「水平型M&A」「垂直型M&A」とは何か?

M&Aといっても、会社ごとにマッチングの種類やシナジー効果は異なります。今回は、M&Aのマッチングについて4つの分類を確認するとともに、①水平型M&A、②垂直型M&Aの二つについて見ていきます。

M&Aの「マッチング」は大きく四つに分類できる

一口にM&Aといっても、マッチングの種類やシナジー効果はさまざまです。ここからM&Aのマッチングについて、

 

①水平型M&A

②垂直型M&A

③コングロマリット型M&A

④周辺市場進出型

 

の、大きな四つのくくりとして分類・整理しておきます。

 

[図表]買い手企業のM&A 戦略4 分類

 

 

同じ業種・業態の企業が買い手になる水平型M&A

最初は、図表の①にあたる「水平型」のM&Aです。主に同業種・同業態の中で行われるM&Aです。円の内側は距離的な近さを表し、円の外側ほど遠方ということになります。

 

例えば、石川県金沢市で伝統工芸品を製造している会社が同業で同県・同郷の企業に買収されるようなケースでは、①の中でもほぼ円の中央に位置することになります。買い手の企業が同業でも、福井県や愛知県というふうに遠方の企業になれば、円の外側に位置することになります。

 

「水平型」M&Aは、本業のシナジー効果を見込んで行われます。本業のシナジー効果の中には、大きく「規模」と「エリア」があります。買収によって規模が大きくなれば、スケールメリットが発生することから原材料や商品の仕入れが有利になるばかりか、特定の地域内でプライスリーダーとして価格決定権を持つこともできます。

 

また、M&Aによって事業エリアが広がれば、規模のメリットに加えて露出度が増すことで認知度が高まり、ブランディングに好影響を与えることもあります。また例えば食品小売や飲食業では、特定エリア内ばかりの出店拡大には自ずと限界がありますが、エリアが異なる地域なら更地からの顧客開拓も可能です。

 

具体例で見てみましょう。かつてヤマト運輸は、同業の運送会社を買収したりして営業エリアを広げていきました。旧運輸省の許認可がいまより厳しく、容易に他県で営業する権利を得られなかったからです。次第に営業エリアを拡大し、やがて初めて小口荷物の全国宅配サービス「宅急便」を完成させたのでした。また近年では、牛丼チェーンのすき家を運営するゼンショーが同業のなか卯を買収するなどして、規模では𠮷野家を上回る全国チェーンを完成させています。

 

同じようなことが、全国の中小企業間で、また中小企業が売り手で大企業が買い手といった形で行われています。身近なところでは、取引先や業界団体などの集まりで日ごろから面識や商取引がある同業の会社などです。もちろん、見ず知らずの遠方の同業種企業が買い手候補となる場合もあります。

 

注意したいのは、買い手の規模や面識の有無にかかわらず、足元を見透かされて買い叩かれないようにすることです。というのも、買い手が同業種の場合、事業のスキームはもちろん、仕入れ値から業界の今後の展望までお見通しだからです。

 

特に、売り手のオーナー社長の体調が急に悪化したのに後継者が不在の場合や、事業成績がいまひとつで苦し紛れに売りに出るようなケースは要注意です。「売り急いでいる」という印象が強くなれば、その分だけ売値は期待できなくなります。そのようなケースでは、2~3年前からビフォーM&Aの一環として、コンサルタントを招くなどして企業価値を高めておくことが有効なこともあります。

製造から販売までの一気通貫を狙う垂直型M&A

次いで、事業の川上から川下までを一気通貫させる「垂直型」のM&Aがあります。上記の図では、円内を縦に囲んだ部分にあたります。

 

水平型と同様に「多角化」を目的としたM&Aですが、同業種の中でも業態の異なる川上、川下の会社を買収し、それによってシェアの拡大や技術力や利益率の向上を狙うというものです。例えばアパレルを例にすると、川上のほうには原材料を供給する会社があり、そのやや下流にはデザインや縫製などを行うメーカーがあります。

 

さらに川を下っていくと、卸や小売といった消費者により近い業態になっていきます。製造だけを行っていたアパレル会社が、小売店やネット通販の会社をM&Aで買収することで、製造販売に乗り出すことができます。卸や小売店に取られていたマージンがなくなる分、利益率の向上などに寄与することができます。

 

逆にアパレル販売を行っていた会社が縫製会社やデザイン会社を買収することで、店頭の品揃えを豊かにするなど、独自の販売戦略や商品ラインナップを展開できたりします。

 

有名なところでは、例えば印刷会社トップの大日本印刷が、新刊書店に加えて古書販売のブックオフにも出資している例があります。出版や書籍の分野で中流から上流に位置する印刷会社が、下流にある小売(書店)に影響力を及ぼすことで、一気通貫を狙うというものです。また居酒屋チェーンのワタミはタクショクを買収し、「食」という事業の中で宅配食というより消費者に近い川下分野を手に入れた形です。

 

もっともこのケースは、外食から介護関連という次項で説明する「コングロマリット型」といえなくもなく、水平型や垂直型の両方を兼ねた例ともいえるでしょう。また、買い手の会社が1社目のM&Aで「垂直型」のシナジー効果をある程度発揮した後、今度は横の「水平型」のシナジーも模索して2社目のM&Aを手がけるケースもあります。例えば製造販売を完成させたファーストリテイリングは、いまや海外アパレルブランドのM&Aにも積極的です。

 

③コングロマリット型M&Aと、④周辺市場進出型については、次回の連載で説明します。

本連載は、2013年9月20日刊行の書籍『会社を息子に継がせるな』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載勝ち残る中小企業のM&A活用法

株式会社スターシップホールディングス 代表取締役兼CEO

税理士・米国公認会計士。東京の独立系M&A専門会社にて、後継者難の企業に対するM&Aコンサルティング、M&Aによる企業再建コンサルティングを手掛ける。その後、監査法人系公認会計士事務所にてベンチャー企業の新興市場への公開支援業務、企業価値評価業務を手掛ける。

著者紹介

会社を息子に継がせるな

会社を息子に継がせるな

畠 嘉伸

幻冬舎メディアコンサルティング

現在、9割の中小企業経営者が後継者不在という問題を抱えています。息子がいない、いても“家業"に興味を示さない、あるいはオーナー社長が手塩にかけてきた会社を任せられるほどの才気がない。だからといって、廃業を選んでし…

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