前回は、オーストラリアの不動産を日本人が購入する際のポイントを説明しました。今回は、オーストラリア(クイーンズランド州)不動産の相続手続きについて見ていきます。

被相続人の没後「人格代表者」の選任が必要となる

まず、オーストラリアに不動産を有する日本人が亡くなった場合の相続において、どの国の法律が適用されるのかが問題となりますが、オーストラリアは英米法系の国ですので、アメリカやイギリスなどと同様に、不動産については不動産の所在地国の法律を、また、それ以外の動産については被相続人の国籍または最後の住所地の法律を適用するという考え方に立っています。

 

従って、オーストラリアに存在する不動産の相続についてはオーストラリア法が適用されることになります。

 

そして、オーストラリアにおける相続法の考え方はアメリカやイギリスと同様に管理清算主義をとりますので、被相続人が亡くなった場合、まず、人格代表者といわれる者に被相続人の財産がいったん帰属し、その者のもとにおいて相続財産が管理・清算され、その後に残余財産がある場合にのみ、人格代表者が相続人に対して財産を分配することになります。そのため、人格代表者と呼ばれる者の選任が必要となります。

 

これは、被相続人が遺言を残しており、その中で遺言執行者を定めているときはかかる者がこれに当たりますが、被相続人が遺言を残していない場合、遺産管理人と呼ばれる者が裁判所により選任され、その任に当たります。

遺言がないと不動産を売却する際の手続きが複雑になる

以下、遺言がある場合とない場合とに分けてその手続きについて説明します。なお、オーストラリアもアメリカと同様に連邦制をとっており、州ごとに法律が異なるため、本連載においては、最も日本人が不動産を購入しているクイーンズランド州(ゴールドコーストやメルボルンなど)の場合を検討することとします。

 

①遺言がある場合

 

まず、被相続人が遺言を残していた場合の手続きから説明します。この場合、遺言において遺言執行者として指定されていた者が裁判所に対して遺言の検認を申し立てます。裁判所は申し立てに基づき審理を行い、遺言執行者を選任します。選任された遺言執行者はまずは被相続人の債務(税金等)の支払いを行い、その後残った財産を遺言の内容に従って相続人に分配します。

 

②遺言がない場合

 

遺言がない場合、オーストラリア法に照らして、相続人となる者が裁判所に対して遺産管理人選任の申し立てを行います。先ほど触れた通りオーストラリアは州ごとに法律が異なりますので、不動産の存在する州の法律を検討する必要があります。

 

クイーンズランド州の場合、被相続人が亡くなったときに配偶者がいるかどうか、また、子がいるかどうかにより、相続人となる人の範囲及びその相続割合が異なります。

 

生存配偶者がいて、子がいない場合、生存配偶者が残りの相続財産のすべてを取得しますが、子がいる場合は、子の人数により、相続割合が異なります。

 

いずれの場合でも、まず、生存配偶者が被相続財産のうち最初の15万豪ドルと家財道具(Household Chattel)を取得しますが、その後、子が1人のみの場合には、生存配偶者が残りの財産の2分の1を取得し(従って、子は残りの財産の2分の1を取得します)、子が2人以上の場合には、生存配偶者が残りの財産の3分の1を取得します(従って、子らが残りの財産の3分の2を取得し、均等に相続がなされます。すなわち、子が2人の場合、各人が残りの財産の3分の1を取得します)。生存配偶者がいない場合、子が均等の割合で相続します。

 

このように、遺言がない場合、複数の法定相続人があるときには、不動産がこれら相続人の間で共有状態に置かれることになり、その後不動産を売却する場合の手続きも複雑になることが予想されます。

 

また、仮に日本で遺産分割協議を行っていたとしても、その内容がオーストラリアの裁判所を拘束するものではありません。

 

よって、オーストラリアに不動産を有している場合には、予期せぬ結果となる可能性がある法定相続とならないように、あらかじめ遺言を作成して、不動産の相続人を定めておくことが重要といえます。

本連載は、2014年9月18日刊行の書籍『海外資産の相続』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

海外資産の相続

海外資産の相続

永峰潤・三島浩光

幻冬舎メディアコンサルティング

金融商品や不動産など、海外資産の相続は、手続きが面倒なため、家族の誰も欲しがらないお荷物になってしまうことが多い。ただでさえ複雑な日本の相続税に、国や地域によって異なる税制が絡んでくるため、その処理にも煩わされ…

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