とし、各共有者の権利を受益権に変えておけば、円滑な管理ができて安定的な収益を図ることもできます。

 

先手必勝で、信託を設定しておけば、親族間の争いを予防できる可能性が高まります。

検討してみよう!  家族信託の基礎知識

検討してみよう! 家族信託の基礎知識

鈴木 和宏

ファーストプレス

家族信託とは、信頼できる家族・親族や知人などが財産の預かり手(財産管理をする者)となり、「高齢者や障がい者のための安心円滑な財産管理」や「柔軟かつ円滑な資産承継対策」を実現しようとする民事信託の形態です。家族の…

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